天然ガス価格が高騰! 電気料金どうなる?

天然ガス価格が高騰! 電気料金どうなる?
火力発電所の燃料などとして使われる天然ガスの価格が世界各地で高騰しています。日本を含むアジア地域でも、そしてヨーロッパでも。
アジアのLNG=液化天然ガスのスポット価格は、ことし10月初旬には去年の同じ時期と比べて10倍を超える水準となりました。
いったい何が起きているのか? 取材を進めると、大国の戦略転換と、それに揺さぶられる日本の危ういエネルギー事情が見えてきました。
(経済部記者 西園興起 大阪放送局記者 甲木智和)

LNG価格は過去最高値に

こちら、アジア地域でLNG=液化天然ガスをすぐに取り引きする際の価格=スポット価格のグラフです。

10月6日には去年の同じ時期の10倍を超える水準となり、過去最高値を記録しました。

LNGに依存する日本

天然ガスはあまり身近な存在ではないと思うかもしれませんが、実は多くの方が利用しています。

日本は、本来は気体である天然ガスをマイナス162度まで冷やして液体にし、体積を小さくして運ぶLNG=液化天然ガスを海外から輸入。

日本に運んでくると気体に戻して、発電所の燃料などとして使われています。

発電全体に占める割合はおよそ37%(2019年度)。

電源別ではもっとも高い比率です。

その価格が高騰しているというのですから、電気料金への影響が気になります。

電気料金への影響は?

その仕組みを説明します。

国内の電力会社が輸入するLNGのうち、8割程度が長期の契約です。
この長期契約は、3か月分の原油価格をベースに決まる仕組みになっています。

今、原油価格も上昇していますから、その価格上昇がLNGの調達に響き、電気料金の値上がりにつながっています。

一方、すぐに取り引きするスポット価格は2割程度です。

割合が低いので電気料金への直接の影響は限定的ではありますが、想定を超える寒波が続き、スポットでLNGを電力会社が大量に購入しなければならなくなると大変なコスト負担がかかり、電気料金にも影響してしまいます。
昨シーズンの冬は寒波でLNGが不足し、電力需給が厳しくなりました。
その結果、電力の取り引きをする卸売市場の価格が急騰して、一部の新電力が経営破綻してしまいました。

こうした苦い経験を教訓に、電力各社はこの冬に備えて通常期の1.5倍程度のLNGを確保していると説明しています。

気象庁は長期予報で「この冬は早い段階から強い寒気が入る可能性がある」と発表していますから、LNGの価格上昇が電気料金に影響しないか気がかりです。

天然ガス高騰 中国・ロシアの存在が

それではなぜ、天然ガスの価格がここまで高騰しているのでしょうか。

大きく影響を及ぼしているのが中国とロシアの存在です。

まずは中国の状況です。

10月上旬、関西電力本店の6階で開かれた燃料調達会議。

そこで議題に持ち上がったのが中国の動向でした。
シンガポールに駐在し、燃料調達の市場をみている担当者は、オンラインの会議で次のように発言。

「来年2月に北京オリンピックが開催される予定ということで、それに向けた環境シフトというのもLNGの需要として見込まれる」

これに対して、本店の需給を統括する幹部は警戒するように指示を出しました。

「世界全体に中国の一挙手一投足が非常に大きな影響を与えると思いますので、ここは引き続きよくウォッチしてほしい」

中国の“青空作戦”が価格上昇に

中国は今、環境シフトを進めるためにLNGを大量に購入しています。

中国の発電所のうち主要な電源は石炭火力です。

2020年の統計で61%を占めています。

一方、天然ガスは3%。

そのほとんどは国内生産やロシアなどからパイプラインで調達していますが、石炭火力から二酸化炭素の排出が比較的少ない天然ガス火力へと、急速にシフトを進めているといいます。

国が大きいため、使う電力量もばく大です。

国内生産やパイプラインだけではまかないきれずにLNGの調達を増やしていると、専門家は分析しています。

ことし1月から9月までの中国の輸入量は5800万トン余りとなり、世界最大の輸入国である日本の5600万トン余りを初めて上回りました。

LNG市場に中国という巨大な買い手が現れたため、その動向次第で価格が大きく揺れ動くような事態になってしまっているわけで、まさに、中国がくしゃみをすれば日本がかぜを引く状況になっているのです。
猪飼副本部長
「青空作戦といわれていますが、中国では石炭を抑制して中国国内の空気をきれいにするということを国をあげてやっている。もし中国が寒波や電源トラブルでLNG需要が想定を上回るようなことになった場合、われわれも影響を受けないわけにはいかない」

ヨーロッパでも天然ガスが高値に

ヨーロッパでも天然ガスの価格は高騰しています。

指標となるオランダTTFというガス先物価格は10月初旬、去年の同じ時期と比べて一時、8倍以上の水準に達しました。

ヨーロッパのスポットでの天然ガスの取り引き量はアジアの3倍以上で、その価格はアジア市場にも大きく影響します。

西ではロシアの戦略が市場をゆさぶる?

