海でも、陸でも “自動運転”が進化中

海でも、陸でも “自動運転”が進化中
出かけたい時に、船が島まで迎えに来てくれる。
日用品を、ロボットが玄関先まで届けに来てくれる。
そんな未来を予感させる自動運転の技術開発が、いま各地で進んでいます。
(広島放送局記者 福島由季/札幌放送局記者 岡崎琢真)

“自動航行できる船が増えれば”

瀬戸内海の離島、生野島。人口14人の静かで小さな島の港に、10月上旬、1そうの船が横付けされました。

船の全長はおよそ6メートル。一見、普通の小型の船と変わりません。しかしこの船、普通の船ではありません。操縦するのは、人ではなく、「AI(=人工知能)」なのです。
船を開発したのは、大阪に本社を置くスタートアップ企業です。

CEOを務める木村裕人さん。木村さんは以前、大手IT企業でAIやロボットの開発を行っていました。

スキューバダイビングなどが趣味で、海に触れる機会も多かった木村さん。「自動航行できる船が増えれば、人やモノの移動がもっと便利になるのではないか」と考え、ことし3月に会社を設立。半年足らずで新たな船を開発しました。

離島の”足” 直面する危機

新たな船を使った実証実験は、ことし8月から、生野島と隣の大崎上島の2つの離島の間で行われました。
生野島に、スーパーや病院はありません。住民の足は1日7便、およそ3キロ離れた大崎上島とを結ぶ町営のフェリーです。

しかし、フェリーの昨年度の赤字額はおよそ9000万円。国や県の補助金などで補っているのが現状です。

「いつかフェリーがなくなってしまうのではないか」

そんな不安を口にする島の住民もいます。

瀬戸内海には、人が暮らしていて橋でつながっていない離島がおよそ100あります。

全国的に船員の高齢化も進む中、担い手不足などで廃止される定期航路も出始めているのです。
エイトノット CEO 木村裕人さん
「瀬戸内海には離島がたくさん点在している。離島の暮らしを維持していくのに欠かせないのが水上交通。技術の力でサポートしていく必要があると強く感じている」

進行方向やスピード AIがコントロール

船の先端にはセンサーが設置され、海を行き来する船や海上に浮かぶゴミ、波の高さなどを検知します。

この情報をもとに、AI=人工知能がモーターを操作。船の進む方向やスピードをコントロールする仕組みです。

脱炭素社会を見据えて、動力源には電力を活用しました。

地元の高専生たちも協力

船の開発に合わせて行われたのが、自動航行に必要な専用の地図作りです。

会社が力を借りたのが、地元、大崎上島にある広島商船高等専門学校の5人の学生たちです。
瀬戸内海は波は穏やかですが、潮の流れが複雑なうえ、潮の満ち干によっては通れなくなる場所もあります。

学生たちは、学校の実習で使用する船を使い、生野島と大崎上島の間の海の水深や漁の網が仕掛けられている場所などを丹念に調査。2週間ほどかけて、学生みずからオリジナルの地図を完成させました。

船に設置したセンサーと地図の情報を組み合わせ、AIが最適なルートを探すことができるようになりました。
広島商船高等専門学校 5年 鳥居幹也さん
「最初は自動運航なんて本当にできるのかな、と思っていたけど、島の人たちが将来も安心して島で暮らせるように、いい船を作るために協力できてうれしい」

実験で見えた課題

実験も終盤にさしかかった10月中旬。記者(福島)も船に乗船させてもらうことができました。
船に積まれたパソコン画面のスタートボタンをクリックすると、船が自動で動き始めました。

この日はよく晴れて、波も穏やかでした。

船は、たびたび流れてくる木やごみを避けながら、思った以上にスムーズに進んでいき、驚きました。
一方、およそ2か月に渡る実証実験で課題も見つかりました。

その一つが、プレジャーボートや漁船、水上スキーが近くを通ったあとに押しよせてくる「波」です。

これらの波で船体が大きく揺れ動いてしまい、波を障害物として検知して、止まってしまうことがあるのです。

そしてもう一つが、海上のルール「右側通行」を守ることです。

海上では、船どうしがすれ違う場合、向かってくる船の右側を通る必要があります。

しかし、ごみなどの障害物や波の状況によっては、AIが船の左側を通るルートを選択してしまうこともあるのです。

実証実験では、安全を最優先にするため、必要に応じて手動に切り替えて航行しました。

木村さんは今後、AIの学習精度を高め、実用化に向けた改良を重ねていきたいと考えています。
エイトノット CEO 木村裕人さん
「人口が少なくなっている離島のエリアでは、最後の1人になるまで実際にふだんと変わらない生活を維持できる環境を自律航行の技術で実現することがわれわれの使命だと思っています/正直、まだ完全ではなく第一歩に過ぎません。自動航行船が世の中に受け入れられるために最も大切な安全性をさらに高めていきたいです」

