ビジネス特集

ついに発売“空飛ぶバイク” ~開発拠点に初潜入!~

ドローンのように地上から浮き上がり移動することが出来る「空飛ぶバイク」。SF映画に登場する夢のような乗り物が、日本国内でついに発売されました。次世代の乗り物で、私たちが空中を思いのままに駆け回ることができる日は、もうそこまで来ているのでしょうか? 今回、「空飛ぶバイク」の開発拠点に初潜入。気になるギモン、聞いてきました。(経済部記者 加藤誠)

SF映画の世界が現実に!?

ホバーバイクの公開 10月26日(動画 1分10秒)
静岡県にあるサーキット場「富士スピードウェイ」。
10月26日、東京のベンチャー企業が開発したバイク型の乗り物、空飛ぶ「ホバーバイク」が公開されました。

全長3.7メートルで、重量はおよそ300キロ。
地上から3メートルほどの高さまで浮き上がり、時速30キロで8の字を描くよう空中を移動しました。

走行時間は2分程度でしたが、最長でおよそ40分間、空中を走行できるといいます。

SF映画の世界の中のものだと思っていた乗り物が、現実に人を乗せて空中を走っている…私はそのあまりの迫力に圧倒されました。

生産台数は200台限定で、価格は1台7770万円。

この日から注文を受け付け、2022年前半にも引き渡しが始まります。
決して安くない価格ですが、サーキット場には、日本や中国の会社経営者など、多くの購入希望者が詰めかけました。

愛知県の経営者の男性は「すごいものが世の中に出てきました。空を飛ぶものはロマンがありますね」と興奮気味に語っていました。

開発拠点に初潜入!

「A.L.I.Technologies」の開発拠点を訪ねる記者
開発したのは、ドローン事業などを手がける東京のベンチャー企業「A.L.I.Technologies」。
今回、神奈川県内にある「空飛ぶバイク」の開発拠点の撮影が初めて許可されました。

この場所で車体の設計や試験を行っていて、20人ほどの技術者が忙しく働いていました。
案内してくれたのは開発責任者の三浦和夫取締役。

三浦さんはソニーの執行役員から転身し、プレイステーションシリーズの開発などで培ったノウハウをバイクの開発に生かしています。

いざなわれるまま奧に進むと、富士スピードウェイで公開されたあのスタイリッシュな「空飛ぶバイク」が姿を現しました。

どうやって浮くの?

ところでこのバイク、どんな仕組みになっているのか、とても気になる…。
「ぜひ構造を見せてほしい」と頼んだところ、車両を分解して説明してくれました。
車体の前後には、浮力を大きくするために独自に設計した直径1.5メートルほどの大きなプロペラが2つ取り付けられています。

エンジンの動力でプロペラを回転させて浮き上がる仕組みで、前後に伸びたシャフトを通じて動力が伝えられます。

ただ、動力をプロペラにどのように伝えて効率よく回すのかは“最大の企業秘密”なんだそうです。

レーシングカーの構造を応用していて、モータースポーツで高い実績がある「戸田レーシング」が設計に協力しています。
車体の4隅には、バッテリーで動く小さな補助プロペラが取り付けられていて、車体を前後左右に方向転換する役割を担っています。

それぞれの回転数に違いをつけることで車体の傾きなどを調整。バランスを取りながら前に進む原理です。

車体に角度をつけることでスピードが上がり、理論上は時速80キロから100キロまで出せるといいます。

日本の“ものづくり”を結集

中央がエンジン
空飛ぶバイクには、ほかにも日本のトップ企業のさまざまな技術が結集しています。

エンジンは、バイクメーカーの「カワサキモータース」製。排気量は1000CC、最大出力は231馬力と特別に強化されています。

1人乗りのバイクとしては、かなり大きな馬力ですが、重さ300キロのホバーバイクを浮かせるには、これぐらいのパワーが必要なんだそうです。
ボディには、大手繊維メーカー「東レ」グループの炭素繊維強化樹脂を採用。強度と軽量化を両立しています。

また車体の制御には、自動車で実績のある半導体メーカー大手「ルネサスエレクトロニクス」のマイコンが使われています。

開発は試行錯誤の連続

2年前の試作機
ただ、ホバーバイクの開発は試行錯誤の連続だったといいます。

2年前に作った試作機には、今のものと違って前後それぞれにエンジンとプロペラを取り付けていました。

エンジンが2つあるのでパワーはありましたが、前後のバランスがうまくとれず、安定して浮かないのが課題でした。

その後の改良モデルでは、制御しやすいよう車両の4隅に縦のプロペラを取り付けましたが、今度は空気の流れが悪くなってしまいました。車両は浮くものの揺れやすくなり、断念したといいます。
JAXAとの風洞実験
そこで頼ったのがJAXA=宇宙航空研究開発機構。
JAXAの協力で風洞試験を行い課題を洗い出しました。

