新型コロナ “第6波”への備え きょう決定の対策を詳しく

新型コロナウイルスの第6波に備え、政府は対策の全体像を決定しました。

感染者数がピークだったことし夏に比べて3割多い患者が入院できる体制を今月中に構築し軽症者向けの飲み薬を160万回分確保し、年内の実用化を目指すことなどが柱となっています。

具体的に見ていきます。

対策の詳細 病床3割増へ

政府が示した対策の全体像では入院が必要な人を確実に病院などに受け入れる体制を今月末までに整備するとしています。厚生労働省のまとめによりますと、ことしの夏の第5波のピーク時には全国で合わせて最大で2万6700人が入院しましたが、およそ1100人が入院できなかったとしています。千葉県では感染した妊婦の入院先が決まらず自宅で出産した赤ちゃんが亡くなっています。このため第6波に備え、第5波の2倍程度の感染拡大が起きても対応できるよう、都道府県に対し受け入れ体制の確保を求めています。

具体的には受け入れ可能な病床を夏の時点からおよそ3割にあたる1万人増やし、およそ3万7000人が入院できる体制が整えられるということです。そのうえで、この夏全国で68%だった病床の使用率を82%に引き上げることを見込んでいます。また病院以外の臨時の医療施設や入院待機施設についてもこの夏のおよそ4倍にあたる3400人の受け入れが可能になる見込みだとしています。

「幽霊病床」への対応も

新型コロナウイルスの患者に対応できる病床として申告されていながら、実際には使用されなかったいわゆる「幽霊病床」への対応も盛り込まれました。ITを活用し、医療機関や自治体などとの間で病床の確保や使用状況を共有できる体制を構築するとともに、国が医療機関ごとに病床の確保状況や使用率を12月以降、毎月公表するとしています。こうした対策で確保した病床の効率的な運用を進めたいとしています。

自宅・宿泊療養者の対応

第5波では保健所の業務もひっ迫しました。検査で陽性と判明しても連絡をとるのに時間がかかり、自宅などで症状が悪化した患者をすぐに治療につなげられず、亡くなる人も相次ぎました。このため陽性と判明した当日か翌日には連絡をとり、健康観察や診療を行える体制を確保するとしています。

具体的には保健所の体制を強化したうえで家庭内で感染が広がるのを防ぐため、ホテルなどの宿泊療養施設をこの夏からおよそ3割増やして6万1000室確保します。また地域の3万2000の医療機関などと連携して、オンライン診療や在宅診療、訪問看護などを行える体制を構築するとしています。

このほか、患者が体調の変化にすぐに気づけるよう、すべての自宅療養者に対して血液中の酸素の値を測るパルスオキシメーターを配布する方針で、合わせて69万個の確保を目指しています。

来月からワクチン3回目接種 治療薬160万回分確保

ワクチンについては12月から3回目の接種を始め、2回目の接種からおおむね8か月以上たった希望者全員が受けられるようにし、来年3月をめどに職域接種を始めるとしています。

治療薬の確保に向けては、軽症者向けの飲み薬を年内に実用化することを目指し、国内向けに160万回分を確保して薬事承認が行われれば、速やかに医療機関に供給すると明記しました。

治療薬の開発を進めるため、開発費用として1つの薬に対し最大で20億円を支援し、経口薬は年内の実用化を目指すとしています。また中和抗体薬についても、感染拡大の規模がこの夏のおよそ3倍になることを想定し、来年の初めごろまでにおよそ50万回分を確保するとしています。そして中和抗体薬や経口薬を入院患者以外にも外来や往診で投与できる体制をつくります。このうち経口薬は地域の医療機関と薬局などが連携し、自宅療養している患者に薬が届けられる環境づくりを支援するとしています。

さらに健康上の理由でワクチン接種を受けられない人たちを対象に、来年3月末までPCR検査や抗原検査を予約せずに無料で受けられたり、感染拡大時には感染の不安がある人も無料で検査を受けられたりするよう支援するとしています。

さらに感染拡大した場合は

第5波の2倍を超えて感染が拡大し医療のひっ迫が見込まれる場合には、国民にさらなる行動制限を求めるとしています。新型コロナの患者を受け入れている病院に対しても通常の医療を制限し、短期間の延期であれば体調が悪化するリスクが低いと判断した手術については先送りすることなどを求めるとしています。