実用化 目標は2年後

国土交通省によりますと、今の法律では、自動航行する船であっても、安全性を確保するため、船舶免許を持つ人が乗船する必要があり、無人で航行できるわけではありません。

会社では、こうしたルールにのっとりながら2年後に、食料品や日用品などの荷物の運搬を、4年後には利用客を乗せた形で、自動航行の船の実用化を目指しています。

“自動配送ロボット”の可能性

自動運転の技術開発、進んでいるのは海の上だけではありません。

北海道の石狩市ではことし9月、少し変わったものが車道を走っていました。
長さおよそ2.5メートル。高さおよそ1.7メートル。幅およそ1メートル。幅こそ少し狭いものの、軽ワゴン車に近いくらいの大きさがあります。

しかし、運転席はありません。
荷物を載せて自動で目的地まで走る「自動配送ロボット」です。

京都の情報通信会社が8月中旬から9月中旬にかけて、地元の事業者の協力を得て、車道を使った実証実験を行いました。

全国初 “車道”で実証実験

自動配送ロボットの実証実験は、これまでも各地で行われてきました。ただ多くは、荷物を受け取る場所から配送する場所、1か所を結ぶ実験です。

今回は、複数の依頼主から荷物を集めて複数の宛先に運ぶ方法で行われました。
配達先が多い分、ロボットそのものの大きさも大きくなります。できるだけ多くの場所を回るため、スピードを上げて走る必要もあります。

このため、ロボットは車道を通って配送することになりました。

警察庁によりますと、自動配送ロボットが車道を通りながら荷物を運ぶ実験は初めてだということです。

専用アプリでカンタン配送

荷物の集配にはスマートフォンの専用アプリを使います。

店の担当者がお客さんから商品の注文を受けると、アプリでロボットに配送を依頼します。

ロボットの到着後、再びアプリを操作すると、側面にあるロッカーの扉が開いて、中に荷物を詰めることができます。

ロッカーは大小20あり、品物の大きさによって使い分けることができます。
受け取る側には、到着時間が近づくと、アプリに通知が届きます。

指定場所にロボットが到着したら商品を受け取り、配送完了です。

ロボットには、およそ6キロのルートが事前にプログラムされていて、一時停止など交通ルールを守りながら走ることができます。

最高時速は12キロ。周囲の車や障害物を把握するため、車体にはカメラとセンサーが取り付けられています。

人手不足・コロナ… 高まる期待

今回の実験では、あくまで会社の事務所で監視していて、危険だと判断したときは自動走行から遠隔操作に切り替えていました。

実験期間中、急ブレーキや急減速などをする場面もあったということです。
実験のリーダーを務める吉田洋さんは、「今回の実験でようやく幼児が自転車に乗れるようになったという段階だ」と話しています。

実用化に向けては、事故を起こした際の保険の整備など技術面以外のハードルも多く残っています。

安全性を高めていくための検証も欠かせません。吉田さんたちは今後も実証実験などを重ねていくことにしています。
京セラコミュニケーションシステム 吉田洋副部長
「自動走行の技術的な部分とどのようにロボットを運用するかというオペレーションの部分の両面から今後も実証を何度か重ねていって、安全性と経済性を評価していきたい」
ネット通販の利用拡大で配送のニーズは増えている反面、配送を担う運転手の人手不足は続いています。

実用化の時期がいつになるか、まだ見通しは立っていないということですが、吉田さんは「世の中で思われているよりは早く、日常的にロボットが走っている状態が作れるのではないかと思っている」と早期の実用化に自信も見せていました。

さまざまな場所で進む自動運転技術の開発。いまある社会の課題を解決することにつながるのか、これからも注目していきたいと思います。
広島放送局 記者
福島由季
2021年入局 広島県内の経済取材を担当。島が大好きで瀬戸内海の約30の有人島をめぐった経験も。
札幌放送局 記者
岡崎琢真
2017年入局 旭川局を経て現在、千歳支局で新千歳空港や地域経済などを取材。