中国で学習塾の規制強まる 習近平政権のねらいは?

中国で過熱が続いてきた受験競争。

学習塾の需要が高まり市場規模も拡大する一方、親にとっては子どもの教育にかかる費用が重い負担となっています。

そうした中、中国政府が突然、学習塾の規制を打ち出し、中国国内で波紋が広がっています。

習近平政権のねらいは一体、何なのでしょうか?
わかりやすく解説します。
(上海支局・柳原章人、広州支局・高島浩、国際部・建畠一勇)

学習塾への規制、何をするの?

中国政府がことし7月に打ち出した学習塾に対する規制では、▼小中学生を対象にした塾の新設は認めず、▼既存の塾は「非営利の組織」に転換するよう求めました。

また、▼土日や祝日の授業も禁止するとしています。

なぜ学習塾を規制するの?

中国政府が掲げたのが「少子化対策」です。

中国では、「一人っ子政策」と呼ばれる人口抑制政策が30年余り続けられましたが、近年は急速に少子化が進み、社会問題となっています。少子化は労働力人口の減少につながり、経済成長に影響を与えかねません。

中国共産党は長年、経済成長を看板政策としてきただけに、政権の求心力に関わる問題なのです。

なぜ、親が2人目以降の子どもを産むことをためらうのか。理由の1つとされるのが、子どもにかかる多額の教育費用です。

教育費ってどのくらいかかるの?

中国では、わが子が厳しい受験競争に勝ち抜けるよう、幼いころから教育に力を入れる家庭が少なくありません。たとえば、上海市当局によりますと、上海に住む1人当たりの可処分所得は平均で年間およそ130万円です。

これに対し、小中学生の学習塾などの費用の平均は、年間およそ28万円にものぼります。

このため、学習塾の営業を抑え込むことでこうした家庭の支出を削減し、子育ての負担の軽減を図ろうというのです。

習近平政権の本音はどこに?

実は今回の学習塾規制、長期政権をうかがう習近平国家主席の政治的な思惑も指摘されているんです。

背景は、教育の分野にも及ぶ貧富の格差拡大です。中国の都市部においては、子どもが大学を卒業するまでに1人当たり3000万円かかるとも言われ、十分な教育を受けさせられる家庭とそうでない家庭との格差の広がりが社会問題となっています。

この格差の問題と、来年秋の共産党大会で総書記(党トップ)として2期目の任期を終える習主席の思惑が密接に絡んできます。
中国政治に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は「習主席が総書記として異例の3期目入りを実現するためには、世論を作り上げていくことが必要になる。習指導部は格差が民衆の不満につながるのを1番恐れているので、学習塾規制のような政策を打ち出すことで、格差をなくすという姿勢を見せるねらいがあるのではないか」と指摘しています。

教育分野に海外の影響?

中国では教育への投資が過熱し、その市場規模は一時、日本円で10兆円を超えるまでに成長しました。興梠教授によりますと、学習塾の業界にも、海外からの投資を受けた大手IT企業が多く参入しているということです。

興梠教授は「『教育がイデオロギーや思想といったものに直結する』というのが中国政府の考え方だ。学習塾についていえば、国家の管理が行き届かないところで何を教えているかわからないということになる。これをすべて管理下に置き、思想やイデオロギーを党が管理したいという考え方が背景にある」と分析しています。

親はどう受け止めているの?

今回の規制を受けて、かえって教育のための費用がかさむのではないかという懸念の声も出始めています。
南部・広州で小学6年生の双子の娘がいる家庭を取材したところ、今回の規制で塾は再開の見込みが立たず、より割高な家庭教師などを頼まざるをえない可能性もあると戸惑っていました。

興梠教授も、今回の規制は、むしろ格差の問題を悪化させるおそれがあると指摘します。

「激しい受験戦争のシステムを根本的に変えなければ、問題の解決にはならない。『塾がなくなったら家庭教師を雇えばいい』となれば、より多くの教育費を払える豊かな階層の人たちがもっと有利になる。結果として格差の拡大が進んでしまう」

規制を受ける学習塾は大変なのでは?

北京や広州など都市部では、学習塾が軒並み廃業しています。

取材をした湖北省にある大手学習塾は、10年前に創業し、3万人の生徒を抱えるまでに成長しましたが、今回の規制で、小中学校の児童・生徒は週末や夏休みなどの授業が禁止され、平日の授業は午後9時までに制限されました。

経営状況は一気に悪化し、25か所ある教室のうち半分以上が閉鎖、教師もリストラせざるをえない状況だといいます。

「闇営業」を行う塾も?

廃業が相次ぐ一方、規制をかいくぐったいわゆる「闇営業」を行う塾も出てきています。
取材に応じた、ある都市で「闇営業」の塾を経営する40歳の男性は、もともと正規の塾を経営していましたが、今回の規制を機に転換したと打ち明けました。

現在は商業ビルにあるシェアオフィスを転々としながら、授業が禁止されている土日祝日も授業を行っているということです。

男性は「違反もしくはグレーだと認識しているが、需要はある。なんせ高校受験、大学受験があるからね。中国ではいい高校に入れなければ前途はない。今回の規制は不完全だ」などと批判しています。

興梠教授も「中国には『上に政策あれば下に対策あり』という有名なことばがある。今回の規制は、長期的な問題の解決にはならない」としていて、今後もこうした闇営業はなくならないだろうとの見方を示しています。

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