治療してくれる病院はどこに?40代、突然の体調不良

治療してくれる病院はどこに?40代、突然の体調不良
「胃痛に頭痛、体のほてり。いつまで続くのか正直憂うつになります」

ミドリさん(仮名・49歳)はことし4月、更年期障害に関するウェブ記事を読んで、自身の体験をメールしてくれました。
最後にこんな一文がありました。

「ただただ、時が過ぎるのを待っています」

更年期の症状に苦しんでいるのに治療してくれる病院に行き着かないというのです。
こうしたケース、実は多いようです。
(ネットワーク報道部 記者 吉永なつみ)

胃痛、下痢… 消化器内科へ

ミドリさんは西日本で小学生の娘と夫と暮らしています。

胃痛や下痢に悩まされるようになったのは1年半ほど前。
以前、大腸のポリープを切除したことがあったため、経過観察をかねて近くの消化器内科を受診することにしました。

胃や大腸の検査を受けても異常はみつかりません。整腸剤を処方され、様子をみることになりました。

大変だったのがパートです。

子どもが学校に行っている日中の時間帯だけ飲食店のちゅう房で働いていますが、ちょうど昼のピークにあたるうえ、コロナ禍でテイクアウトが増えていることもあって、ひっきりなしに注文が入ります。

手が空いた時に「ちょっとトイレ」というわけにはいきません。

5時間以上トイレを我慢せざるをえないこともあり、シフトに入る直前に整腸剤を飲み、水を飲むのも控えて、ぎりぎりの状態で働きました。
ミドリさん
「最近は体のほてりも感じるようになり、突然汗が噴き出してくることがあります。水も飲まずに長時間、ちゅう房の中にいると耐え難い暑さを感じます。
それでもコロナで夫も収入が減り、私のパート代は家計にとってなくてはならないものなので、働かなければなりません」

ひどい肩凝り?整形外科にも

首にも違和感を感じていました。

ある日、仕事から帰っていつものようにうがいをしようと水を含んで上を向いた瞬間、激痛が首に走りました。
後頭部を手で支えてやっとの思いでうがいをしたそうです。

「ひどい肩凝りなのかな」

そう考えて市販の湿布薬を貼ってしばらく様子を見ましたが痛みはひかず、近くの整形外科を受診しました。

しかしレントゲンを撮っても骨に異常はありません。
医師は、問診票に書いた「仕事で下を向く作業が多い」という記述を見て「職業病かもしれませんね」と言うと、何日か分の痛み止めと湿布を出してくれたそうです。

それから数か月もの間、市販の痛み止めと湿布でだましだまし、仕事と家事、育児をこなすことになりました。

ようやく婦人科へ、しかし…

調子が悪くなるのは決まって生理の時でした。

もしかして、この不調にはホルモンが関係しているのではないか?
そう考えて調べてみると、胃痛などは更年期の症状にもあることがわかりました。

そこで去年の秋、思い切って近くの産婦人科を受診することに。
以前、子宮がん検診を受けたことがあり、相談に乗ってくれるのではないかという期待もありました。

「更年期障害ではないでしょうか」

症状を説明して問いかけると、医師はこう答えたそうです。

「年齢的にそうかもしれませんね。でもホルモン補充療法は乳がんのリスクが高まりますよ」

最初に治療のリスクを言われたことで、それ以上は話す気持ちになれなかったというミドリさん。

「乳がんのリスクが高くなるのは怖いので、今はやめておきます」と返して5分ほどで診察を終えると、また整腸剤だけ処方されてクリニックをあとにしたのです。

ホルモン補充療法、本当はどうなの?

治療法とリスクについて、更年期とキャリア問題に詳しい昭和大学の有馬牧子講師に聞きました。
「ミドリさんは体調が悪い中で勇気を出して病院を受診され、本当によく頑張っていると思います。49歳という年齢から見ても女性ホルモンが急激に減少していく更年期(※閉経前後の45歳~55歳くらいをいう)にあたりますし、ほてりや胃腸の不調はよくある症状です。

ミドリさんの場合、まだ生理がありますので、最初の治療としてはホルモン補充療法を含む漢方薬などの治療法を勧められることが多いです。
そうした提案が医師からなかったこと、さらにホルモン補充療法イコール乳がんではないのに、そのように言われたことは残念です」
ホルモン補充療法、リスクとベネフィットを理解し判断を
「乳がんの既往歴がある人や、母親など親族に乳がんの人が複数いて遺伝的になりやすい場合はホルモン補充療法をすると発症リスクが高まります。
そうではなく、きちんと乳がん検診を受けて問題ないのであれば、乳がんへの影響は小さく、5年未満の使用ではリスクはありません。5年以上使用の場合も、生活習慣によるリスクと同じかそれ以下です。

