COP26 なぜ重要?私たちにどう関係する?会議の焦点は?

COP26 なぜ重要?私たちにどう関係する?会議の焦点は?
イギリス北部のグラスゴーで先月31日に開幕した国連の気候変動対策の会議、「COP26」。岸田総理大臣も2日、会議に出席しました。

各メディアはさまざまな特集を組んで「COP26」について報じています。

でも、そもそもCOPって何?なぜそんなに注目されているの?と疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。

実は私たちの暮らしに密接に関わっているんです。

記録的な大雨 地球温暖化の影響も?

2021年8月、西日本を中心に川の氾濫や土砂災害が相次いだ記録的な大雨。

これについて、気候の専門家などでつくる気象庁の検討会は9月に会合を開き、偏西風が南へ大きく蛇行したことで前線が停滞し、観測された雨の総量が3年前の西日本豪雨を超えるなど「異常気象といえる」と指摘しました。

このなかでは、地球温暖化による気温の長期的な上昇で大気中の水蒸気の量が増え、降水量が増えた可能性を示す分析結果も得られたとしています。

検討会の会長を務める東京大学の中村尚教授は、今後も同じような異常気象は起こりえると指摘したうえで「地球温暖化の影響で水蒸気量が着実に増え、これまでにない雨量が各地で観測される可能性が以前よりもはるかに上がってきている」と述べました。
一方、海外に目を向けても、2021年には北米や地中海沿岸などで大規模な山火事が起き、ドイツやベルギーでは豪雨で洪水が起き200人以上が死亡しました。欧米では、特に若者の間で地球温暖化は命や将来に関わる大きな問題だという強い危機感が広がっています。

世界の平均気温は10年間で約1度上昇

地球温暖化は、いまどこまで進んでいるのか。
世界各国の科学者でつくる国連のグループ=IPCCは、2021年8月、地球温暖化の原因は、人間の活動だと初めて断定した上で、2020年までの10年間の世界の平均気温が、温暖化が起きる産業革命前と比べ、すでに1.09度上昇していると発表しました。

さらに試算も公表され、1度の上昇で、50年に1度という高温の頻度は4.8倍になっていて、10年に1度の大雨の頻度も1.3倍になっているとしています。
また平均気温の上昇が1.5度になると、50年に1度という高温の頻度は8.6倍に、また10年に1度という大雨の頻度も1.5倍になると試算しています。

地球温暖化で日本の気象はどうなる

去年12月、気象庁と文部科学省は、今世紀末を対象に行った予測を公表しました。

世界全体の気温上昇が今世紀末に、産業革命前と比べて2度前後に抑えられた場合と、追加的な対策をとらず4度前後上昇した場合、2つの想定が示されました。
◆暑さは?
《2度前後》
・35度以上の猛暑日は全国平均でおよそ2.8日増加

《4度前後》
・猛暑日は全国平均でおよそ19.1日増加

※去年までの30年間で全国13地点の年間の平均日数はおよそ2.5日

◆雨は?
《2度前後》
・1時間に50ミリ以上の「非常に激しい雨」が降る頻度は全国平均でおよそ1.6倍
・1日の降水量が200ミリ以上と大雨になる日数はおよそ1.5倍

《4度前後》
・「非常に激しい雨」が降る頻度は全国平均でおよそ2.3倍
・1日の降水量が200ミリ以上と大雨になる日数はおよそ2.3倍

◆海面水位は?
《2度前後》
日本沿岸の平均の海面水位はおよそ0.39メートル上昇

《4度前後》
日本沿岸の平均の海面水位はおよそ0.71メートル上昇

◆台風は?
台風については、大気中の水蒸気量が増えるため、4度前後上昇の想定では、猛烈な台風ができる頻度が増えるとされています。

取り返しがつかなくなる前に対策を それが “COP”

