本気のメタバース 広がる先にはビジネスも

本気のメタバース 広がる先にはビジネスも
あのフェイスブックが会社の名前を「Meta(メタ)」に変更するほど、本気になっているのがメタバース。オンラインにつくられた仮想空間で、思い思いのアバターで「生活」できるというものです。ゲームみたいなものだとたかをくくっていたら、実はリアル感あふれる会議から土地の売買まで、ビジネスの面でも動きが出ているのです。インターネットで次に来るのはコレ、とも言われるメタバースの世界を私と一緒にのぞいてみませんか。(経済部記者 岡谷宏基)

メタバースの世界を訪ねると

早速、メタバース空間の1つ、「バーチャル渋谷」を訪れてみましょう。

バーチャル上に、もう1つの渋谷が。

あのスクランブル交差点や若者が集う109も結構リアルに見えます。
この日はハロウィーンのイベントが開催されていて、街も装飾され、にぎやかです。

ここなら少しはめを外してもDJポリスに怒られることもありません。

バーチャル渋谷ではスクランブル交差点でライブが開かれていました。
現実にはできないこともできるのが魅力の1つです。

スマホ1つで誰でも参加でき、イベントの期間中(10月16日~31日)に、のべ55万人が訪れたとのことで、盛り上がりの一端を感じました。

実は昔からあるメタバース

改めてメタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間で、いわば現実とは違う、もう一つの世界のことをいいます。

meta(=英語の超越、超)とuniverse(=宇宙)を組み合わせた造語です。

自分好みのアバターで参加し、国境を越えてコミュニケーションをとることができます。

実はこのことば、1992年に発表されたSF小説が起源だと言われています。

2000年代に一世をふうびした仮想空間「セカンドライフ」もメタバースの走りだと言われています。

世界の巨大企業が次々と…

最近、メタバースが注目を集めたきっかけがフェイスブックの社名変更です。

10月28日、巨大IT企業が「SNS」から「メタバース」企業になると宣言し、開発を加速させるため今後5年間でIT人材を1万人採用するとしています。

記者会見でザッカーバーグCEOは次のように情熱を語りました。
ザッカーバーグCEO
「どれだけ離れていても、あたかも人がそこにいるかのように感じることができる。メタバースが次のフロンティアだ」
すでにメタバースのバーチャル会議室「Horizon Workrooms」を公開。

私も体験してみましたが、一般のオンライン会議と違い、パソコンの画面がそのまま映り込みます。

手を動かせば反応しますし、右側の人の声が右側から聞こえるなど、オンライン会議がかなりリアルに感じられるのには驚きました。

ライバル企業の参入も相次いでいます。

11月2日、マイクロソフトは会議ソフトteamsにアバターで参加できるようにするMesh for Teamsを来年にも提供する計画を発表しました。

11月10日にはアメリカのウォルト・ディズニーが決算会見でメタバースへの参入を準備していることを明らかにしました。

チャペックCEOは「これまでの私たちの取り組みは、物理的な世界とデジタルな世界を、より密にむすびつけ、独自の『ディズニー・メタバース』における国境のない物語が可能になるまでの序章にすぎない」と述べました。

ビジネスの面で大きな動きになりつつあることを感じます。

日本企業も動き出す

こうしたメタバース構築を目指す動きは、日本でも加速しています。

メタバースに「2~3年で100億円を投資する」と宣言したのが、ゲーム会社のグリーです。

担当役員にオンラインの取材をお願いすると、登場したのはアバター役員でした。
リアル世界ではグリーの上級執行役員 荒木英士さんですが、メタバースの世界では「DJ RIO」さん。

メタバースとは、何なのか。

今のSNSやゲームとはどう違うのか。

率直な疑問をぶつけてみると、3つの要素をあげてくれました。
1.アバターによるリアルタイムのコミュニケーションができること
 文字だけではなく、アバターを介して会話でやりとりをすることが可能。

2.オープンな空間が存在し、その空間を利用者自身が拡張できること
 アバターが移動し、そこで誰かに出会う体験ができる。

3.「クリエーターエコノミー」
 メタバースでの活動によって、お金を稼ぐことができ、経済活動が成立。
DJ RIOさんこと、グリーの上級執行役員 荒木さんは
「いまは、現実社会の補完としてオンラインが存在しているが、ゆくゆくはその関係性が逆転していく。メタバースが発展していくには、その中で人々が活動していくことが必須で、その条件の1つが、経済活動が生まれることだ」と話していました。

仮想のトーキョーができつつある

メタバースがゲームのような世界、とまだ半信半疑の方も多いと思います。

しかし、今、日本で仮想の街をつくる動きも出ています。

その名も「メタトーキョー」。

この世界では実際にビジネスが動きだそうとしていると聞いたら、ちょっと驚かれるでしょうか。
「メタトーキョー」にはデジタルアートの美術館が存在します。

飾られていたのは、仮面のようなアート作品。

なんと一点、5万円するものもあるそうです。

マーケットをのぞいてみると、アバターが着る服やデジタル作品、さらには土地まで売買されています。
支払いは、このメタバース専用の暗号資産。

デジタルであれば簡単に複製もできて、とても仮想空間でアート作品買うなんて怖そうですが、こうしたことを可能にしているのが、「NFT」と呼ばれる技術です。

ブロックチェーンの技術が使われています。

簡単にいえば、デジタルで作ったモノに付けられた売買の証明書。

これによりオリジナルであることが証明され、価値がコピーできないようになっているのです。

「メタトーキョー」のデジタルアートの美術館を運営しているのは「アソビシステム」。

きゃりーぱみゅぱみゅなどが所属する芸能事務所です。ここに人を集めることで、文化の発信にもつなげたいとしています。
中川社長
「ここから始まるリアルとネットエンタメの融合に、可能性を感じている。メタバースは一方通行ではなく、コミュニケーションをとれる場所。メタバースを活用することで、ファンの熱量を熱くして、ファンをより濃いファンにしていくことができるんじゃないかなと思っています」

リアルな感覚をもたらす技術も

ビジネスに続き、感覚をリアルに近づける動きも始まっています。

東京都内のスタートアップ企業「H2L」は腕に付けた機器から電気信号を送ることで、バーチャル上のたかが乗った重さやつっつかれた痛みを現実に近い感覚で分かる技術を開発しました。
玉城社長
「より深い感覚を共有することで、ただメタバースで体験しただけではなくて、本物の体験として臨場感あふれる体験がえられる。一生のうちに、人間が体験できる限界量を越えてくる」

課題は

こうしたメタバースが広がっていくうえで、心配されることはないのでしょうか。

メタバースに詳しい専門家に聞いてみました。
渡辺教授
「著作権やプライバシーの問題などメタバース上でトラブルがあった際に、どの国のルールに沿って判断するか難しい。安心して楽しめるようメタバース上のルールを、できるだけシンプルに、かつ、全世界的にまとめるというのが、今後メタバースが広まる上で重要になってくる」

次に来るのはコレか

さまざまな企業が我先に、と取り組むメタバース。

現実とは別の世界で、いろんな生き方ができるようになるかもしれません。

それも感覚も共有するリアルな形で。

思い返せばスマホやSNSが登場したとき、最初はまさか、毎日持ち歩いて、ネットにアクセスして、友人とチャットをやりとりして、動画を見るなんて想像もできませんでしたが、そんな技術の階段をのぼろうとしているタイミングなのかもしれません。
経済部記者
岡谷 宏基
平成25年入局
熊本放送局を経て現所属
情報通信業界を担当