また子宮がある女性にエストロゲンを単独で長期間使い続けると子宮体がんのリスクが高まりますが、エストロゲンとともに黄体ホルモンを併用するとそのリスクを抑えることができます。(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会のガイドラインによる)

医師との相談の上、ホルモン補充療法のリスクとベネフィットを理解したうえで使用を判断するのがよいでしょう。
ホルモン補充療法以外には、漢方やエストロゲンと似た働きをするエクオールのサプリメントなどの治療法もあります」

悪化する症状、調べてほしいのに

ミドリさんは今、家事などの合間に10分でも時間があれば、アラームをセットしてソファで横になる毎日を過ごしています。

生理が始まると下痢になり、一時は改善していた肩凝りに加えて、週に1、2回は頭痛もあります。
体調がいい日は1か月のうち数日しかなく、仕事のときは痛み止めが手放せません。

産婦人科を訪ねた半年後、ミドリさんはもう一度、同じクリニックを受診しました。更年期障害かどうかを確かめ、治療の相談がしたいという思いでした。
しかし医師は、前回と同じ話を繰り返したといいます。

「ホルモン補充療法をやらないなら整腸剤で様子をみるしかない」

他の治療法を相談できる雰囲気でもなく、諦めて帰るしかありませんでした。
ミドリさん
「更年期障害がどういうものかという説明も、ホルモン補充療法やそれ以外の治療法についての話も全くありませんでした。ほかの病院に行きたいと思ってはいますが、忙しいこともあって自分のことが後回しになっています。
更年期の医療に理解があり、患者に寄り添って治療方針を提示してくださるような婦人科が当たり前にある世の中になってほしい」

治療を受けるためのポイント

2年ちかく症状に苦しめられているのに、有効な治療が受けられないミドリさん。どうすればいいのでしょうか。
有馬さん
「更年期の症状は多岐にわたるため、さまざまな診療科を転々として最後は何科に行ったらいいかわからなくなってしまうことがあります。40代、50代で何か体に不調があったら更年期の症状かもしれないという視点もぜひ持ってほしい。そうすれば診療費や時間をむだにせず婦人科をすぐに受診でき、治らないのではないか?という不安も軽減できると思います。

この際、産婦人科でも更年期に詳しい医師に受診することが大切です。日本女性医学学会が認定する専門医がいるところや、「女性の健康とメノポーズ協会」による更年期に詳しい医療機関のリストを参考にするなどして、かかりつけ医をつくることをお勧めします」
そろそろ更年期、自分でできることは?
「不調に気付きやすくするために月経や基礎体温の記録をつけることをおすすめします。今は簡単に測れる製品やアプリもあります。生理がある人は基礎体温が月経のサイクルに合わせて低温期と高温期の2層に分かれますが、更年期になるとそれが平たんに近づいてきます。月経周期が乱れてきたとか、目が乾くとか、多汗などがあったときに更年期と関連付けて考えられると思います。医師に記録を見せると説明もしやすいですよ」

閉経後の人生をどう健康に歩むか

最後に有馬さんは、更年期症状の治療は健康に生きていくために必要なことだと話してくれました。
有馬さん
「更年期の治療をするというと、いまだに『気の持ちよう』とか『我慢すれば治るわよ』と言う人がいますが、そういう問題ではありません。女性は閉経すると、それまで女性ホルモンによって守られていたものがなくなり、いろんな疾患が起きやすくなります。脂質異常症や動脈硬化、骨粗しょう症、子宮体がんなどのリスクも高くなります。

人生100年時代と言われる今、閉経してから30年後40年後も元気でいるために、そもそも自分がどう健康に人生を歩むかという問題でもあるのです。現代の女性は、仕事や家のことなどいろいろ抱えて受診を後回しにしてしまうこともあると思います。また治療法があることを知らない人も意外に多いです。不調が続いたら何か体のサインであるはずなので、我慢せずにぜひ婦人科を受診してください。どうか一人で抱え込まないでくださいね」

更年期症状 50代前半では2人に1人

NHKと専門機関がインターネットで行ったアンケートでは、更年期症状を経験したと答えた女性の割合は40代50代の平均で37%。中でも50代前半は割合が高く52%とおよそ2人に1人に上ります。
一方で、症状を経験した人のうち医療機関を受診した人は31%。
7割の人は受診していませんでした。更年期障害と診断された人はさらに少なく、19%にとどまっています。
(NHK「更年期と仕事に関する調査2021」より)

NHKでは更年期症状について今後も取材を続けていきます。
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