都立高校の3年生だった内川起龍さん(23)は、5年前の平成28年7月、水泳の授業で行われた飛び込みの練習で事故にあいました。
起訴状などによりますと、授業では教諭がスタート台からおよそ1メートル先で水面から71センチ以上の高さにデッキブラシを差し出し、その上を越えて飛び込むよう指示したということです。
水泳部だった内川さんは教諭の指導に従って飛び込み、プールの底に頭を打ちつけたといいます。
当時の状況について「デッキブラシを差し出されたときは『怖い』のひと言でした。頭をぶつけたあと体は動かず、水中にいるのに冷たいという感覚さえもありませんでした」と振り返ります。
内川さんはけい髄という首の骨の中にある神経を損傷して手足に強いまひが残り、首から下を自由に動かすことができなくなりました。
スポーツが得意で、小学生のときの将来の夢は水泳選手でした。
体操部だった中学時代には関東の選手が集まる大会で6位になったこともありますが、事故のあとは車いすでの生活を余儀なくされ、食事や入浴なども母親やヘルパーの介助が必要だということです。
高校を卒業したら自動車業界で働きたいと就職活動を進めていましたが、諦めざるをえませんでした。
内川さんは「ベッドにいるときは頭を上げることすらできず、自分だけでは何もできないことがつらいです」と悔しさをにじませます。
事故から5年後、裁判所の異例の判断で正式な裁判が始まり、審理に参加した内川さんは、教諭が事故についてどう考えているのか知りたいと直接、質問したり、意見を述べたりしました。
検察は「若い被害者が思い描いていた未来の夢を無残に打ち砕いた」として罰金100万円を求刑していますが、内川さんは禁錮以上の実刑を望んでいます。
教諭は停職6か月の懲戒処分を受けたあと現場に戻っていますが、禁錮以上の刑が確定した場合は教員免許を失うことが法律で定められているからです。
判決を前に内川さんは「教諭は『反省している』と言っていましたが、弁明を繰り返しているように感じました。自分としては実刑になってほしいし、教師も辞めてほしいと思っています。言い方はよくないかもしれませんが『1人の人間を壊した』というくらいの気持ちでいてほしいと思っています」と話しています。
高校の水泳授業で飛び込み指示し生徒に大けが 22日 教諭に判決
5年前、都立高校の水泳の授業中に飛び込みを指示し、生徒に大けがをさせたとして、業務上過失傷害の罪に問われた教諭の判決が22日、東京地方裁判所で言い渡されます。
検察が罰金を求刑している一方、被害者の男性は「罪に向き合ってほしい」と禁錮以上の実刑を求めています。
平成28年、東京 江東区の都立高校で水泳の授業中に、高校3年生の男子生徒が大けがをした事故では、教諭の松崎浩史被告(49)がデッキブラシを越えてプールに飛び込むよう指示し、首のけい髄を損傷する大けがをさせたとして、業務上過失傷害の罪に問われています。
検察は去年、教諭を略式起訴しましたが、裁判所が略式での審理は相当ではないとして正式な裁判が開かれる異例の経過をたどりました。
裁判で教諭は起訴された内容を認めて「人生を狂わせてしまったことを深くおわびします。決して故意で行ったわけではないことは認識してほしい」と謝罪し、検察は「危険性の高い指導を安易に行った」として罰金100万円を求刑しています。
一方、事故の影響で首から下が自由に動かせなくなった被害者の男性も車いすで裁判に参加し「罪に向き合ってほしい」と述べて、禁錮以上の実刑判決を求めました。
裁判所が刑の重さをどのように判断するかが焦点で、判決は午後4時に東京地方裁判所で言い渡されます。
この事故のあと、東京都教育委員会はすべての都立高校で水泳の授業中の飛び込みを禁止したほか、日本水泳連盟も指導者向けのガイドラインを公表するなど対策が強化されました。
被害者の元生徒 “禁錮以上の実刑を望む”
飛び込み練習 全国各地で事故相次ぐ
水泳の授業などでの飛び込み練習をめぐってはこれまでに全国各地で事故が相次いでいて、国も学習指導要領を変えて規制を進めてきました。
スポーツ庁によりますと、水泳の授業での飛び込みは平成20年までは、小学4年生から高校まで認められていましたが、この年の学習指導要領の改訂で小・中学校については飛び込みは原則として行わないことになりました。
高校については平成30年の改訂で1年生は水中からのスタート、2年生と3年生も水中からのスタートを原則に、生徒の能力や実態に応じて行うと改められました。
産業技術綜合研究所の北村光司主任研究員が、平成26年度に日本スポーツ振興センターが補償を行った小中学校や高校などでのプール事故5591件を分析した結果「スタートや飛び込みの衝突事故」は318件あり、このうちおよそ3分の1にあたる110件は高校での事故だったということです。
北村研究員は「年齢や個人のスキルを基準に規制するのではなく、十分な深さのあるプールでなければやめるなど具体的な対策が必要だ」と話しています。
また、自身も保健体育の教員で、水泳の授業の在り方について全国各地で指導にあたる桐蔭横浜大学の井口成明准教授は「競技としての水泳」と「身を守るための水泳」を分けて考えるべきだと指摘します。
井口准教授は「日本は水難事故が多く、誰でも泳げる技術を身につけることは必要だが、飛び込みによるスタートは競技のみで必要な技術だ。日本のプールは両端の水深が浅いものが多く、飛び込みの危険性が高いので、学校の授業では行わず、大会などに向けて練習する必要がある場合は、水深が深いプールを借りて行うなどの工夫をすることで事故は防げるのではないか」と話しています。
スポーツ庁によりますと、水泳の授業での飛び込みは平成20年までは、小学4年生から高校まで認められていましたが、この年の学習指導要領の改訂で小・中学校については飛び込みは原則として行わないことになりました。
高校については平成30年の改訂で1年生は水中からのスタート、2年生と3年生も水中からのスタートを原則に、生徒の能力や実態に応じて行うと改められました。
産業技術綜合研究所の北村光司主任研究員が、平成26年度に日本スポーツ振興センターが補償を行った小中学校や高校などでのプール事故5591件を分析した結果「スタートや飛び込みの衝突事故」は318件あり、このうちおよそ3分の1にあたる110件は高校での事故だったということです。
北村研究員は「年齢や個人のスキルを基準に規制するのではなく、十分な深さのあるプールでなければやめるなど具体的な対策が必要だ」と話しています。
また、自身も保健体育の教員で、水泳の授業の在り方について全国各地で指導にあたる桐蔭横浜大学の井口成明准教授は「競技としての水泳」と「身を守るための水泳」を分けて考えるべきだと指摘します。
井口准教授は「日本は水難事故が多く、誰でも泳げる技術を身につけることは必要だが、飛び込みによるスタートは競技のみで必要な技術だ。日本のプールは両端の水深が浅いものが多く、飛び込みの危険性が高いので、学校の授業では行わず、大会などに向けて練習する必要がある場合は、水深が深いプールを借りて行うなどの工夫をすることで事故は防げるのではないか」と話しています。