そして3倍程度の感染拡大が起きてさらに医療のひっ迫が見込まれる場合は、ほかの地域の医療機関に対し医師や看護師などの派遣を要請するということです。

現場の対応は

国が今夏よりも3割多い入院体制の構築を目指す中、神奈川県は8月に1790床だった病床を2500床まで増やす計画で確保を急いでいます。

神奈川県は第5波が始まる前に県内の医療機関と個別に協定を結び、コロナ患者用の病床を1790床確保していました。しかし第5波のピークとなった8月には入院患者が県の予想を超えて最大で1700人以上となり、入院が必要なのに待機せざるをえない人も100人以上にのぼりました。

県はことし9月には確保できる病床を2300床まで増やしましたが、さらに200床増やし2500床とすることを決め、県の病院協会に協力を求めています。

県はすでに患者を受け入れている医療機関にこれ以上の負担は求められないとして、新たな病床を確保するための専門チームを設置しこれまで患者を受け入れていなかった医療機関などを対象に交渉を進めています。

12日は専門チームの担当者が県のコロナ対策の責任者に交渉の進み具合を報告していました。

県のコロナ対策を指揮する阿南英明統括官は「それぞれの医療機関が1床でも増やそうと協力してくれていて本当に感謝している。ワクチンと治療薬の普及でこれからは重症化を防ぎ入院する人を減らす取り組みも重要になる。病床を増やすだけでなく、予防と早期発見、早期治療を行う仕組み作りを進めていきたい」と話していました。

「これまで以上の増床難しい」

新型コロナウイルスの患者の病床を増やすことは、すでに患者を受け入れている病院にとって簡単なことではありません。

横浜市鶴見区の「済生会横浜市東部病院」はことし8月、第5波のピークで患者数が急激に増えた際、受け入れを断らざるをえない状況になりました。

この時、病院は県からの要請も受け、緊急の措置として通常医療を一部制限し、コロナ対応を優先することを決断します。

7月末には26床だったコロナ患者用の病床を8月12日までに40床に増やしたうえで、一般の病棟を1つ閉鎖してさらに10床増やし合わせて50床にすることにしました。

コロナ以外の患者の入院や手術を延期したり、応急的な工事で集中治療室を増設したりして急いで準備を進めましたが、50床にまで増やすことができたのは3週間後の9月1日。

神奈川県でコロナによる入院患者が最も多くなった8月末の第5波のピークに間に合わせることはできませんでした。

一方、通常医療を制限した影響は大きく、当時入院や手術を延期した患者の対応に今も追われています。

病床の調整を行っている患者支援センターの澤柳ユカリ副センター長は「8月と9月は、通常医療の3分の1ほどの患者の入院が延期になった。こうした患者にできるだけ早く対応する必要があり、コロナが落ち着いた今も息つく間もない」と話していました。

病院は第6波に向けてどのような対応ができるのか、職員にアンケートを行うなど検討を進めていますが「負担が大きい」という声もあり第5波より病床を増やすのは難しいと感じているということです。

三角隆彦院長は「第5波では、患者の数が1週間で倍になるようなスピードで増え続け、受け入れを断らざるを得なかった。これまでの取り組み以上にコロナ患者用の病床を増やすのは難しいので、提供できる最大の病床を必要になった時に早く用意できるよう準備を進めたい」と話していました。

すでに“見える化”取り組む自治体は

東京・八王子市では入院調整を行う支援拠点を設け、受け入れ病床の有無などを市内全体で共有することで、患者のすみやかな入院につなげる取り組みが進められています。

八王子市は感染が急拡大した第5波で保健所が行ってきた入院調整の業務がとどこおりがちになり、保健所に代わって入院や受診の調整を行う支援拠点を市役所内に設けました。

拠点には専従の医師や救急救命士、保健師などが詰め、市内の7つの病院と毎日オンライン画面でつなぎ、各病院で確保している病床の数や病床の使用率、まもなく患者が退院して空きが出る見通しについて市内全体で情報を共有し、“見える化”を進めることにしています。

そのうえで専従の医師が保健師が患者から聞き取った内容をもとに状態を見極め、入院が必要なのか、受け入れ可能な病院はあるのか、空き病床がなければひとまず地域の診療所などで受診できるところがないか、対応にあたっています。

医師が直接関わることで判断を早めることができるほか、病床の状況を市内全体で共有することで患者のすみやかな入院につなげようとしています。
第5波では自宅療養中に死亡した人はいなかったということで、患者が減少した現在も支援拠点は残したまま第6波に備えようとしています。

支援拠点での対応にあたる八王子市医療保険部の菅野匡彦課長は「病床の使用状況など情報を共有し“見える化”することで、患者を受け入れるすべての病院を“1つの大きな病院”に見立て病床の使用率が上がった。病床の数を増やすだけでは人手が増えないかぎり使われない可能性があるが、情報共有と一緒に行えば有効に機能すると思う」と話していました。