“米中新冷戦”アメリカと中国は何を考えている?特派員が解説

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談が行われました。オンラインですが、2人の顔を合わせての会談はことし1月のバイデン政権発足以来初めてです。

米中関係が「新冷戦」とまでいわれるほど冷え込み、台湾海峡での緊張も高まる中、注目点は何なのでしょうか。

特派員がわかりやすく解説します。
(ワシントン支局・高木優支局長 中国総局・大山吉弘記者)

会談の注目点は?

(高木支局長)
ポイントは安全保障分野などでの米中関係の「安定化」です。

台湾海峡での緊張が高まるなか、まずは、偶発的な事故が衝突に発展しないよう、最低限の信頼を醸成できるかどうかです。

その背景には、2001年に中国の海南島近くの南シナ海上空で、アメリカ軍の偵察機と中国軍の戦闘機が接触し、中国軍機が墜落したようなことが、仮にいま起きれば、軍事衝突につながりかねないとの危機感があります。

台湾海峡の緊張が軍事的衝突につながる危険性は?

バイデン大統領は11月、「衝突は心配していない」と述べました。

しかし、アメリカ軍関係者のあいだでは、台湾海峡有事への警戒が強まっています。デービッドソン前インド太平洋軍司令官は3月、議会公聴会で、中国軍による台湾侵攻が「6年後(2027年)までに顕在化するおそれがある」と警告し、注目されました。

バイデン政権は歴代政権と同様、「台湾は中国の一部だ」と主張する中国の立場を認識する「1つの中国」政策をとっていますが、台湾への関与は強めています。

中国が台湾に侵攻すれば、アメリカが軍事的に介入し、衝突に発展する可能性が高いと見られているだけに、中国に侵攻を思いとどまらせるための抑止力をいかに高めるかの議論が、アメリカでは急速に活発になっています。

中国はどう対応する?

(大山記者)

中国にとっては、「核心的利益」の中でもとりわけ重要な台湾に対するバイデン政権の関与は、絶対に放置できません。

中国も台湾に武力行使に踏み切れば大きな代償を伴うことは分かっていますが、台湾独立の動きは見逃せないため、台湾側に軍事的な圧力をかけ、偶発的な衝突の危険も高まっています。

それだけに、今回の会談で、アメリカとの対立の緩和につなげられるかが注目されます。

米中の対立は台湾問題だけなの?

(ワシントン・高木支局長)

それだけではありません。

アメリカは、
▼中国の急速な軍事力の増強と東シナ海や南シナ海での力による現状変更の動き、
▼知的財産権の侵害や国有企業の優遇といった不公正な経済慣行、
さらに
▼新疆ウイグル自治区や香港などでの人権や民主化をめぐる状況を
とりわけ問題視しています。

さらに、アメリカが一番、警戒しているのは、中国が、民主主義の模範と自負するアメリカの立場を脅かす存在になりつつあることです。

バイデン大統領は「民主主義と専制主義の競い合い」と位置づけ、戦後、常にアメリカが中心に立ってきた国際秩序が崩れ、アメリカの国際的な影響力や利益が損なわれることへの警戒感を隠していません。

<アメリカの関与と中国の発展>

歴史を振り返ると、アメリカ側が中国に接近しました。

アメリカ側が中国に関与し、アメリカ主導の秩序のもとで、中国は「世界の工場」と呼ばれるまでに成長し、「リーマンショック」では危機に陥った世界経済をけん引しました。

一方、中国は、軍事力も増し、東シナ海や南シナ海への海洋進出も活発化させ、周辺国との摩擦が増えていきます。

こうしたなか、習近平氏が党のトップとなり、国内では、言論統制などを通じて、党の指導を強化。

また、巨大経済圏構想「一帯一路」や、ハイテク分野で世界トップ水準を目指す「中国製造2025」などを公表しました。

そして、トランプ前政権が2018年に、中国からの輸入品に高い関税を課し、中国側もそれに報復措置をとる「貿易戦争」が勃発した頃から、「新冷戦」という言葉が使われるようになりました。

バイデン政権は中国をどう見ている?

(ワシントン・高木支局長)

「最大の競合国」と位置づけています。前提にあるのは、オバマ政権まで続いた「関与政策」から得た教訓だとされます。

アメリカは、中国との関係強化を通じて、国際秩序に反する中国の行動を変えていこうとしたものの、南シナ海の島々の軍事拠点化などを食い止めることはできませんでした。

バイデン政権は、同じ民主党政権だったオバマ政権時と比べれば、格段に「対中強硬姿勢」を強めており、トランプ前政権とその点は共通しています。
バイデン政権でアジア政策を統括するNSC=国家安全保障会議のキャンベル・インド太平洋調整官は「中国に広く関与する時代は終わった。これからは『競争』が主要な規範となる」と明言しています。

バイデン政権の対中政策を読み解くキーワードは?

それは「3つのC」です。

競争すべきところは競争し、気候変動対策など協力できる分野では手を携える関係を構築しようとしています。「協力」「競争」「対決」という3つのカテゴリーに分けた米中関係です。

そしてもう1つのキーワードは「責任ある競争」です。競争を基軸とするが、危険な方向にエスカレートさせてはならないと強調しています。

具体的にはどうする?

