7~9月のGDP 急速な感染拡大 消費低迷 企業の生産も落ち込み

内閣府が15日、発表したことし7月から9月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してマイナス3.0%と、2期ぶりのマイナスになりました。

データでみると、この時期は新型コロナウイルスの急速な感染拡大で緊急事態宣言が出され、消費が低迷したほか、世界的な半導体不足などの影響で自動車などの生産が大きく落ち込んでいました。

感染拡大で消費全体は低迷

こちらのグラフはクレジットカードの利用情報をもとに消費の動向をみた調査の結果です。この時期は全国の一日の感染者数が2万5000人を超えるなど感染が急速に拡大し、各地に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出されていました。

このため、感染拡大前と比べ交通や旅行、外食を含む「サービス消費」が落ち込んだ状態が続いていることが分かります。

いわゆる巣ごもり需要で「ネット通販」は大きく伸び、「モノ消費」も堅調に推移しましたが、「サービス消費」の落ち込みを埋めきれず、消費全体は低迷が続きました。

この時期は本来なら、東京オリンピック・パラリンピックの経済効果が期待されていましたが、実際の「サービス消費」はどうだったのか、内訳を詳しく見ていきます。

札幌のタクシー会社 運転手不足で需要うまく取り込めず

行動制限の緩和に伴って利用が回復してきているタクシー業界。しかし一部の会社は、運転手不足のため需要をうまく取り込めないという悩みを抱えています。
札幌市のタクシー会社「昭和交通」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、去年は売り上げが前年のおよそ25%にまで落ち込む月もありましたが、行動制限の緩和に伴って、先月の売り上げは前年のおよそ70%まで持ち直しました。

会社は夜の時間帯を中心にさらに利用が回復すると期待していますが、そこで課題になっているのが運転手不足です。売り上げが減っている間に退職する運転手が相次いだのです。

特に夜間に勤務する運転手が不足し、時間帯によっては稼働率が3割ほどにまで落ち込んでいるということで、おととし、1日平均で80%程度だったタクシーの稼働率は、およそ5割にとどまっています。せっかく盛り上がってきた需要をうまく取り込めないという悩み。

会社は、求人サイトの募集広告を増やしたり、採用説明会に積極的に参加するなどして、運転手不足を解消しようとしています。
昭和交通の樋富大総務課長は「これから年末に向けて繁忙期を迎えるのに、稼働率を上げなければ、ビジネスチャンスを逃してしまうことになる。何とかしてドライバーの確保を急ぎたい」と話していました。

外国人宿泊者数 記録的低水準続く

まずは、旅行の統計です。

国内のホテルや旅館の宿泊者数は、夏の観光シーズンにもかかわらず感染拡大前の半分以下に落ち込んでいることが分かります。

なかでも、特に経済効果が期待されていた外国人の宿泊者数は、2年前と比べて90%以上の減少という、記録的な低水準が続きました。

外食 明暗分かれる

外食は明暗が分かれました。

ファストフードは、持ち帰りや宅配で、自宅で東京オリンピック・パラリンピックを観戦する人の需要を取り込み、感染拡大前とほぼ同じ水準の売り上げを維持しました。

一方、パブ・居酒屋は、緊急事態宣言に伴う時短営業や酒類の提供停止で大きく落ち込み、期待された経済効果は得られませんでした。

高松の居酒屋 売り上げ完全には戻らず 人手不足や原材料高騰も

時短要請が全面的に解除され大きな打撃を受けていた飲食店の客足は徐々に回復してきています。しかし、原材料価格の高騰という新たな課題に直面しているところもあります。
高松市の居酒屋では、客足が徐々に戻ってきているということですが、感染防止のために使用する客席を減らしていることもあって、売り上げは感染拡大前の7割弱にとどまっているといいます。

また新たな課題にも直面しています。

時短営業の間に休んでもらったスタッフの中には、すでに別のアルバイトを始めている人が少なくないということで、今後、客足が回復した際に、必要な人手を十分確保できない可能性があるのです。

さらに経営を圧迫しているのが原材料価格の高騰です。店で使っている食用油や野菜や肉などが軒並み値上がりし、原材料にかかるコストは全体的に1割程度上昇しているといいます。

コストの上昇分を価格に転嫁しようにも、この店ではことし春に一部のメニューで価格を引き上げたばかりで、ようやく客足が戻ってきたこのタイミングでの値上げは考えられないといいます。
「海鮮居酒屋・神童ろ」の北島準章店長は「少しずつ客が戻りだした時に原材料価格が高騰していて、利益が圧迫されている。原材料価格が落ち着くまで今は耐えるしかない」と話していました。

焼き鳥チェーン 原材料価格高騰で人気メニュー削除

東京と千葉で16店舗を展開する焼き鳥チェーンは、緊急事態宣言が出されていた7月から9月はほとんどの店舗で休業し、一部の店舗のみで時短営業を続けました。
キッチンカーや宅配のほか、昼間の時間帯はフルーツサンドの専門店に屋号を変えて営業するなど、新たな業態にチャレンジして生き残りを図ってきましたが、売り上げは大きく落ち込みました。

