WEB特集

就活「替え玉受検」「ウェブテスト代行」の実態

今年4月、NHKのディレクターとして入局した私。
去年まで学生として就職活動をしていた私には、調べたいことがありました。

それは就活で広がるという「替え玉受検」の実態です。

3か月におよぶ悪戦苦闘の取材から分かってきたのは、替え玉受検から見えた就活の課題。
そして、就活生と企業の「幸せなマッチング」の在り方でした。
(政経・国際番組部 ディレクター 渡部詩織)

みんなすでに知っている?替え玉受検

さまざまな対策本
替え玉受検ということばを知った時のことを、今でもはっきり覚えています。

NHKに内定が出て、就活にようやく終止符を打った2020年6月。
カフェで、友人と何気ない会話をしていたときです。

友人が「替え玉受検って知ってる?」と聞いてきました。

友人の話によると、替え玉受検とは、本来なら1人でやらなければいけない適性検査を「他の人に受検してもらったり、みんなで協力して解いたりする」ことを指すらしいのです。

友人の話でさらにびっくりしたのは、その替え玉受検が行われていることを一部の企業はすでに知っているということでした。

私の頭の中は混乱状態。

不正だよね?
企業も知っているのに、なんで放っておいているの?

社会人になってからも、その疑問は私の頭の中から離れませんでした。

次から次へと経験者が

電話取材をする渡部ディレクター
今年4月にNHKに入局してから3か月。

私は早速、替え玉受検のことを調べ始めました。
つてを頼りに替え玉受検をした元就活生がいないか聞いていきます。

驚きました。

次から次へと替え玉受検に関わった人が見つかったのです。

「そんなに多くないだろう」と思っていた私にとって、衝撃でした。

6人に話を聞き、替え玉受検の全体像がなんとなく見えてきました。

替え玉受検は適性検査の“能力検査”で

就活はコロナ禍で面接まで含めほぼすべての過程でオンライン化が進みました。

一般的に就活生は説明会に参加し、就職を希望する企業が見つかったら志望動機などを書いたエントリーシートを提出します。

採用面接に進む前にテスト形式の「適性検査」が設けられるケースが多いです。

適性検査は「性格検査」と「能力検査」に分かれ、替え玉受検は特にこの「能力検査」で行われているようでした。

“なんとか面接までたどりつきたい”

取材を進めるうちに、匿名でのインタビューに応じてもいいという就活生に出会いました。
高橋ゆうきさん(仮名)です。
高橋さんにオンラインインタビューをする渡部ディレクター
高橋さんの就活はことしで2年目。

1年目は適性検査で落とされることが多く、ほとんど面接までたどりつけないまま就活が終わってしまいました。

2年目に入り、何としても面接までたどりつきたいという思いが罪悪感を上回ったと言います。
高橋さんが使っていた適性検査の問題集
高橋さん(仮名)
「背水の陣だという気持ちがありました。去年は『だめなことだ、自分でやりたい』って気持ちがあったから誰の手も借りずやってました。替え玉受検して内定が出てうれしいのかどうかっていうのもあったので。でもことしはお願いしようという心境の変化がありました。友人の力を借りてなんとか面接までいきたいという気持ちでお願いしました」

替え玉受検の手口とは

高橋さんや元就活生によると、替え玉受検は、能力検査をすべて友達に代行してもらうというのが手口だそうです。
ウェブでの受検は、IDやURLがわかれば誰でも簡単にログインでき、厳重な本人確認もないため、替え玉受検をやろうと思えばやれるといいます。

また、受検中に友達どうしで話し合い、解答の一部を教え合ったりすることもあるといいます。

あからさまな横行 ネットでは、代行業者も

ネットで検索してさらに驚きました。

13以上の代行業者が見つかったのです。

ツイッターでは替え玉受検を請け負うという個人アカウントが60以上確認できました。
ウェブやアカウントを見ると、
“有名大学出身者が代行” などとうたう代行業者がいます。
さらに、
“テスト科目ごとに点数調整” などのサービスまで用意されていました。

個人アカウントでは約1500円から5000円、代行業者だと1万5000円ぐらいが相場のようでした。

利用した就活生の声も載せられ「代行ありがとうございました。無事受かっていました」という声も紹介されていました。

代行業者から詳しく話を聞いてみたいと思い、9社に連絡を取りましたが、2社からは取材拒否、7社からは返答をいただくことができませんでした。

罪悪感はないのか…?

友人に替え玉受検を依頼した高橋さんは数千円程度のプレゼントをお礼に渡したと言います。

その後、適性検査を突破し、1社から内定を得ることができました。

替え玉受検をしたことを後悔してはいないのか、聞いてみました。
高橋さん(仮名)
「後悔はしていません。はじめこそ罪悪感っていうのはありましたけれども、回をかさねるごとにというか。ことしは去年とは違って(不採用だった場合も)実際に会って人柄を見てちょっと合わなそうですっていうのを判断してもらったので自分の中で納得できる就活だったなっていうふうに思っています」
また、他にも替え玉受検を頼んだ学生に話をきくことができました。
「オンラインでの適性検査は、全部替え玉受検だった」
「友達に全部丸投げで受検してもらった」
友人が替え玉受検を請け負っているという人からは。
「1回約3000円で代行をしている。忙しい時は週4件、替え玉受検している。これまで請け負ったのは30人以上だ」
みんな気軽に替え玉受検をしたり、替え玉受検を依頼したりすることに驚きました。

