大谷翔平インタビュー 本人が語る衝撃シーズンの真相

大谷翔平インタビュー 本人が語る衝撃シーズンの真相
大リーグで今シーズン、話題の中心であり続けた大谷翔平選手(27)
現代野球では例のない投打の二刀流を1年間やり遂げた。

投げては160キロ超え、打っては140メートルを超えるホームラン、そしてトップクラスの俊足といったプレーのパフォーマンスそのものは、野球の神様と言われるベーブ・ルースを「超えている」という評価さえあり、今シーズンのMVP=最優秀選手の受賞が有力視されている。

「世界一の選手になりたい」と海をわたって4年。
その目標に限りなく近づいたと言っていい衝撃のシーズンを、本人はどんな思いで過ごしていたのか。シーズン終了後、単独インタビューで語った。
(NHKスペシャル取材班 アメリカ総局・山本脩太)

開幕前 「不透明」だった自分自身

「10試合で終わるのか、15試合投げられるのか。分からない部分が多かった」

大谷選手の大リーグでのこれまでの3年間は、けがとの戦いの連続だった。
1年目の2018年こそピッチャーとして4勝、バッターとしてホームラン22本を打って新人王に輝いたが、その年のオフに右ひじのじん帯を修復するトミー・ジョン手術を決断。
翌年はバッターで軸足となる左ひざを手術した。
右ひじの手術から1年半以上が経過した昨シーズンもピッチャーでは0勝1敗、防御率37.80。
バッターでも打率1割9分と本来のパフォーマンスにはほど遠く、開幕前、アメリカのメディアの中には今シーズンを「二刀流のラストチャンス」と見る向きもあった。

大谷選手自身はどう感じていたのか。
大谷翔平選手
「昨シーズンも投げましたが、ピッチャーとして本当の復帰という意味ではことしだと思っていました。ただ、どのぐらい投げられるのかなというのは、10試合で終わるのか、15試合投げられるのか、20試合投げられるのか、あまり分からない部分が多かった。そういう意味では投げられたほうかなと思いますし、この1年、自分自身が期待から計算できるようになったのはすごく大きなことかなと。チームとしても、不透明なところから、ことしを軸に計算できるようになるというのは、大きな違いかなと思います」
「不透明」だった開幕時から「計算できる」ようになるのに、大きなカギとなったのが4月4日のホワイトソックス戦。
大谷選手にとって初物づくしの日だった。

今シーズン初登板の試合で、大リーグで初めて投打の同時出場。
指名打者でフル出場した翌日に先発登板するのは、プロ入り後初めてだった。
この試合で大谷選手は右ひじ手術後の公式戦で初めて160キロを超えるボールを投げ、5回途中まで1失点、7奪三振と好投。
打っては第1打席にすさまじい当たりの先制ホームランをライトスタンドにたたき込んだ。

エンジェルスのマッドン監督は「二刀流を疑っている人たちを黙らせた試合」と表現した。
「不透明」だった二刀流の価値を証明した試合だった。
大谷翔平選手
「やっぱりスタートが大事というか、最初のほうでいい印象を残さないと使い続けてもらうのは難しいと思ってました。指名打者を解除して投打で出ることにはメリットもデメリットもあるので、最初のところでつまずいてしまうとやっぱりデメリットのほうが印象に残ってしまう。監督も使ってくれますけど、やっぱり不安はあったと思うので。あの時はまだ、長いイニングを投げないといけないという立場では正直なかったので、1回1回、丁寧に全力で抑えにいくという段階でしたけど、指名打者を解除して出場する周りの不安みたいなものを少し減らすことができたのがいちばんよかったと思います」

練習を減らす 我慢の決断

二刀流として好スタートを切った大谷選手は、ホームランを量産した。

日本選手で初めて6月・7月と2か月連続で月間MVPに輝き、ホームラン王争いを独走。
前半戦だけで33本を打ち、松井秀喜さんの持つ日本選手のシーズン最多記録(31本)を早くも更新した。

オールスターゲームでは史上初めて投打の両部門で選出され、ホームラン競争にも初出場。
会場では大リーグのスター選手たちがこぞって大谷選手にサインや記念撮影を求めた。
まさに“破竹の勢い”だったこの頃について聞くと、大谷選手は冷静に答えた。
大谷翔平選手
「あの時期というのは、ちょうどいろんなものがかみ合う時期だったなと思います。ヒットの数が増えているわけではなくて、ヒットがホームランになっているという印象だったので、スイング自体がいい角度で上がる軌道だったのかなと」
驚きだったのは、バッターとして快進撃のさなか、大谷選手はほとんどバッティング練習をしていなかったことだ。

この時期にはもう、毎日試合に出続けることが当たり前になっていて、投げる前日も翌日も、変わらず指名打者で出場していた。
毎試合前の練習ではキャッチボールやブルペンでの投球練習など先発ピッチャーとしてのルーティーンはこなしていたが、グラウンドでのバッティング練習は4月1日の開幕戦でしただけ。

