“年収” なぜ上がらない?専門家に聞きました

民間企業で働く人の去年1年間の平均給与は433万円余り。この30年間で各国の所得は大幅に上昇したのに対し、日本はほぼ横ばいで推移しています。

「なぜ年収は上がらないのか?」

私たちに寄せられた意見をもとに専門家に聞いてみました。
(おはよう日本取材班)

「年収が上がらない」寄せられた意見は

東京・新橋で、私たちは働く30人に「年収」について伺いました。
さらにネット上でも意見を募りました。
その中で「上がらない年収」について私たちに寄せられた意見を紹介します。
「(給料の)上がり幅が少なく、将来を見ても大きな賃上げを期待できない」
(20代・神奈川県独身・400万円台)

「仕事は増える一方だが、昇給の見込みがない」
(40代・東京都 夫婦(子どもあり)・600万円台)

「この20年間、上がったというほぼ実感がない。健康保険、介護保険料、通信費はうなぎ登り」
(50代 高知県 夫婦(子どもあり)・800万円台)

「これまでどうして上がっていないのか、どうしたら上がるのか知りたい」
(20代・千葉県 夫婦(子どもなし)・300万円台)

「教育費に多くを費やしており、蓄えがあまりない。妻の両親も自分の両親も今は健在だが、今後、介護などが必要になる場面があると思うと不安」
(40代 千葉県 夫婦(子どもあり)・1000万円以上)

「年収が増えると同時に税金が重く、また社会保障の額も大きくなる。払っている額に反比例して控除や児童手当などの給付がほぼ無い」
(40代 奈良県 夫婦(子どもあり)・1000万円以上)

いずれの方々も年収はもとより、年齢や地域、家族構成なども異なります。

民間企業の平均給与は433万円余り

国税庁が先月発表した「民間給与実態統計調査」によりますと、去年、1年を通じて民間企業で働いた会社員やパート従業員などは5245万人で、平均給与は433万1000円でした。

1990年代後半から上がっていない年収

実際、働く人たちの年収はどうなっているのか。

この問題に詳しい日本総合研究所の石川智久さんに取材すると、「総額は1990年代後半からほぼ上昇していないですね」という回答が返ってきました。
なかでも、その傾向が顕著なのが40代~50代です。

このグラフは、ボーナスや時間外労働を除いた基本給にあたる「所定内給与」の推移を表していますが、20代~30代の若い世代はベースが昇給している一方で、40代~50代は以前より低い水準になっていました。
では、その理由は何か。2人の専門家に聞きました。

成長率が低く見通しが不確実 企業は賃金を上げていない

マクロ経済が専門の慶應義塾大学経済学部の小林慶一郎教授は1990年代のバブル崩壊期にその原因があるといいます。

「変化の時期を逃したのは1991~94年。不良債権処理をやっておけばよかったが、2005年までかかってしまったのです。日本と同じバブルが崩壊したスウェーデンなどはそのあと成長しています。結局、成長率が低いので企業は見通しが不確実だとして賃金を上げていない。大きく見れば物価もあまり変わらず、給与も同じような水準が続いている状況です」。

バブル崩壊後の低成長期で賃金制度の維持困難に

一方、日本総合研究所マクロ経済研究センター石川智久所長は増加する業務量と日本独特の賃金カーブを理由に挙げました。

「この数年、人手不足の影響で業務量が増え、前より働いているのに給与がついてきていないと感じるのではないでしょうか。基本給が上がっておらず、昇給幅も小さいことから、実感しづらいとおもいます。バブル期までは、終身雇用を背景に、若いときは給料が低いが、中高年期に給料がアップするというのがありました。しかし、バブル崩壊後の低成長期に入ると、こうした賃金制度を維持することが難しくなりました。大企業の統計では、20年前と比べても中高年層の人のベースの給与が上がらなくなっています」。

海外では上がっているのに...

寄せられた声の中にはこんな意見もありました。

「大企業は最高利益を上げたり、最高の内部留保を確保したりしていると聞くが、どうなっているのと感じる」
(50代・高知県 夫婦(子どもあり)800万円台)

「なぜ日本の企業だけ収入が上がらないのか、原因と対策を知りたい」
(40代・神奈川県 独身700万円台)

確かに、バブル崩壊はすでに30年近く前の出来事。

さらに、リーマンショックの後もいざなぎ超えの好景気があったはずです。

それがなぜ賃上げにつながらないのか?石川さんが説明に持ち出したのがOECD=経済協力開発機構のデータです。
日本と先進各国の所得の伸びを比較したものですが、ご覧のようにこの30年間で各国の所得は大幅に上昇したのに対し、日本はほぼ横ばいで推移しています。

いったいなぜなのでしょうか。

給料を上げない代わりに解雇しない

石川所長は「アメリカなどは景気に合わせて賃金も上がっていきました。ただ、簡単に解雇などをしているので、失業率が高いんです。韓国も2018年に最低賃金を上げましたが、それによって仕事を失う人も急増しました。それに対して、日本は給料をあげない代わりに解雇しないという選択をしてきたといえます」。

淘汰がなく安定的だが進化が起きない

小林教授は「他の国は物価も上がっていて、30年ぐらい前の2倍になっています。日本は安い国になりました。タクシー運賃やホテルの値段もです。円の価値があがっていないともいえます。ほかの先進国は、比較的高い値段をつけても高く売れるもの、つまり付加価値が高いものをつくっています。アメリカは倒産して新しい企業が生まれている。日本は淘汰がないのが安定的ですが、進化が起きないので悪いことだと見ることもできます」。

若い世代は将来を不安視

賃上げしない代わりに雇用を守ってきたという日本企業。

ただ、若い世代からは将来を不安視する意見も寄せられました。

「車を買おうと見積もりを出したら毎月のローン返済に3万5千円。今後、数年間は貯金できない」
(20代 宮城県独身 300万円台)

「契約社員だが、仕事量が給与に見合っていない。安く買いたたかれていると感じる。このまま結婚も出来ず、老後が不安」
(30代 神奈川県独身 300万円台)

「子どもは欲しいが今の収入では満足に子育てできるか不安」
(20代 栃木県 夫婦400万円台)

こうした声を専門家はどう受け止めるのか。

企業は徐々に『雇用』から『賃金』へシフトを

石川所長は「企業が賃金を上げざるを得ない状況に来ています」と指摘しています。

「ここ4、5年で急速に人手不足になっていて、よりよい人材を確保するためには賃上げが必要だと思います。企業は徐々に『雇用』から『賃金』へとシフトをしていく必要があり、そのためにも、デジタル化を進めるなど、生産性を上げていくことを意識していくべきです」

所得格差を是正する社会保障制度を

一方、小林教授は企業の賃上げが難しい今は、行政の役割が重要だと指摘します。

「子育てへの支援、政府による子育て支援の予算が他の国に比べて少ないです。そこはもっと充実させるべきです。生活の困難の抱えている人には手厚く分配をして、所得の大きい人から課税を強化する所得格差を是正する社会保障制度が必要です」
こうした賃上げは、会社の規模によっては、難しいケースもあるかと思います。

一方で、さまざまな工夫などにより、すでに自分の会社は賃上げを実現したという方もいらっしゃるかもしれません。

ぜひみなさん、以下のアドレスに投稿してください。
https://forms.nhk.or.jp/q/OLPBS8UH

今後も取材したいと思います。