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「私は一度 “殺された”」 ウイグル族女性の証言

「私は一度 “殺されました”。だから、報復は怖くありません」

こう話すのは、ウイグル族の女性です。
彼女は3年ほど前に2度、中国・新疆ウイグル自治区の施設に収容されたといいます。理由もわからず拘束されて拷問を受け、解放されるときには中国当局からは施設のことを口外しないよう脅しを受けたとも話します。

自治区には今も親族が残り、施設のことを話せば、当局から報復されるおそれもあるといいます。それでも彼女は、こう言い切ります。

「私は、決して沈黙しません」

(ワシントン支局記者 渡辺公介)

過酷な拷問

「あまりに過酷な拷問でした。一思いに殺してくれと、頼んだこともあります」

ウイグル族の女性、トゥルスナイ・ジヤウドゥンさん(43)は、中国・新疆ウイグル自治区の収容施設で受けたという拷問について、こう話しました。

2度収容され、3年前に解放されましたが、拷問で受けた精神的なショックから、しばらく悪夢にうなされ、突然叫び声を上げて起きてしまうこともあったそうです。夜になっても寝つくことができず、薬が手放せないともいいます。

中国で政治的な迫害を受けたとして、亡命を求めるアメリカで暮らすジヤウドゥンさん。これまでに、イギリスやアメリカのメディアの取材を受け、実名で証言してきました。

当時の話を聞かせてほしいと連絡を取ると、アパートに招き入れてくれました。そして、深く息を吐いたあとにゆっくりと話し始めました。

突然収容された“学校”

ジヤウドゥンさんは、新疆ウイグル自治区の北部の小さな村に生まれました。

周りは山に囲まれ、川が流れる自然豊かな土地で、幼い頃はきょうだいたちと静かで平穏な暮らしを送ってきました。

その後、30歳で結婚して隣国カザフスタンに移り住み、医師の夫が運営する診療所で看護師として働き、やりがいを見いだしていました。

そんな幸せな生活は、10年近く続きました。
ジヤウドゥンさん(左)と妹(右)
しかし、今から4年前、カザフスタンでの市民権を持っていなかったジヤウドゥンさんが、パスポートを更新するため、ふるさと新疆ウイグル自治区に戻った時のことです。

通りを歩いていると、突然、警察官に拘束されて、彼らが「学校」と呼ぶ施設に連れて行かれました。

「カザフスタンで何をしていた。アメリカと関係があるのか」

警察官は、カザフスタンに住んでいたことを理由に拘束したと説明し、執ように「何をしていたのか」を聞き出そうとしてきたといいます。ジヤウドゥンさんは「夫と暮らしていただけです」と何度も答えましたが、聞き入れてもらえませんでした。

“理由の無い”取り調べ

体調を崩したことから1か月ほどで解放されたジヤウドゥンさんですが、1年後、再び理由もわからず拘束されます。連れて行かれたのは、前回と同じ「学校」。

しかし、「学校」は、有刺鉄線を張り巡らされた高さ3メートルほどの塀に取り囲まれた施設に様変わりしていました。変わっていたのは建物の外観だけではありません。

2度目の拘束では、1週間に1回ほどの頻度で、警察官の取り調べを受けたといいます。「罪を告白しろ」警察官はそう言って、70を超える罪が書かれたリストを目の前に示し、一つ選んで署名をし、「自白」するよう迫ってきたといいます。

いずれの罪にも身に覚えのないジヤウドゥンさんは、それを拒否しました。

また、警察官は「カザフスタンで何をしていたのか」、「誰と連絡を取っていたのか」と取り調べのたびに聞いてきましたが、「何もしていない」、「誰とも連絡を取っていない」とジヤウドゥンさんは答えました。しかし、ジヤウドゥンさんが「自白」を拒み、質問に「答えられない」たび、待ち受けていたのが拷問でした。

終わらない拷問

両腕と両足を縛られたまま、不自然な姿勢で、長時間の取り調べを受ける。
殴る蹴るの暴行を加えられる。
体に電流を流される。
食事を2日以上与えられない。

ジヤウドゥンさんが拘束されたおよそ10か月の間、こうした拷問を受け続けたといいます。中でも、電流を流される拷問では、何度も意識を失いました。

「一思いに殺してほしい、私が何をしたの」

あまりの痛みにジヤウドゥンさんは、こう訴えながら警察官につかみかかったこともありました。しかし、別の警察官が駆けつけ、頭や腹を殴られ、動くことができなくなりました。

