米FRB 「量的緩和」の縮小決定 新型コロナ対応の金融政策転換

アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、3日まで開いた金融政策を決める会合で、新型コロナウイルスの危機対応として始めた「量的緩和」の規模を段階的に縮小することを決めました。最初の感染拡大から1年8か月を経て、アメリカの金融政策は、転換の節目を迎えることになりました。

FRBは3日までの2日間、金融政策を決める会合を開き、新型コロナウイルスの感染が急拡大した去年3月に危機対応として始めた「ゼロ金利」と「量的緩和」の2つの金融緩和策のうち、量的緩和の規模を段階的に縮小する「テーパリング」と呼ばれる対応を始めることを決めました。

FRBは、これまで、国債と住宅ローン関連の証券を合わせて毎月1200億ドル、日本円で13兆円を超える規模で買い入れて市場に大量の資金を供給してきました。これを、今月は150億ドル減らし、来月以降も同じペースで減らしていくとしていて、順調にいけば、来年半ばに量的緩和が終わる見通しです。

これは、コロナ禍で打撃を受けた景気や雇用情勢が改善したと判断したためで、アメリカは、最初の感染拡大から1年8か月を経て、金融政策の転換の節目を迎えることになりました。

一方、FRBは、声明の中で、供給網の混乱や人手不足を背景に起きている今の物価上昇について「一時的とみられる要因を幅広く反映している。感染拡大や経済活動の再開の過程で起きた需要と供給の不均衡が大幅な物価上昇の一因になっている」として、警戒を示しました。

今後は、次の一手となるゼロ金利の解除の時期に焦点が移りますが、FRBの政策転換は日本を含む世界経済に大きな影響を及ぼすだけに、どのようなペースで転換を進めていくかがカギになります。

FRB議長「経済の進展踏まえ縮小決めた」

FRBのパウエル議長は会合のあとの記者会見で今回の決定の理由について「目標に向けて経済が進展していることを踏まえて資産の買い入れ額の縮小を決めた。新型コロナウイルスの感染が減っていくことでことしのアメリカ経済は通年では力強い回復が見込まれる」と述べました。

一方、今後の焦点になるゼロ金利の解除の時期についてパウエル議長は「今は利上げする時ではない。雇用環境がさらに改善するのを確認する必要がある」と述べ、当面は緩和的な政策を粘り強く続ける考えを示しました。

「量的緩和」の縮小とは

FRBは新型コロナウイルスの感染が急拡大した去年3月、経済を下支えするための危機対応として、ゼロ金利とともに、量的緩和を始めました。

量的緩和は、中央銀行が国債や証券を買い入れることで市場に大量の資金を供給し、企業や家計にお金を行き渡りやすくする金融緩和策の1つで、2008年のリーマンショックの際にも導入されたほか、日銀も取り入れています。

今の量的緩和策でFRBは、国債を800億ドル、住宅ローン関連の証券を400億ドルの合わせて1200億ドルを毎月購入してきました。

今回の決定は、これを月に150億ドルずつ減らしていくという計画で、順調にいけば、8か月後の来年半ばに量的緩和が終了することになります。

緩和の規模を段階的に縮小する対応は「先が細くなっていく」という意味の「テーパリング」とも呼ばれています。

縮小の背景は

FRBが量的緩和の縮小に踏み切ったのは、アメリカ経済がコロナ禍で受けた打撃から着実に回復していると判断したためです。

アメリカでは、ワクチンの接種や大型の経済対策を背景に経済活動の再開が進み、GDP=国内総生産の規模は、ことし4月から6月に、感染拡大前のおととし10月から12月の水準を超えました。

また、雇用環境も去年4月に14%台まで悪化した失業率が4%台まで改善してきました。

ニューヨーク株式市場のダウ平均株価も、感染拡大前の2万9000ドル台を大きく超え、今月2日には終値として初めて3万6000ドルを超え、最高値を更新しました。

この夏には感染力の強い変異ウイルスのデルタ株の影響が広がり、個人消費に影響も見られましたが、FRBは景気の回復傾向は続いていると判断しました。

ただ、FRBの今回の判断には、必ずしも前向きと言えない背景もあります。物価の大幅な上昇が長引いていることです。

経済活動の再開で需要が急回復しているのに対し、世界的な供給網の混乱や国内の人手不足が相まって幅広い品不足が生じているためで、アメリカの消費者物価指数はFRBが目安とする2%程度を大きく超える5%台がことし9月まで5か月連続で続いています。

このためFRB内部では、景気刺激策である量的緩和をこのまま継続すれば、インフレを加速させるという警戒が強まっていました。