トイレの世界 のぞいてみたら深かった

トイレの世界 のぞいてみたら深かった
人は一生のうちにどれくらいトイレに行くのだろう。

1日5回だとしても1年で1825回、80年で14万6000回だ。
トイレをつくるメーカーでは20万回とも言っている。

毎日、何回もお世話になるものだから、いろいろな場面で話題になり議論になる。
どんなトイレがいいのか、入りやすいのか。

トイレの話題をまじめに考えてみたら、相当深かった。

(ネットワーク報道部 小倉真依 柳澤あゆみ)

公園のトイレ、デザイン選べます

最近、ネット上で話題になっているのは兵庫県明石市が、ある公園に新しく設置するトイレ。

市民にトイレの外壁の色を選んでもらおうと公園に投票箱を設置。5つの案の中から選んでもらったのだ。
1位になったのは「男性用が淡い青系色、女性用が淡い赤系色」のデザイン。
208票を獲得した。

公園に来た市民がトイレのデザインを選ぶなんてすごい。2週間ほどで743人が投票したと知って、それもまた、すごいと思った。

ところが結果を公表すると事態が変わった。

急なデザイン変更

「男性は青、女性は赤と決めつけていて、性的マイノリティーの人たちへの配慮が足りない」

そのような批判的な意見が2件寄せられた。明石市は性的マイノリティーの人たちに関わる施策に、力を入れている自治体として知られている。

「色分けは市の方向性と異なっていないか?」

意見を受けて庁内でそんな協議が行われた。その結果1位と僅差(8票差)だった2位のデザインに変えることになった。
それは外壁の全体をベージュに統一したデザインのものだった。
これがSNS上で話題となった。
「それなら男女で分ける意味もないのでは」
「目が悪くトイレを色で判断している人がわかりにくい」
デザインの変更に少し批判的な声が目立った。

そこで明石市の担当者に聞くと「“2人の意見で決定を変えるのか?”“同じ色では犯罪を助長するのでは?”といった批判が来ています」と正直に答えてくれた。
ただ誤解されてしまっていることもあると言って、トイレのデザインについて詳しく教えてくれた。
(市の担当者)
「今回、決まったのはあくまで外壁のデザインだけなんです」

「トイレの入り口部分には、男女がよく分かるよう青と赤で色分けしたマークをつけ、視覚的に誤解がないような工夫も検討しています」

「障害がある人も男女別のトイレに入りづらい性的マイノリティーの人も、みんなが利用しやすいトイレも別に設置するんです」

みんなが使うから難しい

公共の場でのトイレ。
性的マイノリティーの人も、さまざまな障害がある人も、それに子どもも、大人も、高齢で足腰が弱った人も、みんなが使う。

みんなが使いやすいためにはどうするべきか、設置するほうもなかなか難しいものなのだなという印象を持った。
(市の担当者)
「気持ちよく使ってもらうにはどうすればいいのか、難しい問題ですが、いろんな人の意見を聴いて総合的に判断していくしかないです」

知ってた?みんなが使いやすい工夫

「みんなが使いやすいトイレ」にどう向き合うのか、トイレによくアルファベットが記してある、あのメーカに聞いてみた。

TOTOの渡邊文美さんと佐藤敬子さん。
2人とも“トイレに関わる困りごとに向き合う”ユニバーサルデザインを担当している。

明石市の話題については「少数意見を取り入れながらいいトイレを考える、そのことは歓迎すべきだと思います(佐藤さん)」
「みんなでみんなが使えるトイレを考える、いまはそういう過渡期だと思います(渡邊さん)」という考えだった。

話を聞いて印象的だったのは、トイレの困りごとを解決するために私の気付かないところにたくさんの工夫があったことだ。

例えば、手すりの色。
便器などが白いのに、手すりが黒いのもわけがある。
色のコントラストを作ることで、視覚に障害がある人に手すりの場所をわかりやすくしたのだ。
例えば、トイレットペーパーのカバー。
重さがあり、紙を切るギザギザがするどいものがある。
これは両手を使わなくても、片手だけでトイレットペーパーを切れるようにするためだ。
例えば、トイレットペーパーを設置するホルダー。
足が不自由な人や高齢者が、用を足すときや足したあと、ここに手を置いて体を支えられるよう、丈夫にしている。
(私、荷物置きだと思ってました、、、)
例えば、操作パネル。
子どもや外国から来た人が、どのボタンを押せば「水を流せるのか」「お尻を洗えるか」などがすぐにわかるよう業界団体で統一したピクトグラムを使うようになった。
「流すときはうずまきのマークを押してね」と伝えるだけで安心なのだ。
(統一される以前のマークも使用されています)
視覚に障害がある人が操作を間違えないよう「流すボタン」は丸形の寒色系、「呼び出しボタン」は四角形や三角形の暖色系が望ましいなど、推奨される形や色、配置もJIS(日本産業規格)で定められている。
困りごとをひとつひとつ解決しようとした結果が、工夫につながっている。