ヨーロッパでは輸入される天然ガスの多くは主にロシアなどからのパイプラインで供給されています。

価格上昇要因について、日本のエネルギー分野の専門機関である「JOGMEC石油天然ガス・金属鉱物資源機構」は次のように分析しています。
・ことし1月の寒波でアジアでLNGの需要が高まり、ヨーロッパでは在庫減少傾向

・ことし4月と5月が想定外の寒さで暖房需要が増加

・ヨーロッパ北西部では風が穏やかで風力発電の発電量も少なくなった

・一方、ロシアなどからの天然ガスの供給は、増加した需要に対して十分ではなかった
なぜ、天然ガスの供給が十分ではない事態になったのか。

JOGMECはヨーロッパからの情報をもとに、エネルギー大国・ロシアがヨーロッパ各国に揺さぶりをかけているのではないかと見ています。

火種となっているのは、現在建設中の天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム2」です。

ロシアとヨーロッパをむすぶ新たなパイプラインです。
もともとこのパイプラインの建設をめぐっては、アメリカ・トランプ政権がロシアのヨーロッパ、特にドイツに対する影響力が強まるとして、建設に関わっている会社を制裁対象とし、国際政治の場で緊張が高まっていました。

ことしに入ってアメリカはバイデン政権が発足。

この制裁は実質解除されたのですが、ドイツが許認可の手続き途中で、時間がかかっています。

このため、ロシアが既存のパイプラインでガス供給量を絞り込み、ヨーロッパ側に圧力をかけているのではないかとの思惑が広がっているというのです。

ロシアは供給削減を否定

これに対してロシアのプーチン大統領は、供給量の削減を強く否定しています。

10月13日、モスクワで開かれたエネルギー関連の国際会議で「困難な状況の中でもヨーロッパへの供給を増やしている」と反論しました。

政治的な真意は分かりませんが、さまざまな思惑や戦略が絡み合い、天然ガスの指標価格(TTF)は急騰。

それがアジア市場にも影響を及ぼしています。

揺れ動くガス市場 先行きは…?

大国の動きが天然ガスの価格を動かし、それが回り回って、私たちの電気料金にも影響しかねない。

専門家は脱炭素の流れが加速する中、今後もこうした局面は頻発するおそれがあると指摘しています。

JOGMECの白川裕調査役によると、脱炭素の機運が高まる中、化石燃料の開発は投資家から厳しい視線が注がれているといいます。

一方で、ロシアやカタールは、国家経済を潤すためにも天然ガスなどの生産を継続する構えで、今後一層存在感が高まってくる見通しで、ロシアの生産状況や中国の需要動向で市場が揺れ動く局面は今後も生じうるとしています。

求められる戦略的なエネルギー政策

世界各地で天然ガスの価格が上昇していることの影響について、専門家は、エネルギーコストを意識したエネルギー政策が必要だと指摘しています。
竹内理事
「エネルギーはぜいたく品ではなく、どうしても生活や経済の中で使用するもので、価格が高騰すると家計にとって厳しいことになる。また、エネルギーは工場でも使うため価格が上がると、電気代が安い国に産業が流れていってしまうおそれもある」
電気料金の高い、安いが国の産業競争力に直結するリスクもある中、日本は中国やロシアのエネルギー戦略の転換に翻弄されているようです。

国としてどのようにエネルギーの安全保障を保っていくのか、資源が乏しいだけに日本は長期的な視点に立った戦略的な外交・エネルギー政策が必要であることを天然ガスの価格上昇を通じて痛感しました。
経済部記者
西園 興起
平成26年入局
大分局を経て経済部
現在、経済産業省や
エネルギー業界を担当
大阪放送局記者
甲木 智和
平成19年入局
経済部で金融業界などを取材し、現在、大阪局で経済担当