バイデン政権は、中国が2030年ごろまでには経済規模でアメリカを追い越すと見られるなか、同盟国や友好国と手を組み、いわば「総合力」で中国と対抗しようとしています。

そのために、多国間の枠組みや2国間関係を強化し、それぞれに戦略的役割を担わせることで重層的に「対中国包囲網」を築こうとしています。

中核をなすのが以下の枠組みです。
● G7(政治・経済)
● クアッド(気候変動・感染症対策など広範囲)
● オーカス(軍事)
● D10(民主主義)G7+韓国・豪・印 (D=Democracy)

とりわけ、世界第3位の経済力と最先端技術力のある日本への期待は増しています。

日本とは外交・安全保障面での連携にとどまらず、半導体のサプライチェーンの構築や、電気自動車、AI=人工知能、量子コンピューターの開発など、いわゆる「経済安全保障」面で協力を深化させたい考えです。

一方の中国はアメリカをどう見ている?

(中国総局・大山記者)
中国は、「関与政策」を続けてきたアメリカが、トランプ前政権以降、一方的に強硬な姿勢をとっているとして、「理不尽だ」と受け止めています。

また、貿易や投資などを通じた両国関係の発展によって、アメリカも大きな利益を得てきたはずだと考えています。

その中国は、いまのアメリカの姿勢は、自国の発展を阻害している。そして、中国の体制に挑む姿勢を見せている、と受け止めています。

中国にとっては、共産党の一党支配という体制を維持することが最も重要で、これを脅かす動きは絶対に受け入れず、排除する構えです。

中国では、国民の間にも愛国主義的な動きが広がり、アメリカとの対立をいとわない雰囲気も出ています。

中国はアメリカ主導の秩序に挑むの?

習近平指導部は、「中国は、覇権を求めない。アメリカを敵視し、とってかわろうという意思もない」と繰り返し強調しています。

ただ、これを額面通り、受け入れるわけにはいきません。

習主席は、建国100年を迎える今世紀中頃までに、「社会主義の現代化強国を築く」という目標を掲げています。

「社会主義の現代化強国」とは?

アメリカを超える世界一の強国を目指す目標とも受け止められています。

中国は、民主主義などの西側のシステムは普遍的なものではなく、中国のやり方のほうが優位性があると考えているのです。

国営の新華社通信が、共産党の重要会議「6中全会」にあわせて配信した記事には、「2035年には東洋の大国(中国)は現代化を果たし、人類の世界地図は徹底的に塗り替えられる。『現代化は西洋化だ』という歴史認識を終わらせ、まったく新しい選択肢を提供する」と指摘し、中国が既存の世界秩序に挑む「野望」があることをうかがわせています。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、中国は、“権威主義国家”ならではの強制力を武器に素早く抑え込みを図ったことを大きな自信ととらえ、こうした主張を強めているように見えます。

中国は、アメリカに何を求めている?

中国の考え方が明確にわかるのがことし7月、王毅外相がアメリカのシャーマン国務副長官と会談した際に要求した「これだけは絶対に譲れない」という3点です。
いずれも中国が核心的利益とするものです。

ひとつめは、共産党の一党支配という、中国の社会主義制度に挑戦したり、転覆させようとしたりするな、という要求。

ふたつめは、通信機器大手ファーウェイに対する制裁など、中国のハイテク企業への抑圧をやめよ、ということなどを意味します。

そして3つめは、新疆ウイグル自治区やチベット自治区、香港、さらに台湾をめぐる問題への干渉をやめよ、という要求です。中国は、これらの地域で独立や民主化を求める声が拡大すれば、国家の分裂につながると、非常に神経をとがらせています。

米中の対立は今後も続く?

(ワシントン・高木支局長)。
冷え込んだ関係が長く続く可能性が高いと思います。

なぜなら、政治的分断が著しいアメリカですが、中国に厳しい態度をとることにおいては、超党派の合意が形成されているうえ、アメリカが重視する民主主義や人権の問題で、中国が歩み寄る可能性は低いからです。

アメリカでは来年(2022年)秋には中間選挙が、2024年秋には大統領選挙があり、その年は「選挙モード」に突入します。

バイデン大統領はことし夏以降、支持率の低迷に悩まされており、選挙に直結する国内問題への対処に手をとられてばかりいると、対中政策で十分な指導力を発揮できない可能性があります。

(中国総局・大山記者)
中国にとってアメリカは、中国の「野望」に立ちはだかる国です。

それだけに気候変動問題などのグローバルな課題をきっかけにアメリカとの対話を続け、全面的な対立は避けたい狙いです。

しかし、“3つの要求”など「核心的利益」が絡む問題で、中国がアメリカに譲歩する可能性はゼロで、今後、長期にわたって、対立が続くとみられます。

アメリカも政治の時期に入りますが、中国でも、来年後半、5年に1度の共産党大会が開かれ、党トップとして異例の3期目入りを目指している習主席にとっては、アメリカとの関係でも失敗できない重要な時期を迎えています。