企業はどこまで知っている?替え玉受検

企業は、この実態をどこまで知っているのでしょうか。
そのヒントとなるデータを見つけました。
去年、採用に関するサービスなどを提供する企業が行ったアンケートでは、採用担当者300人のうち、66%が替え玉受検に課題を感じていると回答しています。
過半数を超える採用担当者たちが、替え玉受検の存在を認知していることをうかがわせるデータです。

採用担当者の本音を聞いてみたい。
ウェブで適性検査を実施する企業25社に取材を申し込みました。

しかし取材は難航します。
返答してくれたのは、半分以下の11社。

そのうち、3社は「回答を控える」と事実上のゼロ回答でした。

残り8社は、替え玉受検を知っているかどうかの回答をせず、対策はしていないと、短く回答しただけでした。

2か月におよぶ交渉の末、ある企業の採用担当者が企業名を明かさないことを条件に取材に応じてくれることになりました。

替え玉受検を知っていると認め、その広がりについて、率直に語ってくれました。
採用担当者
「(適性検査の代行が)堂々と出てきますね。検索ページに。ちょっと腰抜かしました。代行業者など、SNSなどを通じて情報が回り、替え玉受検がやれるような環境が非常に整ってしまっていると思います」

対策に乗り出した企業も

検査の公正さを担保できないかと、適性検査を提供する企業では、今年7月からオンライン受検を監督するサービスを始めました。

取材を申し込むと、私を受検者に見立て、実演してくれるといいます。
本人確認を求められる渡部ディレクター
検査開始前に、厳重に行ったのは本人確認。

オンラインでつながった監督者から、本人確認書類を提示するよう求められました。

さらにカメラを動かし、周囲に人がいないかなど受検場所も入念に確認されました。

スマートフォンなど不正につながる可能性のある物は遠ざけるように指示され、ようやく受検が始まりました。
オンライン検査の監督者
受検中も、不審な動きがないか監督者がチェックしているといいます。

このサービスの導入を決めた企業が、社名を伏せることを条件に取材に応じてくれました。
オンライン受検の監督サービスを導入したのは、適性検査がその後の人事にも関わる大切な情報だからだと採用担当者はいいます。
人事担当者を取材する渡部ディレクター
人事担当者
「適性検査の結果は入社時点だけではなく、その後の異動・昇格の場面でも振り返って使う指標になるほど、大事な判断材料です。ちゃんと自分を出してもらわないとやっぱりミスマッチになります」
例えば、能力検査において、数学が強い傾向を示せば、経理部門への配属も検討し、研究職募集の場合は、基礎能力が会社の研究職にマッチするかを見るといいます。

そのため、替え玉受検をされてしまうと企業・社員の双方が、ミスマッチで苦しむというのです。

企業と就活生のミスマッチをどう解消するか

企業から「ミスマッチ」と聞いて、替え玉受検をした高橋さん(仮名)のある発言を思い出しました。
高橋さん(仮名)
「企業が適性検査結果をどう使っているのかがあいまいで、人数を減らすためなのか、本当の採用判断に使っているのか。採用の判断には使いませんって書いてあるところもあります。じゃあなんでやっているのと思う時もありました」
企業がなぜ能力検査を実施するのか、その意図が就活生に知られていないのではと感じました。
替え玉受検した人でも、性格検査は自分で受検しています。
マッチングに使われるとわかっているからです。

就活生の間では、
・性格検査は企業とのマッチングのため
・能力検査は予備選抜のために行われる、点数を取ってクリアするもの
と思っている人が多いように感じました。
この状況について、新卒採用に詳しい専門家にききました。
法政大学 田中研之輔教授
法政大学 田中研之輔教授
「人気企業であれば(エントリーが)かなり集中するんですね。それを全員面接は難しいので、予備選抜に使ってる企業はたくさんある。それを知ってるからこそ学生はテストだけは突破しようと思う。この堂々巡りは変えなきゃいけない」
教授は、皆で考えていくべき問題と指摘し、まず取り組むべき策を2つあげました。
・企業側がこの問題と向き合う姿勢を示す。
・就活生に適性検査がただの選考プロセスの一つではなく入社後の人生を左右する可能性もある大切な情報だと伝える。
匿名取材に応じた企業の担当者もこう言いました。
企業の担当者
「これは就活生だけの問題ではない。企業側も、予備選抜や口実でしょと思われるようなことをしているから学生もいい点数取ったほうがいいということになるわけで。企業側もちゃんと使うっていうことを示していく必要も一方であるんじゃないかと強く感じました」
就活は、就活生と企業との「幸せなマッチング」だと私は思います。

「この企業に入ってよかった」「この人を採用してよかった」と双方が思わなければ不幸です。
もちろん、替え玉受検は不正です。許されないことです。

なぜ適性検査を行うのか、お互いが納得できるような対話や関係性が必要だと感じました。
政経・国際番組部 ディレクター
渡部詩織
令和3年入局。若者向けに世界の出来事を届け、国際理解のコンテンツ制作がしたいという希望を胸にNHKに入局

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