中国メディア 不明テニス選手の動画投稿 事態の沈静化ねらいか

中国の前の副首相との関係を告白したのち、行方が分からなくなったと伝えられている女子テニス選手について、共産党系メディアの関係者が、選手の最近の様子だとする動画をツイッターに相次いで投稿しました。選手の安否への懸念が国際的に広がる中、中国側は事態の沈静化を図るとともに、北京オリンピックに影響を与えることを避けたい思惑があるとみられます。

20日 ツイッターに動画投稿

中国の女子プロテニスの彭帥選手をめぐっては、共産党最高指導部のメンバーだった張高麗前副首相から性的関係を迫られたことなどを告白したとされる文書がSNS上に投稿され、その後、行方が分からなくなったと伝えられています。

これまでにアメリカ政府や国連の機関が彭選手の安否や所在を明らかにするよう求めているほか、大坂なおみ選手など著名なテニス選手からも懸念の声が上がっています。
こうした中、共産党系のメディア、環球時報の胡錫進編集長はツイッターに、彭選手が20日、北京市内のレストランでコーチや友人と夕食を共にしたとする動画を投稿しました。
さらに、胡編集長は21日、彭選手が21日朝、北京市内で行われたジュニア選手のテニス大会の式典に出席したとする動画を投稿したほか、環球時報の別の記者は、彭選手が会場で笑顔でサインに応じたとする動画を投稿しました。

中国側としては、影響力のある共産党系メディアの関係者からの発信を通じて事態の沈静化を図るとともに、今回の問題が開幕まで2か月余りに迫った北京オリンピックに影響を与えることを避けたい思惑があるとみられます。

投稿は英語 国外への発信意識か

ツイッターに投稿された彭帥選手が夕食をとったとされるレストランは、北京中心部の天安門広場から西に2キロほどのところにある四川料理の人気店です。

この店の店長が21日、NHKの取材に対し明らかにしたところによりますと、映像に映っているグループは、現地時間の20日午後6時すぎに訪れ、個室で食事をとったということです。

グループは8人だったということですが、当時、店内がとても混雑していたこともあり、彭選手がいたかどうかは、はっきりと覚えていないと話していました。

一連の投稿が行われたツイッターは中国国内では利用が制限され、一般的には国民は閲覧できないことになっていますが、投稿は英語で行われるなど、中国国外への発信を意識したものとみられます。

専門家 「告発は異例中の異例」

中国情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、この問題について「最高指導部のメンバーだった前の副首相が名指しされ告発されることは、異例中の異例だ」と指摘しました。

また、前の副首相との関係に悩んだ本人の意思による投稿だった可能性もあるとする一方、そのタイミングについては「重要会議である『6中全会』の直前に投稿されたことが非常に不可解だ」としています。

そのうえで「張高麗前副首相は江沢民元国家主席と関係が深い人物で、習近平国家主席からすると敵対する派閥だ。習主席が権力基盤固めに入ると、そういった勢力への威嚇が大事になる」として、来年の共産党大会の人事をにらんだ政治的な思惑も絡んでいるのではないかという見方を示しました。

また、WTA=女子テニス協会のトップや著名な選手たちが懸念を示す中、中国側が相次いで女子テニス選手の写真や動画を投稿するなどしていることについて「一度も選手本人から発信されておらず、それが疑念を募らせている」として、国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)できていないと指摘しました。

さらに「国際的な世論が盛り上がり、この問題が来年、北京で開かれる冬のオリンピックに絡んできている。中国側も非常に焦ってきていて、写真や動画を投稿している」と述べ、中国側が、北京オリンピックに影響を与えないよう事態の沈静化を図っているという見方を示しました。

女子テニス協会「動画だけでは不十分」

彭帥選手の最近の様子だとする映像が公開されたことを受けて、WTA=女子テニス協会のスティーブ・サイモンCEOは20日、ホームページで声明を発表しました。

この中でサイモンCEOは、「彭選手の様子を見られたのはいいことだが、彼女が自由の身で、圧力や干渉を受けず、みずからの意思で判断や行動することができているかは依然として不透明だ。この動画だけでは不十分で、彭選手の健康と安全について引き続き懸念している。何が必要なのかはすでに明らかにしたとおりで、WTAと中国の関係は現在、岐路に立っている」とコメントし、調査が適切に行われなければ、中国での大会開催の見送りなども辞さないとする立場を強調しました。

IOC委員「中国に強硬な対応を迫らざるを得なくなるだろう」

彭帥選手をめぐる問題について、IOC=国際オリンピック委員会で最古参のディック・パウンド委員は20日、ロイター通信のインタビューに対し、「問題が近く解決されない場合、収拾がつかなくなる」としたうえで、「IOCとしても、中国に強硬な対応を迫らざるを得なくなるだろう」と述べました。

そして、来年2月に開幕する冬の北京オリンピックについて、「開催の中止はないと思うが、先のことはどうなるか分からない」と述べ、大会の行方にも影響を及ぼしかねない問題だという認識を示しました。

こうした中、IOCの広報担当者は、「多くのアスリートや各国のオリンピック委員会が示した懸念に感謝する。私たちは中国におけるオリンピックムーブメントと、あらゆるレベルで開かれた対話を続けていく」とコメントしています。

また、現役のスポーツ選手や元選手などで構成されるIOCの選手委員会もツイッターに声明を発表し、「IOCの対応が、彭帥選手の消息や安全についての情報につながるとともに、彼女が同僚の選手たちと直接話す機会が設けられることを期待している」としています。