また、取り調べでは、彼女の人格や家族の存在を否定するようなことばを浴びせ続けられたというジヤウドゥンさん。毎日、毎日、そうしたことばを聞き続けるうち、目の前にいる警察官や施設の職員たちが「ごく普通の人間」のように思えてきて、何を言われても何も感じなくなっていきました。

突然連れて行かれた“診療所”

「女性を全員、診療所へ連れて行け」

ある時、施設で拘束されている女性全員が集められ、職員たちが、こう指示を受けているのが聞こえてきたといいます。そして、診療所の前には長い列ができていました。

ジヤウドゥンさんの順番となり、ベッドに横にさせられると、施設の職員が話し合う声が聞こえたといいます。

「出血がひどいし、夫はカザフスタンにいるから、不妊手術をしても意味がない」

その日も拷問を受けて、傷口から出血していたジヤウドゥンさんのことを話している様子でした。その内容から、診療所では強制的な不妊手術が行われていることを理解しました。

その後も拷問を受け続けたジヤウドゥンさん。

ある時、彼女が気を失っていると思ったのか、2人の警察官がこう話していたといいます。

「彼女は死ぬかもしれないな」
「大丈夫だよ、死なせてしまえばいい。子どもを産めなくしたり、殺したりする。それが上からの命令なんだ」

決して口を閉ざさない

2度目の拘束で施設に収容されてからおよそ10か月。カザフスタンにいる夫が解放を求める活動をしたことなどから、2018年12月、ジヤウドゥンさんは施設を出ることができました。

その後、中国を出国し、カザフスタンで夫と再会することもできました。

一方で、カザフスタンへ出国する際、中国当局から「施設の中で経験したことは一切話してはいけない。もし話せば家族が代償を払うことになる」と脅されたといいます。

それでも、施設の実態を明らかにしようと、カザフスタンでメディアの取材を受けましたが、自宅は何者かによって放火されました。

新疆ウイグル自治区で暮らす姉からは「何も言わないでほしい」と強くお願いされたともいいます。
アメリカで行われた集会で訴えるジヤウドゥンさん
しかしその後も、亡命を求めて渡ったアメリカで、ジヤウドゥンさんは、ウイグルの人権団体などとともに、国際社会に中国への圧力を強化するよう訴え続けています。

今も、多くのウイグル族の人たちが施設に収容されたり、自由に移動できなかったりしていて、その中には、ジヤウドゥンさんの親族もいるといいます。
親族の女性の夫と3人の子どもたち
その親族の女性は、2年間施設に収容され、解放されたもののパスポートを更新してもらえず、カザフスタンなどにいる8歳から14歳までの3人の子どもたちと6年間も会えていないといいます。

こうした状況を解決するため、中国当局からの報復も恐れず、声を上げ続けると、ジヤウドゥンさんは話します。
トゥルスナイ・ジヤウドゥンさん
トゥルスナイ・ジヤウドゥンさん
「中国政府を全く恐れていません。私は1度、施設の中で、“殺された”のですから」

「私には、6人のきょうだいがいて、まだ中国にいます。彼らのことを考えるたびに胸が張り裂けそうになります。しかし、今起きていることは、将来、ほかの人たちにも起こりえることです。これを止めなくてはならないんです」

「私には、新疆ウイグル自治区で何が起きているのかを伝えることしかできません。国際社会が手を差し伸べてくれることを信じています」

当事者一人ひとりの声に耳を傾ける

ジヤウドゥンさんの証言に対して、中国外務省は真っ向から否定し「一部の勢力が中国を中傷するために利用している道具であり、俳優だ」として、名指しで非難しています。
会見でジヤウドゥンさんらを名指しで非難する中国外務省報道官
一方で、彼女のように証言する、ウイグル族の人たちは世界中で後を絶ちません。

また国際社会では、アメリカやEU=ヨーロッパ連合などが新疆ウイグル自治区で深刻な人権侵害が続いているとして制裁措置を行っています。

これに、中国政府は事実ではないと反発し、激しい対立が続いています。

新疆ウイグル自治区で、実際に何が起きているのか。

声を上げ始めた当事者一人ひとりの声に耳を傾け、引き続き取材を進めていきたいと思います。
ワシントン支局記者
渡辺 公介 
2002年入局
国際部、ヨーロッパ総局、モスクワ支局、新潟局などを経て2021年7月からアメリカ国務省担当

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