児童ポルノ巨大ビジネスの闇~裸の“自撮り動画”拡散の裏側~

児童ポルノ巨大ビジネスの闇~裸の“自撮り動画”拡散の裏側~
子どもの性的な動画や画像「児童ポルノ」をめぐる事件があとを絶ちません。SNSを通じてことば巧みに近づいてきた大人に裸の動画を送らされるなど、児童ポルノの被害にあった子どもは去年1320人にものぼりました。
私たちはある児童ポルノサイトが摘発された事件について、1年以上にわたって取材を進めてきました。
取材からは、児童ポルノの巨大な闇マーケットが知らない間にできあがり、大勢の大人たちが金儲けのために子どもの裸に群がって、動画を世界中に拡散させている実態が見えてきました。
(名古屋放送局 記者 佐々木萌/中川聖太、ディレクター 大間千奈美)

児童ポルノという巨大ビジネス

去年6月「AVMarket」という国内最大級の児童ポルノの販売サイトが摘発されました。運営者の1人は逮捕後、こう供述したと言います。
“絶対に日本の警察がわれわれを捕まえることはできないという自信があった。日本随一のポルノマフィアと自負している”
運営者は、サイトの動画データや決済の管理などをアメリカやハンガリーといった海外の法人を介して行い、拠点を分散させることで日本の捜査を逃れていました。

これまでにサイトの運営者や児童ポルノをサイトで販売していた出品者などあわせて53人と、運営に関わった3つの法人が検挙されました。

サイトの会員数は2万人。運営者は月に億単位の巨額を稼いでいました。
驚いたのはサイトを巨大化させていたシステムでした。
児童ポルノをサイトに出品していたとして検挙されたのは23人。中には会社役員や学校職員などもいました。なんと数千万円から1億円もの金を稼いでいるものもいました。

私たちは当初、こうした人たちはみんな性的な関心から売買に関わっているものと思い込んでいました。
しかし、検挙された出品者の9割は、児童ポルノ自体にはなんの関心もない人たちだったのです。

なぜ児童ポルノの売買に手を染めていったのか。
私たちは検挙されたひとりひとりを訪ね、話を聞くことにしました。

出品者“手軽なビジネス”

私たちが最初に会ったのは40代の出品者。2年間で1300万円を稼いでいました。

その出品者は運送業の仕事をしていましたが、持病が悪化し職を失いました。何か仕事がないかインターネットで探していたところ、アダルト動画販売の広告を見つけました。
売買は違法ではないかのように紹介されていたといいます。

これなら体への負担も少なく持病のある自分にもできると感じ、動画の販売を始めました。しかし、最初はあまり稼ぎをあげることができませんでした。

あるとき成人の動画より、はるかに高値で売買されている動画の存在に気づきました。
それは児童ポルノ、すなわち子どもの裸の動画や画像でした。
出品者(40代)
「金額も本数も買う人数も、(大人と比べ)30倍から50倍くらい違いますね。作業自体は簡単で、長くても1時間くらいあれば販売までできて、寝っ転がってできるような感じなので、それで何十万と稼げたらやはり普通に外に出て仕事しようという気にはならなかったですね。労力は全然かからなくても、収入は前の倍はあるので。正直、ちょっと引くに引けないところがありました」
児童ポルノの販売にのめり込んでいくうちに、当初あった罪悪感が薄まっていったと言います。
出品者(40代)
「売買を続けていいのか悩んでいた時期もありましたが、どんどん売り上げが増えていくうちにお金目的だけになったような感じですね。被害者と直接関わったわけではなく、ネットからネットで横流ししているような感じなので、あまり罪の意識というのはなかったと思います。罪悪感もなくはないんですけど、かなり薄れていました。どんどん売り上げが増えていくうちにお金だけになったような感じですね」
検挙された出品者たちに共通していたのは、児童ポルノを撮影するなどいわゆる「製造」には関わっていないということでした。

SNS上にアップされている自撮り動画を拾ったり、サイトで購入した動画に編集を加え、さらに高値で販売したりするなど、いわゆる「転売」でもうけていました。

別の50代の出品者は、副業を探していて児童ポルノサイトにたどり着きました。

警察に検挙されたときには、その理由がわからないほどに罪の意識が希薄になっていたといいます。
出品者(50代)
「自分で作らなくていいわけですからね。ゼロのものが売れます。逆に言うと“石ころが売れる状態”ですからね。何の興味もない子どもの裸の動画が、拾ってきたら売れるわけですから。今思えば、普通にダブルワークして、昼の仕事終わってカフェでもなんでもバイトしてたらよかったのになと思います」
児童ポルノを販売し拡散させていた「出品者」たち。
本人たちは驚くほど無自覚で、罪の意識に欠けていました。

