異変!米クリスマス商戦 サプライチェーン混乱の影響広がる

異変!米クリスマス商戦 サプライチェーン混乱の影響広がる
「クリスマスプレゼントが買えません」
いま、アメリカの家庭からはこんな悲鳴が聞こえてきます。

アメリカのGDP=国内総生産の約7割を占める個人消費。
中でもクリスマス商戦は、多くの人が家族や友人にプレゼントを買い求めるため、消費が最も活発になる時期です。そんな時期に、いったい何が起きているのでしょうか。
(アメリカ総局 江崎大輔)

クリスマスツリーが届かない

「中国から届くはずのクリスマスツリーが届かず、困っている」

そう話すのは、アメリカ東部ニュージャージー州で人工のクリスマスツリーの生産・販売を手がける老舗企業です。ショールームを訪ねると、きらびやかなクリスマスツリーの数々が展示されていました。

この会社のツリーは、95%が中国の工場で生産され、コンテナ船でアメリカに運ばれてきます。しかし、ことしはツリーが予定どおり届かないケースが相次いでいるというのです。
倉庫に案内されると、あちこちに空きスペースが目立っていました。

ツリーが届かないのは、中国からアメリカに船で運ぶ際のコンテナの確保が難しいこと。そして、アメリカの港から倉庫にツリーを運ぶ運送会社のトラック運転手が足りないことが主な要因だといいます。

さらに、コンテナ不足を背景に、中国からアメリカにコンテナで輸送する費用が、例年のおよそ7倍から10倍にまで上昇したため、ツリーの価格を20%から25%、値上げせざるをえませんでした。
クリスマスツリー生産・販売会社 クリス・バトラーCEO
「いまも商品が届くのを待っています。値上げは決してしたくありませんでしたが、ツリーを運ぶためにはせざるをえませんでした。これは短期的な問題ではなく、来年もこの問題を乗り越えなければならないと思っています」

クリスマスプレゼントが選べない

異変はクリスマスプレゼントを販売する小売りの現場にも広がっていました。

東部ニューヨーク州に暮らすクリスティアン・ガイガーさん(35)。8歳と3歳の2人の子どもと、計12人のおいとめいにプレゼントを買うため、例年、近くのクリスマス雑貨店で品定めをするのを楽しみにしています。
しかし、ことしは、すぐに店の風景が例年と違うことに気付きました。

商品棚には空きスペース。品不足と見えないよう、段ボール箱が並べられている棚もあります。

お目当てのぬいぐるみも、種類がいつもより限られていました。そして、去年より値上がりしている商品も目に付きました。
店側に取材すると、やはり中国やタイなどから届くはずの100を超えるコンテナがまだ届いていませんでした。

全体の15%から20%にものぼる商品が届かないことで、倉庫には大きな空きスペースが広がっていました。
小売店 ネイサン・ゴードン副社長
「毎年値上げをせずに済むよう最善を尽くしてきましたが、ことしは配送料や人件費が上がり、値上げを強いられました」
ガイガーさんにとって、クリスマスは、家族が心を1つにする大切な機会。

雑貨店で良いプレゼントを見つけられなかったためネット通販も試みていますが、ここでも、品切れだったり、価格や配送料が例年より高く感じたりするといいます。
クリスティアン・ガイガーさん
「クリスマスは私たちにとって特別なイベントです。それなのに品切れや値段の高い商品ばかりで信じられません。これまでのクリスマスで最もストレスを感じています」

混雑おさまらぬ海の玄関口

見てきたように、異変の背景にあるのはコロナ禍で起きたサプライチェーン=供給網の混乱です。

アメリカでは経済活動が再開し、さまざまなものの需要が急激に回復しましたが、その需要を支えるための供給網の整備が間に合っていないのです。

「供給制約」とも呼ばれる状態です。
アメリカの“海の玄関口”、ロサンゼルス港では、作業員の人手不足などのため、中国や東南アジアからの船が陸揚げを待って沖合に停泊する事態が続いています。

その数は10月下旬の時点で80隻近く。

バイデン大統領は10月半ばに、港の24時間化を支援する方針を表明しましたが、その後も状況は改善されていません。

そして、港からアメリカ国内へ荷物を運ぶ陸路の輸送網も、深刻な人手不足、運転手不足に見舞われています。

トラック運転手不足の実態は

運転手不足の実態はどうなのか。

トレーラーをけん引するトラック3500台を抱える中西部ミズーリ州の運送会社を訪ねました。

驚かされたのは、全体の1割近くにあたる250台が使われずにいたことです。

運転手がいないためで、話を聞いた運転手の1人は、「ここまで人手不足がひどくなったことはない」と話していました。
運送会社 グレッグ・オーア社長
「トラック運転手が足りないので運送できる量がかぎられ、週に4000個の荷物の運送を断らざるをえないのが実情です。顧客は、毎日、もっと配送しろと迫ってくるのですが」
トラック運転手の不足は、厳しい労働環境で若い世代を中心に採用が難しくなっていることに加え、コロナ禍で一時、物流がストップしたこともあって運転手の退職が相次いだことが原因です。
このため会社は、教習所で免許を取得する際の費用を全額補助するほか、正社員として入社したトラック運転手には1万ドル(約110万円)のボーナスも支給するなど、待遇や労働環境の改善を通じて運転手の確保を急いでいます。

世界経済の“逆風”に

サプライチェーンの混乱の影響や収束の見通しについて、日米の専門家は次のように指摘します。
米国野村証券 雨宮愛知シニアエコノミスト
「供給網が混乱している一方で、需要が強い。だからこそアメリカでは物の値段が非常に上がっているわけですが、これが続いていくと、もしかすると供給網が整備されても、実態とはかけ離れたくらい高いインフレが続くんだと人々が思ってしまう。それが持続的な高インフレ時代の前触れになってしまうというリスクは出てきている」
ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュート
スコット・レン氏
「需要はあるのに供給が追いつかず、棚にあれば売れるはずの物が売れない。この混乱は来年後半まで大きく緩和されることはないだろう。アメリカ経済にとっても、世界経済にとっても“逆風”となり、経済成長率が下がるリスクがある」
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、3日、コロナ禍の危機対応として続けてきた量的緩和の規模を縮小させる政策転換を決めました。

来年は、国内のインフレ圧力の状況をみながらいつ利上げに踏み切るのかが大きな焦点になります。

一方、混乱に直面する企業の間では、サプライチェーンの見直しを図る動きが広がる可能性があります。実際、今回取材したクリスマスツリーの会社も、中国からの輸送に依存する体制の再検討を始めていました。

コロナ禍の停滞から、急激に経済活動が再開したことで起きた異変。その異変がアメリカの年末商戦の風景を変えています。

長期化すれば日本を含む世界の経済や企業の経営戦略に影響を及ぼすことになるだけに、予断を持たずに見続けていく必要がありそうです。
アメリカ総局 記者
江崎 大輔
2003年入局
宮崎局、経済部、高松局を経て今夏から現所属