“ビッグボス” 新庄剛志 監督の発信力に迫る

“ビッグボス” 新庄剛志 監督の発信力に迫る
プロ野球「日本ハム」の新監督となった新庄剛志さん。就任会見でみせた、現役時代と変わらない「新庄節」。

その発信力の秘密に「週刊まるわかりニュース」のキャスター、井上二郎アナウンサーが迫りました。

(週刊まるわかりニュース・キャスター 井上二郎、記者 本澤俊一、チーフディレクター 中川丈士)

新庄監督が始動

11月4日の就任会見は、プロ野球に新庄さんが帰ってきたことを強く印象づけるものでした。
新庄監督
「監督って皆さん呼ばないでください。ビッグボス!日本ハムを変えていきますし、僕がプロ野球を変えていきたいなという気持ちで帰ってきました」
秋のキャンプで早速、新庄流の指導をスタート。

車の屋根にのぼって、送球の高さを指示したり、外野の選手に内野を守らせたりしていました。
新庄監督
「暴れまっせーほんまに!これからは、セ・リーグでもない、メジャーでもない、パ・リーグでもない、新庄剛志です」

巧みなことば選び

新庄監督のことばは、なぜ、強く印象に残るのか。

「声に出して読みたい日本語」の著者で、プロ野球好きでもある明治大学教授、齋藤孝さんに聞いてみました。
齋藤教授
「監督就任の記者会見の様子に引き寄せられました。目を外せないという感じでしたね。瞬間的に最高の語彙をセレクトをして、いちばんいいものをもってくる。この能力は、普通ではちょっとみられないものです」
会見に衝撃を受けたという齋藤さんが、まず注目したのはこのことばです。
新庄監督
「優勝なんか一切目指しません。一日一日、地味な練習を積み重ねて何気ない試合、何気ない一日を過ごして勝ちました。勝った、勝った、勝った、勝った。それで9月あたりに優勝争いをしていたら、さあ!優勝目指そうと」
齋藤教授
「『優勝なんか、一切目指しません』というのは『あれっ?』と思いますよね」

「日本人の日本語の使い方からすると珍しいタイプのように思います。話すうちにだんだんいいことばが出てくるのが日本人によくある順番ですが、新庄さんは最初に『えっ』と思うことばを持ってくる。こんなキャッチーなことばづかいをする人はあまりいないですよ」

「絶対優勝するぞと言うと景気がいいですけど、それが選手を萎縮させてしまう。『まずは1勝、その日その日の1勝なんだよ』と。これが選手にとっていちばん力を出しやすい心の持ちようであると、選手のことを思って言ったことばだと思いますね」

監督としての資質も“十分”

新庄監督の現役時代は、無類の勝負強さに、華麗な守備、そしてその意外性から人気を集めました。

齋藤さんは、選手としてだけでなく、監督としての資質も十分だといいます。
齋藤教授
「秋キャンプで新庄監督が清宮幸太郎選手に対して『体重を落としたら』と。『体重を落とすと球が飛ばなくなる気がするんです』という清宮選手に対して、『今でも大して飛んでないよ』と。そんなこと言いますかねというくらいスパンと言う。それは、清宮選手に対しては甘やかすより厳しめに言ったほうが伸びるだろう。そういう判断なんじゃないかと思います」

「一方で吉田輝星投手には、『僕が現役時代だったら打てないよ、こんな速いの』という言い方をしていますね。たぶん、吉田投手に必要なのは自信だと考えたからだと思いますね。一人一人の今の性格と状況に合わせてコメントしている」

人を動かす「ことばの力」とは

そして、齋藤教授が最も印象に残ったのが、このことば。
新庄監督
「夢はでっかく、根は太く」
齋藤教授
「『夢はでっかく、根は太く』 これが印象に残りましたね。日本人にとって七五調はリズムがよくてしかも覚えやすい。心に残ることばなんです。コメント力があるなと思います」
井上二郎アナ
「夢」と「根」の対比は、どういうことなんでしょう?
齋藤教授
「根のほうは、現実主義者としてしっかり技を磨いていこうという、地味な練習を示すと思います。夢は上に伸びて、根は下に伸びるんです。根をどんどん太くして土台をしっかりしていこうよと。これが地味な練習。新庄ビッグボスの考え方がぎゅっとこめられたナイスなスローガンだと思います」
井上二郎アナ
新庄さんのことばには、「夢」とか「楽しく」とか、前向きな単語が多くちりばめられていますよね。
新庄監督
「夢に向かって」
「夢はでっかく」
「楽しいことを見つけて」
「楽しく厳しく」
齋藤教授
「ことばって力があるんです。ことばを聞いた人の心の中に残って作用してしまう。ネガティブなことば、否定的なことばをかけるとそうなってしまう。これからのリーダーは、明るさ、共感する力、発信する力、こういうものが必要になると思うので、新庄監督はシンボルになる存在かなと思います」
井上二郎アナ
一方で、ことばを発することで責任も出てくる。そこの怖さはないのかと思うのですが…。
齋藤教授
「私たちは、言ったことで言質を取られて『やっていないじゃないか』と言われるのが嫌なので、控えめに言う習慣があると思うんです。新庄さんは、そこを多め多めで言ったうえで責任は自分が取ればいいということで、最初に責任のとり方を明確にしていると思います」

「あえて自分から申し出た1年契約ですよね。1年契約はすごい覚悟で、優勝目指しませんと言いながら1年契約で勝負をかけているのが選手に伝わると思うんですよ。責任の取り方も明確にしているので、攻めに出ることもできるんじゃないですかね」
新庄監督
「新しい野球というものをつくっていきますんで。乞うご期待」
思い切ったことを言うのは、勇気がいりますよね。

でも、「自分はこうやりたい」とことばにすることで、責任感が芽生え、アイデアが生まれ、組織の強さにつながっていくのだと齋藤さんは言っていました。

改めて、ことばの力を感じた取材でした。