時給2000円でも… アメリカで働き手が足りない事情

時給2000円でも… アメリカで働き手が足りない事情
「ウーバー」がなかなかつかまらない。カフェでは注文したスムージーができあがるまで20分以上待たされる…。アメリカで生活していると、いろんな場面で人手不足を実感する機会が増えました。スターバックスは15ドル(約1700円)、アマゾンは18ドル(約2000円)に最低時給を引き上げると表明し、企業は働く人を集めるのに必死です。アメリカで何が起きているのでしょうか。(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

車がつかまらない!

スマートフォンのアプリを使って簡単に呼ぶことができる「ウーバー」や「リフト」などのライドシェア。タクシーより手軽で私もよく利用します。

しかし、週末や早朝などの時間帯にはすぐに来てもらえないことが多くあります。
例えば「リフト」は予約の際、配車までどれくらい待てるかを利用者が選べるしくみになっています。

私が利用した時表示されたのは、最大25分、8分、3分の3つの選択肢です。早いほど料金が加算されます。25分は待てないけれど、3分を選ぶと料金が高すぎる…。8分を選んだところ、7ドル(約790円)ほど割高になりました。

運転手に状況を聞いてみると、「とっても忙しい」と返事が戻ってきました。働き手が減っていて、ユーザーの間で取り合いになっているのです。

スタッフ募集中!

サンタモニカの中心部。スターバックスの店舗には大きく「スタッフ募集中!」ののぼりが掲げられています。

スタバはつい先日、最低時給を15ドル(約1700円)に引き上げる予定だと発表しました。カフェの時給としてはアメリカでもかなり高額です。

コーヒーを買うついでに、店員の女性に「どれくらいの期間募集しているんですか?」と聞くと、「ずっと前から!思い出せないほどずっとずっと前よ」とのこと。全く人が集まらないそうです。

スタバだけではありません。

ディスカウント大手のコストコは、最低時給を17ドル(約1900円)に。会社はことし2月に16ドルに上げたばかりで、わずか数か月でさらに1ドル引き上げました。

アマゾン・ドット・コムは9月、最低時給18ドル(約2000円)でスタッフを募集すると発表しました。

飲食や小売、物流などの業界では、どの企業も人集めに必死です。

ロボット頼みの店まで

人手不足にあえぐ飲食店の中にはロボットに仕事を任せるところまで登場しました。

サンフランシスコの地中海料理店では、募集しても人が来ないため、ことしの夏から配膳ロボットを導入してちょっとした話題になりました。SNSに「新しいメンバー」としてロボットを紹介する動画を載せたところ、それを目当てに食事にくるお客さんもいたそうです。

導入から3か月余り。さすがにあのロボットはもういないだろうな…とSNSをチェックしたら、それは大間違い。
ロボットがハロウィーン仕様で働く姿が載っていました。

さらに「スタッフ求む!接客係とバーテンダーを募集しています。毎日履歴書を受け付けています」との呼びかけまで。
採用はそう簡単ではなさそうです。

サンタモニカなどロサンゼルスの一部では、つい先日から無人ロボットが宅配するサービスも始まりました。

範囲は店の半径3キロ以内。4つのタイヤが付いた無人ロボットがハンバーガーやカリフォルニアロールなどを届けています。

失業手当のせい?ではないのかも…

人手不足はなぜここまで深刻になっているのでしょうか。

この理由は長らくこう説明されてきました。
アメリカには新型コロナで仕事を失った人向けに手厚い失業手当があり、その受給資格期間いっぱいまで仕事に就かない人が多い
州によっては失業手当の支給額を減らして人々に仕事に戻るよう促すところまでありました。

しかし、これは要因の1つにすぎないかもしれません。

アメリカの金融サービス会社BTIGは「前職の給料より失業手当が多いと答えた人は14%しかいない」と指摘しています。

興味深いのは、世論調査機関ピューリサーチセンターの調査です。ことし1月末の調査で、失業中の人のうち66%が「次の仕事を前職と違う分野に変えるか真剣に考えたことがある」と回答したのです。

さらに、新しい仕事を得るために教育を受け直したり職業訓練のプログラムに参加したりしていると答えた人が3割以上にのぼりました。

仕事の質や環境の改善を

感染拡大の影響で仕事を失った人が多かったのは、レストランなどの店員やシェフ、小売り店のレジ係など。

感染リスクが特に高いとされる運転手も失業する人が出ました。

アメリカの雇用に詳しい専門家は、こうした人たちは、仮に感染拡大が再び深刻になっても、失業するおそれが低い仕事に就きたいと考えているため、単に時給を上げただけでは人手不足の問題は解決しないと指摘しています。
トレイシー教授
「在宅で、コンピューター1つあればできる仕事があるのに、過酷で感染リスクが高い接客業に本当に戻る必要があるのかと疑問に思っているわけです。こうした人に働いてもらうには、時給を上げるのではなく、仕事の質や環境を改善することが必要です」

働くことは生きること

アメリカの深刻な人手不足を前に、私は老舗デパートで働いていたアメリカ人の友人がニューヨークの店舗での仕事を辞めたことを思い出しました。ちょうど現地で経済活動が全面的に再開した直後の6月のことです。

あの時は「ファッションが大好きで楽しそうに働いていたのにどうして?」と感じましたが、彼女もコロナ禍で働くことを再考した1人だったのだと思います。
「働くことは生きること。デパートへ行くのは今後はお客さんとして楽しむわ」
コロナはアメリカの人たちの仕事に対する価値観そのものを大きく変えるできごとになったのかもしれません。
ロサンゼルス支局記者
山田 奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て現所属