私たちの暮らしに大きな影響を与える気候変動。

今、世界で異常気象が相次ぎ、現状の取り組みでは海面の上昇といった、温暖化の深刻な影響を抑えきれないと警鐘を鳴らす報告書も公表され、対策を進めなければ取り返しがつかない事態になるとの認識が広がっています。

こうした認識を背景に各国が対策を話し合うのが、国連の「気候変動枠組条約」に参加する国や地域の会議「COP(こっぷ)」です。英語の「Conference of the Parties」の頭文字からきています。
「気候変動枠組条約」には現在197の国と地域が参加していて、1995年以降、毎年「COP」を開いて話し合いを重ね、世界の気候変動への取り組みを前に進めてきました。

今回で26回目。もともとは2020年に開かれる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年延期されました。

焦点その1 削減目標引き上げで一致できるか

先月31日に開幕した「COP26」の焦点は、平均気温の上昇を1.5度に抑えるために、各国が削減目標を引き上げることで一致できるかどうかです。
2015年に採択された国際的な温暖化対策の枠組み「パリ協定」は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるよう努力することなどを目標に掲げていて、このためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしなければならないとしています。

この目標は日本をはじめ、イギリスやアメリカなどこれまでに多くの国が表明しています。

課題となっているのは2050年までの取り組みをどう進めるかで、世界の排出量を2030年までに2010年と比べておよそ45%削減することも必要とされています。

しかし、国連が発表した最新の報告書では、各国がパリ協定のもとで国連に提出した温室効果ガスの削減目標を達成したとしても、2030年の排出量は2010年に比べて半減するどころか、16%増加すると見込まれることがわかりました。

また各国がことし9月までに掲げた2030年に向けた削減目標をたとえ達成したとしても、世界の平均気温は今世紀末までに少なくとも2.7度上昇してしまい、目標達成にはほど遠いとしています。

このためCOP26の議長国のイギリスは、平均気温の上昇を2度ではなく、1.5度に抑えることを世界の共通目標に定め、各国に2030年までの削減目標の引き上げを求める考えです。

焦点その2 石炭火力発電の廃止

二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電の廃止をめぐり、どこまで踏み込んだ内容を打ち出せるのかも焦点となっています。

今回のCOPの議長国であるイギリスのジョンソン首相は石炭火力について、先進国は2030年、途上国は2040年までに廃止することを提案する方針です。

そのイギリスはIEA=国際エネルギー機関の2018年のデータでは石炭火力による発電が5%です。それをイギリス政府は2024年までにすべて廃止することを表明しています。

一方、ドイツは再生可能エネルギーの導入を積極的に進めているものの、石炭火力が37%余りを占めています。メルケル政権は国内の石炭火力を2038年までに廃止することをすでに決めています。また先月行われた連邦議会選挙で第1党になった社会民主党は、第3党の緑の党と第4党の自由民主党との連立交渉の中で、2030年までの石炭火力廃止を目指すことで合意しています。

アメリカも石炭火力が28%余りを占めていますが、2035年までの電力部門の脱炭素化を掲げ、発電に伴う二酸化炭素の排出をゼロにすることを目指しています。太陽光発電などの再生可能エネルギーや原子力発電の活用で石炭火力の削減分を補うほか、発電所から出る二酸化炭素を地中に貯蔵する技術を活用し排出を抑えていくとしています。
一方、日本は2019年度のデータで石炭火力による発電が31%余りを占めています。今月、閣議決定した「エネルギー基本計画」で、2030年度でも発電の19%を依然として石炭火力で賄うという見通しになっています。日本政府としては再生可能エネルギーを増やしても、2030年までの石炭火力の廃止は現実的に難しいという考えです。これに対して脱石炭を掲げるヨーロッパの国などから消極的だとの批判の声が上がる可能性もあります。