より長く、より安定して浮くにはどういったデザインが良いのか、研究を重ねたといいます。

そして2年前から技術者の人数も3倍に増強。
初号機から8台目、4年に及ぶ研究開発で、ようやくいまのホバーバイクの設計にたどりつきました。

受注が始まった今回のモデルは、ガソリンエンジン車ですが、三浦さんたちは脱炭素の時代を見据え、モーターで動く完全電動車の開発にも取り組んでいます。
「A.L.I.Technologies」三浦和夫取締役
三浦和夫取締役
「クルマやバイク、軽量化といった技術は日本で累々とつながってきました。培った最新技術をわたしたちの手で製品としてまとめることができました。この車体を通じて、日本の技術がここまで来たと、明確に見せることができると思います」
私たちが自由に空を飛び交う日って近いのですか?
三浦和夫取締役
「空をビュンビュン飛ぶかどうかは時間が必要かもしれませんが、空間を楽しむ、というのは新しい人類の楽しみ方になると信じています。人間の目線では1メートルあがるだけでワクワクしてもらえます。ゲーム機の開発でもそうでしたが、そうした体験を提供できるものは絶対に残っていくし、広がっていきます」

どうやって運転するの?

ホバーバイクにまたがる記者
ついに発売された「空飛ぶバイク」ただ、やはり気になるのは、どうやって運転するかですよね。

実際にまたがらせてもらうと、いろいろな発見がありました。
まず、バイクには太ももで車体を挟む形で座ります。
ハンドルは固定されていて動かず、左右のグリップの近くにあるレバーやボタンを操作することで浮いたり、進んだり、曲がったりすることができます。

三浦さんいわく「ドローンの操縦に近い」ということです。

現時点で運転に特別な免許や資格は必要ありませんが、訓練をしないと突然乗るのは難しいとのこと。購入者には研修プログラムがあり、操縦方法を教えてくれるということです。

どこで乗れるの?

夢のような乗り物ですが、どこで走ることができるのでしょうか?現状では公道を走ることはできず、私有地やレース場、海上など限られた場所での走行を想定しています。

今後は普通の自動車と同じように「公道を走る」ことを目指していますが、現在の道路運送車両法には「ホバーバイク」の記載がなく、ナンバープレートを取得して公道を走行するには、法整備の議論が必要になります。

このため、協定を結んだ山梨県で実証実験を重ねることで、国内での走行ルールへの対応や地域住民の安全に配慮した利用など、実用化に向けた課題を洗い出し、国土交通省などに働きかけて法整備の議論を活発化させたいとしています。

次世代の乗り物 開発競争激化

ホバーバイクやいわゆる「空飛ぶクルマ」など、地上から浮く次世代の乗り物をめぐっては、国内外で開発競争が激しくなっています。
日本国内では、トヨタ自動車の出身者などが創業したベンチャー企業「SkyDrive」は有人での飛行試験を行っていて、先月29日、機体の証明申請が国土交通省に受理されました。
2025年の事業化を目指しています。
ホンダも9月に、機体の開発を発表し、ビジネスジェットの事業で得たノウハウを組み合わせ、400キロの航続距離を実現する計画です。

海外ではアメリカやドイツ、中国の会社も存在感を示しています。

7770万円 誰が買うの?

1台7770万円の空飛ぶバイク。
なかなか手が出せない価格ですが、すでに「購入したい」という声が相次いで寄せられているといいます。

エンターテイメント事業で使いたいという経営者のほか、災害現場での活用を想定した自治体の担当者からも連絡がきているということです。

また、話を聞いて驚いたのが、海外からの問い合わせの割合が多いことです。

中東の警察当局から「まとまった台数がほしい」という問い合わせがあるほか、「牧場で家畜の追い込みに使えないか」という想定外の連絡もあり、すでに生産台数の200を超える問い合わせがあるということです。

会社では海外への輸出向けのモデルも開発中で、中東の砂漠地帯や地雷が残る紛争地域などでもビジネスチャンスがあると見ています。
三浦和夫取締役
三浦和夫取締役
「ユーザーのそばにエアモビリティのある世界が作れれば、災害時の利用はもちろん、将来的にはどこにでも楽しみながら移動できる世界につながっていくと思います」
未来の交通システムとして注目される「空飛ぶバイク」。

安全性や法規制など、乗り越えるべき課題はまだまだ多く残っていますが、私たちの身近な乗り物になり、空中を自由に飛び回れる日が来るのは、そう遠くないと感じました。
経済部記者
加藤誠
平成21年入局
帯広放送局を経て現職
情報通信業界を担当

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