去年までとは違う行動にはある考えがあったと言う。
大谷翔平選手
「長いシーズンを見る中で後半戦も見据える必要はあったので、1日の運動量をある程度決めることが大事だったと思います。ある程度リカバリーの時間が決められている中で動きすぎてもあまり効果もないので、それよりは練習量を減らしたりなるべく疲れさせないことが大事でした。調子が悪い時はやっぱりバットを振りたくなるんですけど、そこでなるべく自分をおさえて、長い目で見て『今は我慢する時だ』と。初めての経験で難しかったですけどね」

苦しかったシーズン後半 気持ち支えたものは

練習量を減らすことで疲労の蓄積を軽減し、試合に出場し続けた大谷選手。
しかし、何とか勝率5割で持ちこたえていたチームの成績がシーズン後半になると下降し、最大の目標であるプレーオフ出場が遠のいていった。
大谷翔平選手
「最後の2か月なんかは、プレーオフがほぼない状況でプレーするのは、なかなかしんどいところはありました。それでも毎日試合はあって、やらなきゃいけない。もちろんみんな頑張っていましたけど、球場に来る足取りも重くなると思いますし打席やマウンドでの気迫も…。やっぱり勝たないと楽しくないので。チームとして勝つから楽しいのであって負けたら何も楽しくないですし、そこにどれだけ自分が貢献していくかというのが楽しみだったりするので、プレーオフの目標がないというのはプレーヤーとしてはきつかったです」
この頃、個人成績では、ブルージェイズのゲレーロJr.選手、ロイヤルズのペレス選手と三つどもえの激しいホームラン王争いとなっていた。

大谷選手はプレーオフ進出を目指す相手チームから、厳しくマークされた。
相手バッテリーの攻めはホームランが出にくいアウトコースが中心になっていく。
フォアボールはしょうがないとコースぎりぎりを攻められ、勝負どころでは敬遠される場面も増えた。
ホームラン王に手が届くかどうかの正念場でもどかしさが募る状況だったが、大谷選手はこの苦境すら楽しんでいた。
大谷翔平選手
「大リーグでこういう経験ができるとは正直あまり思ってなかったので、なかなか新鮮な経験でした。どういう攻めかたをされても、基本的にはストライクゾーンの枠の中に入ってきたボールを振る。それが難しいんですけど。際どいボールの見極めもそうですし、単純に甘いボールが多い打席よりもバッターとしてのスキルアップになったと思うので、いい経験でした」
大谷選手はピッチャーとしても、ベーブ・ルース以来となる「ふた桁勝利、ふた桁ホームラン」の達成にあと1勝と迫っていた。
しかし、前しか見ない27歳の思考はここでも、103年ぶりの記録をつかむ1勝より、目指す理想のピッチングを追い求めていた。
大谷翔平選手
「もちろん勝ち星も大事ですし、ふた桁勝利というのも大きなことではあると思うんですけど、それよりは実戦の中で試したいことのほうがありました。いちばんは試合で勝つことなんですけど守りに入る必要もないですし、せめて何か自分でいいものを見つけてシーズンを終わりたいという気持ちがあったので。最後にいい形でピッチングを終わることができたのは、来年に向けていいイメージを持つことができたという意味でもすごくよかったと思ってます」

ことしが「基準」 ことしが「最低」

いまさら言わずもがなだが、大谷選手が今シーズン投打で残した成績は常識を超えている。
こんな選手はこれまで存在しなかった。

早くも今シーズンのリーグMVPの受賞は確実との声も上がる中、自分の理想とする数字はあるのか、大谷選手に聞くと「うーん」と少し悩んだあとにこう答えてくれた。
大谷翔平選手
「まあ、ことしの数字がやっぱり最低じゃないかと思います。ことしできたことが来年できないということはなくしたいと個人的に思ってますし、チームとしてもそれは絶対かなと思うので。もちろん、いつどうなるかは分からないですけど、投げるほうでもことし投げた数字が基準になってそれを計算して使ってもらうので、そこで50イニングとか100イニングしか投げられないとなると、チームとして崩れてきてしまいますし。ある程度、計算してもらう数字に到達しなくてはいけないというプレッシャーは大きくなると思います。不安もあるし、楽しみもありますね」
20年前、日本選手で唯一となるMVPを受賞したイチローさんは今シーズンの大谷選手について「中心選手として長い間プレーするには1年間全力でプレーした軸となるシーズンが不可欠だ。それがことし築けたのではないか」とコメントした。

大谷選手自身も、今シーズンの異次元の活躍をみずからの最低ラインとして今後のシーズンに臨んでいくと語った。

来シーズンは、私たちにどんな姿を見せてくれるのか。
開幕が今から楽しみでしょうがない。
アメリカ総局
スポーツ担当記者
山本 脩太
2010年入局
スポーツニュース部で
スキー、ラグビー、
陸上などを担当
去年8月から現所属