また、世界最大の温室効果ガスの排出国で、66%余りを石炭火力が占めている中国も当面は化石燃料への依存が続く見通しです。

さらに、東南アジアやアフリカなどでは経済発展に伴う電力需要の増加を賄うため、石炭火力に依存せざるをえない国も多くあります。

こうした中、COPでどこまで踏み込んだ内容を打ち出せるのかが焦点の1つになります。

焦点その3 「資金」の確保

高い目標を実現するには対策のためにさまざまなコストがかかることから、気候変動対策をめぐる「資金」も、今回の会議の焦点の1つです。

先進国は途上国の温室効果ガスの排出削減対策と気候変動による被害防止の対策のため、2020年までに官民合わせて年間1000億ドルを拠出し、その水準を2025年まで維持することを約束しています。

ところが、ことし9月にOECD=経済協力開発機構が発表したところによりますと、2019年の拠出額は800億ドルほどにとどまり、2020年も新型コロナウイルスによる景気後退の影響を受け、目標の達成は難しいのではないかという見方が広がっています。

今回の会議ではこれまでの目標をいかに達成するかに加え、途上国から気候変動による被害への対策のために資金の拡充を求める声が上がっていることから、先進国がさらなる資金の拠出などに応じるかどうかも焦点です。

また2025年以降の資金支援の在り方についても議論が始まることになっています。

焦点その4 排出取り引きのルール作り

さらに、国連の認証を受けて、政府間や民間で温室効果ガス排出の削減量を取り引きできるルール作りも、COP26で議論されます。

パリ協定の6条では、資金や技術の支援を行って海外の温室効果ガスの排出量を減らした場合、国連の認証を受けて自国の削減分としても組み込める制度などが定められました。

その制度の実施に向けたルール作りは、本来、2018年のCOP24での合意を目指して議論が進められていましたが、翌年のCOP25でも合意には至らず、パリ協定に基づくほかのルールが合意される中、パリ協定の「最後のピース」とも呼ばれています。

協議が難航している主な理由は、一部の途上国がかつての京都議定書のもとで認証されていた削減量を新たな枠組みであるパリ協定のもとでも活用できるよう主張したのに対し、先進国などが新たな削減につながらないとして難色を示し紛糾したことです。

また削減量を支援した国と、支援された国で二重に計上しないルールなどもさらなる検討が必要とされてきました。

このルールが定まれば企業などが海外での排出削減につながる事業を行うメリットが大きくなって「脱炭素ビジネス」が活性化し、気候変動の抑制につながる期待もあります。

今回は各国が合意点を見いだすことができるのか。パリ協定の「最後のピース」をめぐる交渉はCOP26の終盤まで続く見通しです。

COP26の結果は私たちにどう関係するの?

東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は「残念ながら気候変動が寄与している気象災害や気候の変化は生まれてきており、気候変動の影響はどうやら早く、非常に近未来にでてくるかもしれないとふだんの暮らしのなかでも感じるようになってきました。私たちの命と暮らしを守るという観点から、COP26でしっかりとした目標や制度が合意されるかどうか、ぜひ注目してほしい」と話しています。

また、高村教授は、ビジネスの行方も大きく左右する可能性があると指摘しています。

高村教授は「現在、世界の気候変動対策をけん引しているCOP26議長国のイギリスや、アメリカは、脱炭素社会に向けて大きく転換していくことによって、新型コロナからの経済の復興と持続可能な社会の一歩を作っていこうと、COP26を重視している。会場での交渉の行方とともに、金融や投資家の動きも各国の政策に影響与え、ひいては企業の活動や経営にも影響を及ぼす可能性がある。このあたりも注目してほしい」と話していました。

COP26は、11月12日までのおよそ2週間の予定で、開幕直後の1日と2日には、岸田総理大臣やアメリカのバイデン大統領など、およそ130の国や地域の首脳が参加する会合があります。

その後、閣僚などが参加して成果文書の採択に向けて議論が進むほか、NGOや若者が参加してさまざまなイベントが開かれます。