ビジネス特集

アメリカ EVシフトは進むのか 起爆剤はこんな車!?

上の画像は去年アメリカで最も売れたタイプの車です。
エンジンが生み出すパワーで悪路や広い国土を駆け巡るこうした大型の車は、「ピックアップトラック」と呼ばれています。去年の新車販売ランキングで1位から3位を独占し、アメリカの車の象徴です。
軽自動車やハイブリッド車が売れている日本とは状況が大きく違いますが、脱炭素の機運が世界的に高まる中、ガソリン車からEV=電気自動車などに移行する流れはアメリカにも押し寄せています。
果たしてアメリカでピックアップトラックのEVシフトは進むのか。日本メーカーの戦略にも影響するその動きを掘り下げます。
(アメリカ総局 江崎大輔)

ピックアップトラックの新たな姿

私はことし9月、アメリカの中西部ミシガン州デトロイト近郊で開かれたモーターショーを訪ねました。

アメリカでは新型コロナウイルスの感染が拡大した去年3月以降、主要なモーターショーが開かれておらず、各社が開発した最新のモデルを久しぶりに直接見ることができる機会とあって、多くのメディアが集まっていました。

会場でひときわ注目を集めていたのが、フォードが来年発売を予定している「F150ライトニング」。アメリカで最も売れているピックアップトラックをEVにしたモデルです。
フォードが発売予定のピックアップトラック(EVモデル)
メーカーは、ピックアップトラックに求められる機能を盛り込んだとアピールしています。

高性能のバッテリーを搭載することで、一回の充電で走ることができる距離をおよそ480キロメートルとし、力強い走行性能を実現したとしています。

試乗してみたところ、確かにピックアップトラックらしい加速力を感じました。
フォードが発売予定のピックアップトラック(EVモデル)
また、エンジンがなくなったフロント部分に大きな収納スペースを設けたり、キャンプ場や工事現場での作業に電源を供給できる機能を持たせたりしています。

価格は日本円でおよそ440万円から。すでに去年アメリカで売れた新車のEVの半分にあたる15万台以上の予約が入っているといいます。
フォード EV開発担当 ダレン・パーマーさん
フォード EV開発担当 ダレン・パーマーさん
「アメリカでも数年で電気自動車への移行が加速するでしょう。この車は、電気自動車の購入を考えているアメリカの人々に大きなインパクトを与えると思います」
GMが発売予定のピックアップトラック(EVモデル)
こうした動きはほかのメーカーにも広がっています。

アメリカの最大手、GM=ゼネラル・モーターズもピックアップトラックのEVモデルを近く発売することを計画しているほか、スタートアップ企業も参入し、各社がピックアップトラックの新たな姿をこぞって打ち出しているのです。

アメリカ EVシフトに力を入れるわけは

なぜ今、アメリカでピックアップトラックのEVの投入が急がれているのでしょうか。

背景にあるのが、EVシフトの遅れです。
去年の新車販売台数に占めるEVなどの割合は、およそ2%。日本を上回っているものの、EUの10.5%や中国の5%に比べると少ないのです。
脱炭素の機運が世界的に高まる中、危機感を募らせたバイデン大統領はことし8月、電気自動車など走行中に排気ガスを出さないゼロエミッション車について、新車販売全体に占める割合を9年後の2030年に50%に引き上げる大統領令に署名しました。

これを受けてGMやフォードは、2030年までに年間販売の40%から50%をゼロエミッション車に切り替える目標を示しました。

主力モデルをEVに切り替えていかなければ、この目標は達成できません。

そこで各社がピックアップトラックのEVに力を入れ始めたというわけなのです。

ユーザーはEVシフトをどう見ているのか

アメリカの自動車ユーザーに愛されてきたピックアップトラック。EVへの切り替えが受け入れられるのかを探るため、私は中西部ネブラスカ州に向かいました。

広大な農牧地帯で知られる地域だけに、ピックアップトラックの使われ方を知ることができると考えたのです。
降りたってみると、その存在の大きさは想像以上でした。

最大都市オマハの中心部ですら、いたるところにピックアップトラックが走っていたのです。

ユーザーに聞くと、こんな声が返ってきました。
ピックアップトラックのユーザー
「荷物を運ぶならこの車です。ずっと乗っています」
「生涯ピックアップトラックです。最高です」
車はどんなふうに使われているのでしょう。
同乗取材をさせてくれたのは、配送の仕事をしているマイク・クックさんです。
マイク・クックさん
父親が12年前に購入したピックアップトラックを大切に使っています。

広大な農牧地帯が広がるネブラスカ州。クックさんが配送で走る距離は、1日で320キロメートル以上に達する時もあるといいます。

走る道路は舗装されていない場所もあります。雪や雨の日も休むわけにはいきません。

大きな荷物を載せながら悪路を長い間走ることができる車が生活に欠かせないことを、横に乗りながら実感しました。
クックさんにEVのピックアップトラックについて尋ねてみました。

「関心はあります」と答えたクックさんですが、購入に踏み切るには不安があると明かしました。

毎日仕事で長い距離を走るだけに、途中でバッテリーが切れると仕事に支障をきたすからです。

クックさんの住む地域では充電施設の整備が十分に進んでいないのです。
マイク・クックさん
マイク・クックさん
「電気自動車の購入をためらう大きな理由はインフラの不足です。長時間、走るのは不安になります」
国土が広い分、充電施設のインフラ整備はアメリカのEVシフトにとって大きな課題です。

充電施設は、今の時点で全米でおよそ4万8000か所にとどまっています。

バイデン政権は、全米に50万か所の充電施設を設ける方針を示していますが、身近に整備されるまでユーザーの不安は払拭されそうにありません。
電気自動車の充電施設

日本メーカーの経営戦略にも影響

アメリカでピックアップトラックのEVシフトが進むかは、日本メーカーの経営戦略にも影響します。

多くのメーカーにとってアメリカ市場は収益の柱で、今後、EVの販売を計画するメーカーもあるからです。
トヨタが発売予定のEV多目的スポーツ車
例えばトヨタ自動車は来年、アメリカ市場でEVの多目的スポーツ車の発売を予定しているほか、ホンダも2024年にEVを投入する計画です。

アメリカのEV市場がどう拡大するかを占ううえで、ピックアップトラックのEVが消費者の心をつかむのかがカギなのです。

新しいピックアップトラックがアメリカのEVシフトの起爆剤となるのか、世界2位の自動車市場で始まった変化に大きな関心が集まっています。
アメリカ総局 記者
江崎 大輔
2003年入局
宮崎局、経済部、高松局を経て今夏から現所属

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