安いから揚げ もう限界? いったい何が…

安いから揚げ もう限界? いったい何が…
日々の食卓やお弁当の「定番」とも言える、から揚げ。
しかし、いま材料の「鶏肉」にある「異変」が起きています。いったい、何が起きているのでしょうか。
(おはよう日本 ディレクター 松下和志/アジア総局 記者 影圭太/経済部 記者 保井美聡)

突然の値上がり

「1日100キロくらいは仕込むので、上げ幅が結構大きな金額になっちゃいますね」
突然の値上がりにこう嘆くのは、東京 新橋にあるから揚げ弁当店の店長です。
この店では、ことし8月に鶏肉の仕入れ値が1割ほど上昇。これにより鶏肉の1か月の仕入れコストが約4万円増加しました。

ボリューム満点の定番、から揚げ弁当を1つ700円で販売するいわば薄利多売の店にとっては、決して軽くない負担増です。
都内のスーパーでも、鶏肉をめぐる「異変」が起きていました。

ことし9月ごろから、鶏のもも肉やつくねなどの加工品の調達が難しくなり、商品によっては必要な量を確保できないものも出始めているといいます。
スーパーの社長
「9月の頭くらいには『少ないよ』とか『なくなるよ』という話はあって、10月の頭くらいに実際になくなってしまった」
家庭用や業務用として日本に輸入されている冷凍若鶏の価格は、1キロあたりで、ことし4月の207円から、8月には230円まで上昇していました。(農畜産業振興機構調べ)

去年8月に比べても12%の値上がりです。
それにしても、鶏肉の値上がりや供給不足は、なぜ起きているのでしょうか。

最大の輸入相手で起きた“異変”

その理由をたどると、行き着いたのは東南アジアのタイでした。
タイは、日本にとって、焼き鳥やから揚げ用などに加工された鶏肉の最大の輸入相手です。
農林水産省によりますと、こうした鶏肉の輸入量は年間およそ50万トン、2500億円相当に上ります。
このうち、実に6割を、タイから輸入しているのです。

しかしそのタイで、ことし8月、新型コロナの感染者が急拡大。感染確認が1日2万人を超える日もありました。

鶏肉の加工工場では、従業員の感染や人手不足で、生産停止が相次いだほか、稼働の落ち込みが続きました。
これによって日本への鶏肉の輸出量は大幅に減少。タイ商務省によりますと、加工済みの鶏肉の日本への輸出は、ことし8月に急激に落ち込み、金額ベースで去年の同じ月より29%減少しました。

タイからの鶏肉の輸入量の落ち込みは、ブラジル産など、鶏肉全般の価格上昇を引き起こしたのです。

不透明な先行き

気になるタイの鶏肉生産は、いつ正常化するのでしょうか。

10月は感染者が減り、鶏肉の加工工場の稼働も回復に向かっているということです。

ただ、タイの関係者は、状況を楽観視してはいません。
タイ ブロイラー加工輸出業者協会 クリット部長
「工場では1人、2人の感染者が出た場合でも周囲にいた従業員を含めて隔離に入らなければならない。通常通りの稼働に戻るには少し時間がかかるかもしれない」
不透明な先行きに懸念を抱くのは、海外産の鶏肉を使う日本の食品メーカーも同じです。

「ニチレイフーズ」は、タイ国内の工場で感染拡大の影響から人手不足となり、一時、操業を停止。
現在は再開していますが、生産態勢を縮小しているため、冷凍食品の鶏のから揚げの一部商品について、今後、販売を停止する可能性もあるとしています。
いっぽう、冒頭で紹介したから揚げ弁当店。
この店で使用しているのはブラジル産の鶏肉ですが、店長によりますと、仕入れ業者からは、「11月以降、さらに2割ほど値上げする」と伝えられたということです。

店では、外注していた店の清掃の一部を自前に切り替えるなど、経費の削減で販売価格を何とか据え置いてきましたが、その対応も限界に近いといいます。
から揚げ弁当店 店長
「緊急事態宣言も解除されて、これから人の流れも増えて売り上げも戻ってくる中で、原価がまた上がるのは、正直痛いですね」
また影響は、クリスマス商戦にまで及びそうです。
前出の都内のスーパーでは、クリスマス向けに、例年この時期に仕入れるタイ産のローストチキンを卸売会社に発注しました。

しかし「確保できるか不透明になった」として、販売中止の連絡があったということです。
このため急きょ、アメリカ産や中国産のものに仕入れを切り替える対応を迫られました。
スーパーの社長
「なるべくお安く販売したいという気持ちはあるんですけれども、お願いしていたものが入ってこないというのは、お店にとってもお客さんにとっても痛手ですよね」
今後の需給見通しについて農畜産業振興機構は、10月の鶏肉の輸入量はタイ産の減少で、前の年の同じ月をかなりの程度下回ると予測。

11月には、代替需要としてのブラジル産の輸入量が増加すると見込まれるものの、国産を含めた11月末時点の在庫は、過去5年間の平均より17%あまり少ない見込みだということです。
多くの資源を輸入に頼る日本、食の分野も例外ではありません。

東南アジア各国での感染拡大の影響は、日本の自動車メーカーの大幅な減産やアパレルメーカーの新商品の発売延期を招きました。

新型コロナによる経済への影響は、国境を越え、わたしたちの身近な食卓にもまだまだ続きそうです。
おはよう日本 ディレクター
松下和志
2020年から仙台局で働き始め、ことしから東京勤務
アジア総局 記者
影圭太
2005年入局 経済部で金融や財政の取材を担当し去年夏からアジア総局
経済部 記者
保井美聡
2014年入局 仙台局、長崎局を経て、流通業界などを担当