“誰もが使いやすい”の答えは簡単ではないが「正解がないとよく言われます。ただトイレは、いろんなニーズを考えて進化すべきもの、その時の状況に合わせてベストを探していくものだと思っています(TOTO渡邊文美さん)」と話していた。

悩み1 トイレがイヤで朝ごはんを食べない子ども

みんなで使うトイレを考えた時、子どもが最も使うのが「学校のトイレ」だ。

基本、子どもの間は毎日のように使う。

振り返ってみるとそうだなーと思うが、かつては学校のトイレ=5Kとも言われていたみたいで(汚い、くさい、暗い、怖い、壊れている)私も子どものころはあまり使いたくなかった。

取材を始めると「学校のトイレ研究会」という団体があるのを見つけた。
トイレ関連の企業が1996年に立ち上げ、当時は「学校での排便を我慢する子どももいて、その健康が心配されていた(研究会)」という。

“使いにくい”を超え“健康問題”になっていたようだ。

その「学校で排便できない問題」に向き合ったとして、研究会が紹介してくれたのが大分県にある「九重町立ここのえ緑陽中学校」だった。
(校長)
「毎日、朝ごはんを食べるように指導しているのですが、食べると、学校で排便をしたくなることがあります」

「でも、“トイレが古くて汚い” “排便すると、トイレから出てきた時にからかわれる”。以前は、そんな理由で朝ごはんを食べない生徒がいたようなんです」
学校は町内の4校を統廃合し平成25年に開校したのだが、悩みを解決しようと、全く新しいトイレにした。

まず小便器は置くのをやめた。
男女とも洋式の個室トイレにしたのだ。
これならトイレに入ってもどんな用を足したのかわからない。
外から光が入り、トイレが明るくなるデザインにもした。

「入りたくなるようなトイレ」

そんな志をもとにトイレを整備して9年目。
校長先生は「ちゃんと朝ごはんを食べるようになり、トイレに行くことは恥ずかしいことではないと感じていると思います」
そう話していた。

ここまでやるんだなと驚いた。

悩み2 隣が気になる

山梨県北杜市の須玉小学校、こちらは男性用の小便器を曲線状に設置することにした。
“用をたすときに隣の目が気になってしまう”

そんな悩みをなくすために、隣が見えにくい配置になるよう工夫したのだ。
いまは気持ちの抵抗なくトイレを使っていると学校では感じている。

「フタをしないで」排せつの学びのすすめ

トイレの悩みは深い。
毎日使うものだし、子どもたちは短い休み時間に用をたさないといけない。

公共トイレの改善に取り組む「日本トイレ研究所」という団体もあって、代表の加藤篤さんは
「重要なのは、トイレを使うのは、『人』だ、ということです」
と当たり前に思えることを強調し、その意味を説明してくれた。
(加藤さん)
「トイレはその時代、そこにいる人が求める社会や求める姿を現していると思っています」

「昔に比べたら、車いすの人も、お年寄りの人も、ベビーカーを使う人も、外国の人も、発達障害の人も、より頻繁に外出している。社会が変わってきているのです」

「それなら目指す社会に対応するトイレ、多様な人たちを、安心して引き受けられるトイレを作っていかないとダメなんです」
そしてもうひとつ、きれいなトイレ、便利なトイレを作るだけでなく、しっかり考えてほしいことがあると言いました。
(加藤さん)
「トイレでの排せつを恥ずかしいものとしてフタしないでほしい。体にとって大切なこととして学んでほしい。体に起きていることを肯定的に捉えるための学び、それを設備の充実とセットで進めていくことが大切なのではと思います」
確かに、、、、。
一生で20万回行くとも言われているトイレ、恥ずかしいだけのものにしておいてはいけない。

そして“きれい”“使いやすい”だけでは解決しないトイレ問題もある。

知れば知るほどトイレって深い、、が何よりの感想だった。