しかし、時短要請が解除された先月下旬からすべての店舗で通常営業を再開し、客足は徐々に戻ってきていて、直近の売り上げは去年のおよそ8割まで回復してきているといいます。
売り上げのさらなる回復に期待がかかる中、新たな課題になっているのが鶏肉や油などの原材料価格の高騰です。

会社によりますと先月の原材料価格は、去年の同じ月と比べて、国産の鶏肉が6%、海外産の鶏肉が40%以上、から揚げやチキン南蛮などの揚げ物に使うサラダ油が40%以上、それぞれ値上がりしています。

また、アメリカ産の牛肉も25%値上がりしていて、以前は外国人観光客などに人気があった牛肉の串焼きをメニューから削除しました。コスト高を吸収しきれず、価格への転嫁も難しいと判断したためです。
焼き鳥チェーンを展開する「KUURAKUGROUP」の齋藤光絵さんは「今後も原材料価格が上がり続けたら大きな痛手になるので、今からメニューなどを見直していきたい。緊急事態宣言が解除されてもコロナ以前の生活に完全には戻りきれない部分があると思うが、これまで外食を我慢されていたお客さんが少しずつ戻ってきてくれるのではないかと期待している」と話しています。

企業の生産活動 半導体不足や東南アジアの感染拡大の影響が…

3か月前の前回のGDPの発表から大きく状況が変わったのが、企業の生産活動です。

それを表す「鉱工業生産指数」は、6月には99.6とコロナ前の水準まで回復していましたが、9月は89.5と大幅に下落しました。世界的な半導体不足に加え、東南アジアでコロナの感染が急拡大し、部品や材料の調達が難しくなったためです。

このため経済産業省は8月以降、企業の生産活動の基調判断を「持ち直している」から「足踏みしている」に下方修正しています。

工作機械メーカー 一部の生産止まる 売り上げ計画を2割下方修正

工具をつくるための研削盤の分野で、国内シェアトップの神奈川県愛川町にある工作機械メーカーでは、ことしに入ってから取引先からの注文が増えていますが、部品を思うように調達できない状態になっています。

このうち、工作機械に使う樹脂を使った電気部品は、サプライチェーンの混乱で供給が滞っていて、通常は2週間で届くものが4か月ほどかかり、一部の製品の生産が止まっているということです。

また、世界的に深刻な半導体不足の影響で、半導体を使ったセンサーの調達に通常の2倍以上の時間がかかるという連絡が仕入れ先から入っているということです。

会社では、代わりの部品を生産できるメーカーを探すなどの対策を進めていますが、設計の変更が必要となる場合もあり、こうした対策にも限界があるということです。

このため、営業担当者が取引先からの注文を断るケースが増えているということで、会社は、ことし10月からの下期の売り上げの計画を2割、下方修正しました。
工作機械メーカー「牧野フライス精機」の清水大介社長は「アフターコロナに向けて『これからいくぞ』という局面でせっかくの引き合いを抱えきれないのが非常に心苦しい。部品の調達不足は当初の見込みより長引いているので、早く供給が戻ることを期待するしかない」と話しています。

輸出 急速に縮小

生産の減少により、輸出も失速しています。

去年の同じ月と比べた輸出額の伸び率は、自動車メーカーの減産などが響き、7月から9月にかけて急速に縮小しました。

企業の設備投資 高い水準で推移も…

一方、堅調なのは、コロナからの回復を目指す企業の設備投資です。

3か月ごとの日銀短観で見てみると、コロナで大きく落ち込んだ企業が計画する設備投資の額は、今年度・2021年度(黄色のライン)は9月時点まで高い水準で推移していることが分かります。

しかし、生産活動の停滞に加え、このところの原材料の高騰で多くの企業は業績が圧迫されていて、GDP全体のおよそ2割を占める設備投資への意欲が再び低下すれば、景気回復が遠のきかねないと懸念されています。

専門家「リベンジ消費 当初の期待ほどの勢い ないのでは」

今後の日本経済の見通しについて「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」の小林真一郎主席研究員は「宿泊や外食などの需要が持ち直し、個人消費はプラスになるだろう」としたうえで「リベンジ消費が景気全体をけん引すると期待されていたが、当初の期待ほどの勢いはないのではないか」と述べました。

その理由については「第6波の発生に対する懸念のほか、モノの値段が上がってきている。賃金が伸びない中、ガソリンなどのエネルギー価格や小麦といった食料品の価格がじわじわ上昇している状況だ。消費者のマインド=心理が悪化すると、消費は伸びず、せっかくコロナ感染が落ち着いているのに水を差しかねない」と指摘しました。

そして「政策的にはワクチンの3回目の接種を着実に進めることと、医療崩壊を引き起こさないため、医療制度の整備を進めることが必要だ。感染拡大を抑えられれば消費は持ち直してくるので、経済対策の中で、消費を増やす環境を整えることが大事だ」と述べました。