透明なマスク 気象庁の記者会見 着用の理由を探ってみると…

今月20日の阿蘇山の噴火や、今月6日に首都圏を襲った震度5強の揺れ。最近、気象庁が緊急に開く記者会見が相次いでいます。その内容はもちろんですが、口元にも注目された方が多かったのではないでしょうか。

口の周りが透明な、少し不思議なマスクです。

「マスクが斬新だった」
「シュノーケルのゴーグルを口につけてるみたい」
ツイッター上でも、さまざまな声が上がっていました。

なぜ、このマスクを着用するのか?その背景を取材しました。

きっかけは去年の豪雨災害 不織布マスクつけ記者会見

導入を決めたのは、会見の運営を担当する気象庁広報室の山本太基報道調整官。きっかけは去年、九州を襲った豪雨災害の時の記者会見でした。

この時、新型コロナウイルスの感染が拡大していたこともあり、担当者は不織布のマスクをつけて大雨への警戒を呼びかけました。
こうした会見には手話通訳も同席しています。

しかし会見のあと、気象庁には聴覚に障害のある人などから次のような要望が相次いで寄せられたということです。

「マスクを外してほしい」
「口唇の動きで情報を読み取ることができる」
「せっかく有用な情報も届かなければ意味がない」

「少しでも情報が伝わる工夫を心がけたい」

とはいえ感染が拡大している以上、マスクなしでの会見は難しいと考えた山本さん。

フェイスシールドや壇上に透明なアクリル板を設置することも検討しましたが、多くの報道陣が集まり、長時間に及ぶこともある会見の場では飛まつが広がるおそれも拭えないとして断念しました。

そんな中、インターネットで口元が透明なマスクがあることを知り先月、導入を決めたということです。

山本さんは「こうしたマスクを使う緊急の記者会見の場はなるべく少ない方がいいですが、あった時には少しでも情報が伝わる工夫ができるよう、これからも心がけていきたい」と話していました。

販売企業“きっかけは聴覚障害のある社員からのメール”

このマスクを販売している企業の担当者に聞いたところ、開発のきっかけは聴覚に障害のある社員から社長に宛てた1通のメールだったということです。

その社員はコロナ禍で周囲がマスクをするようになる中、相手の口元を読み取ってことばを理解することができなくなり、仕事が思うように進まないと悩んでいたそうです。

母親に相談したところ口元が見えるマスクを手作りしてくれたため、職場の同僚などに配り使ってもらっていたとのこと。
こうした取り組みを社長にメールで直接伝えると口元が見えるマスクの開発の指示が出たということで、ことし4月に最初の販売を開始しすでに6回販売していますが、早い時はわずか数時間で完売してしまうということです。

口元が見えるマスク 必要とする人はほかにも…

この社員のように口元が見えるマスクを必要とし、その普及のために活動している大学生もいます。早稲田大学で学んでいる川端彩加さんは、生まれつき耳が聞こえません。
学生ボランティアによるパソコン通訳や手話通訳を活用しながら講義に出席しているということですが、話している人の口の形や表情から相手の話を理解する「口話」も重要だといいます。

しかし、コロナ禍でマスクを着用するようになったことで、口話でのやり取りが難しくなりました。

ことしの春から対面での講義が増えましたが、マスクをつけていると教員が何を言っているかわからず「授業についていけない」と不安を覚えたのだそうです。

そんな時、友人から口の形が見える透明マスクの存在を教えてもらった川端さん。

「みんなと同じ空間・時間を共有して勉学に励むことができる」と、希望が持てたといいます。

自分と同じ悩みの、ろう・難聴学生にもマスクを届けたい

さらに川端さんは自分だけでなく同じように悩む、ろう・難聴学生の仲間にもマスクが届くようになればと考え、8月下旬「透明マスク活用大作戦」というプロジェクトを立ち上げました。

クラウドファンディングで資金を集め、口元が透明なマスクを購入し全国のろう・難聴学生に配ろうというこの取り組み。わずか1か月で目標の2倍以上に当たる200万円余りが集まり、現在は支援するNPOを通じてマスクを必要な学生に配っているということです。

川端さんは「ご支援いただいた方々に感謝しています。顔が見えるマスクで相手の笑顔が見えると心も温かくなります。聴覚の障害がある人の中には『口話』を大事にしてコミュニケーションをする人がいることを知っていただけたらうれしいです」と話しています。