巧妙に子どもに近づく大人たち

出品者たちが転売していた児童ポルノはどのように製造されたものなのか。その製造の過程を見たことがあるという出品者に接触しました。

語ったのはインターネットのライブ配信で、画面越しにリアルタイムでつながった子どもたちを、ことば巧みに操る大人たちの姿でした。
出品者
「ライブ配信でちょっと胸見せるやつとか、そういうやつが多いですね一番。自撮りと呼ばれるものが多いですね。例えばハートをほしいとか(配信者の応援や配信を盛り上げるための)アイテムを投げるんですよ。1000円のアイテムとかだったり、500円の。アイテム投げるからおっぱい見せてよとか、どんどん女の子がはまっていくんですよね」
出品者
「『かわいい』と言ってつけこんで、ことばでのせて脱がせる。最初は簡単なところから、『逆立ちして』とか。逆立ちすると服がめくれるじゃないですか、そこからいくんですよ。ちょっとずつステップアップしていく感じになります。
今、19歳の女子大生を連れ出すのはめちゃくちゃ難しいですよ。脱がせるのも難しいでしょう。100万積んでも脱がないと言うと思いますので。子どもたちはハート1個で脱いでしまう」
サイトで売られていた動画の多くは、子どもたちがみずから撮影した「自撮り」動画だったといいます。
いずれも、大人たちがことば巧みに送らせたものだったと見られています。

売買を助長する“アフィリエイター”

そしてもう一つ、児童ポルノマーケットを巨大化させていた仕掛け。
それはブログなどでサイトを宣伝する「アフィリエイト広告」です。

ブログや個人のウェブサイトなどで、商品を宣伝し、閲覧者がそこからサイトに移動して商品を購入するなどすれば報酬が支払われます。
アフィリエイターたちは、「AVMarket」のリンクやバナーを掲載し宣伝。購入者や出品者をサイトにいざない、マーケットを巨大化させていました。

そのアフィリエイターの1人に取材しました。
アフィリエイター
「児童ポルノの人気需要がすさまじかったです。AVMarketの宣伝だけで、月200~300万円くらいあったのではないかと思います。私などは目先のお金に目がくらんだような感じです」
アフィリエイターもまた、金目当てに罪の意識が希薄なまま関わり、違法なサイトを支えていました。

生き残るインフラ

摘発から1年余り。私たちはホワイトハッカーに協力を求めて、児童ポルノのマーケットがその後どうなったのか調べました。

協力してくれたのはCheenaさん。凄腕のハッカーです。
調査を始めてまもなく、気になるアダルトサイトにたどり着きました。
サイト内には、「AVMarket」と似ているデザインやことばの数々が。ネット上のIPアドレスを調べると「AVMarket」の運営者が使用するものと一致していました。

海外サーバーを使用している点や、アフィリエイトによって拡大させる仕組みも酷似していました。
わずか1年で後継とみられるサイトが生まれていたのです。
Cheenaさん
「やはり違法サイトを支えるインフラが、どうしても残ってしまう。関係者が逮捕されても少ない人員で同じようなサイトを構築することは可能なので、また同じようなことが起きてもおかしくないのかなと思っています」
犯罪インフラは生き続け、違法ビジネスの素地はいまも残されたままです。

子どもたちを守るために

取材で児童ポルノの実態に深く迫れば迫るほど、「どうすれば子どもたちを守ることができるのか」、なすすべのない無力感のようなものを感じました。

しかし、まずはこの実態を見つめて、できることをひとつずつやっていくべきではないかと感じます。

今回取材した警察や弁護士、専門家らが口をそろえて必要性に言及したのは、罰則強化の検討でした。

「児童ポルノ禁止法」では、児童ポルノを不特定または多数に提供すれば、5年以下の懲役や500万円以下の罰金などと定められています。

ただ今回の事件では、出品者のほとんどが初犯だったため、50万円の罰金だけで済みました。また、月に数億円を稼いでいたサイトの運営者は、わいせつ物頒布等の罪で有罪となりましたが、執行猶予がつき、罰金も200万円ほどでした。
一方で、サイトを宣伝し、収益を得ていたアフィリエイターについては、児童ポルノの販売にどうつながったのかの立証が難しく、捜査を進めているものの摘発には至っていません。

専門家らは児童ポルノの売買で得られる利益の大きさに比べて、処罰が軽すぎて、犯罪の抑止につながりにくいのではないかといいます。

さらに児童ポルノに詳しい弁護士は「子どもの裸には経済的な価値があると認識すべき。覚醒剤などと同じように営利目的の売買を特に重く処罰するなどの検討も必要だ」と指摘しました。

逮捕者の中には「こんなに手軽に児童ポルノを出品し、金儲けができてしまうこと自体が悪いんだ」と話す人すらいて、私たちも実態に即した法整備を考えていく必要があるのではないかと感じました。

また保護者や周りの大人たちにもできることはあると思います。
「うちの子は大丈夫」と思うかもしれませんが、たまたま親戚の家で親が目を離したすきに被害にあってしまったり、オンラインゲームのチャットから被害にあってしまったりするケースもあります。

被害にあわないために、まず巧妙化する自撮り動画を送らせる手口について常に新しい情報を入手すること。そして、スマホやSNSの使い方について家庭でルールを決めたうえで、子どもがどんなSNSを利用しているのかなどを把握し見守ることが改めて必要ではないでしょうか。

子どもたちを守るために、何ができるのか。これからも取材を続けたいと思います。
名古屋放送局 記者 
佐々木萌
2019年入局 愛知県警を担当 少年事件や詐欺事件などを担当
名古屋放送局 記者 
中川聖太
2020年入局 愛知県警や司法を担当 少年事件、交通事件を取材
名古屋放送局 ディレクター 
大間千奈美
2018年入局 国際番組部を経て名古屋局 人権問題に関心がありLGBTQ、在留外国人問題などを取材