台湾のTSMC 日本に半導体の工場建設の方針 国内製造能力向上へ

半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCは14日、日本に半導体の新しい工場を建設する方針を明らかにしました。
関係者によりますと、ソニーグループと共同で熊本県内に工場を設ける方向で協議しており、日本政府も一定規模の資金を補助することで調整を進めています。

TSMCは14日、決算発表の記者会見を開き、この中で、今後の取締役会の承認を前提に、日本国内に半導体の新たな工場を建設する方針を明らかにしました。来年着工し、2024年の稼働を予定しているとしています。

関係者によりますと、工場は熊本県菊陽町にあるソニーグループの工場に隣接する場所に、ソニーと共同で出資して建設する方向で協議を進めているということです。

また、国内で安定して生産できる拠点をもつことは産業競争力の観点から重要だとして、日本政府も一定規模の資金を補助することで調整を進めています。

生産するのは産業用の機器や自動車向けなどに使われる汎用性(はんようせい)の高い製品を検討しているということです。

記者会見でTSMCの幹部は「顧客と日本政府の双方から、今回の計画に対する強い支持を受ける約束を得ている」と述べました。

半導体は電気自動車やロボットなど、さまざまな分野で需要が伸びると見込まれる一方、現在は世界的に不足していて、アメリカやヨーロッパなどもみずからの国や地域内での生産強化を図っています。

こうした中で、世界トップクラスの技術を持つ半導体大手が工場建設に乗り出すことで、日本国内での製造能力の向上につながりそうです。

TSMCとは

TSMCは、1987年に設立された台湾の半導体メーカーで、半導体の受託生産では世界最大手です。

会社のホームページによりますと、世界各地に500を超える取引先があり、半導体メーカーなどから受託する形で、汎用性の高い半導体から微細化の技術を高めた最先端半導体まで幅広い製品を製造し、スマートフォンやパソコンそれに自動車などに利用されているということです。

また、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国などに拠点を置いていて、去年にはアメリカに最新の工場を建設すると発表しました。

去年12月末時点での従業員数はおよそ5万6000人だということです。

拡大する半導体市場

かつて“産業のコメ”とも呼ばれた半導体は、デジタル化の進展とともに需要が高まり、市場規模も拡大してきました。

経済産業省のまとめによりますと、世界の半導体の市場は1990年ごろは5兆円規模でした。

その後、ITバブルともいわれ、パソコンや携帯電話が一気に普及した2000年には20兆円を超え、スマートフォンが広がった2010年には30兆円を超えました。

さらに、2017年にはあらゆる機器をインターネットでつなぐIoTやAI=人工知能が産業界に広がったことを背景に40兆円を上回りました。

今後も自動運転の機能や高速・大容量の通信規格=5Gを使ったインフラ、それにテレワークの定着など世界的なデジタル化の加速で、10年後には80兆円規模に達するともみられています。

各国は半導体めぐり多額の補助金

半導体をめぐっては、アメリカと中国の対立を背景に各国が製造拠点の誘致に多額の補助金を投じるなど、国家戦略として供給力を確保しようという動きが広がっています。

このうちアメリカは、半導体を重要な戦略物資と位置づけ、半導体の製造工場の建設に1件当たり最大でおよそ3000億円を支援する方針を打ち出しました。

この支援策を受けて、台湾の半導体大手TSMCはアメリカの西部アリゾナ州に生産拠点を建設する計画を決定しています。

また、中国以外の国々との半導体分野の研究開発や供給網=サプライチェーンの構築に向けて「多国間半導体セキュリティ基金」を設けました。

さらに、半導体の分野に巨額の投資を行う中国を念頭に、500億ドル、日本円で5兆7000億円の半導体関連の投資を含む「アメリカ・イノベーション競争法」の審議も進められています。

一方、中国は「国家集積回路産業投資基金」を通じて、半導体関連の技術へ5兆円を超える投資を行う計画です。

これに加え、地方政府でも合わせて5兆円を超える基金があります。

中国は、巨額の投資などによって自国の産業を強化することで対抗していく構えです。

一方、EU=ヨーロッパ連合は、ことし3月、2030年に向けたデジタル戦略を公表しています。

この中で、半導体を含むデジタル分野に今後、2年から3年でおよそ18兆円を投資するとしています。

韓国は、ことし5月には半導体産業の競争力強化を目指す「Kー半導体戦略」を策定しています。

この中では、2030年に世界最高の半導体供給網を構築する目標を掲げていて、サムスン電子など民間企業が合わせておよそ49兆円の投資を行うとしています。

日本の半導体産業 かつて世界トップも…

イギリスの調査会社「オムディア」によりますと、日本の半導体産業は特定の分野では高い競争力を保っています。

例えば、
▼スマートフォンのカメラなどに使われる「画像センサー」は、去年、ソニーグループが世界市場でおよそ半分のシェアを占めトップです。

また、
▼自動車用の「マイコン」では、ルネサスエレクトロニクスがオランダのNXPセミコンダクターズに次いで2位、
▼データを記録する「NAND型フラッシュメモリ」も、旧東芝メモリのキオクシアホールディングスが、韓国のサムスン電子に次ぐ2位です。

さらに、
▼電気を効率よく動力に変換する「パワー半導体」では、三菱電機が3位、富士電機が5位、東芝は6位で、日本勢が高いシェアを占めています。

ただ、半導体全体でみると、日本の世界シェアは、おととしの時点で10%にとどまり、アメリカや韓国のメーカーに大きく差をつけられています。

かつて日本の半導体産業は世界市場を席けんし、1988年には50%を上回り、2位のアメリカを引き離して世界トップでした。

ただ、その後はアメリカとの激しい貿易摩擦をへて結ばれた「日米半導体協定」が強化されるのに伴い、アメリカ製半導体の輸入を求められるようになり、日本のメーカーの勢いは急速に衰えていきます。

さらに半導体産業の主流が、それまで日本が得意としていた「DRAM」と呼ばれる記録用半導体から、コンピューターの頭脳にあたる「CPU」に変わり、ビジネスモデルも転換する中、日本のメーカーはこうした流れについていくことができませんでした。

1990年代後半から2000年代にかけては、電機メーカー各社が半導体部門を統合し「日の丸半導体」の主導権を取り戻そうとしますが、急激な円高にも見舞われて思い切った投資に踏み切れず、海外勢に引き離されます。

一方、韓国や台湾のメーカーは、国を挙げた手厚い支援によって、インターネットやスマートフォン、データセンターなどに使われる先端半導体で巨額の設備投資を行い、世界の主役に躍り出ました。

世界的なデジタル化の加速で半導体の需要は、今後も飛躍的に高まるとみられています。

日本にとっては、国内メーカーが強みを持つ半導体では競争力を維持しつつ、最新のデジタル機器や次世代の通信インフラに欠かせない半導体を、いかに安定的に確保できるかが課題となっています。

日本の半導体戦略は

経済産業省はことし6月、官民が一体となって取り組む今後の半導体戦略についてまとめています。

この中で日本の半導体産業について、かつて世界を席けんしたものの、1990年代後半以降、自社ですべてを賄う垂直統合型から水平分業型へと潮流が変わる中、新たな産業構造に移行することに失敗したと分析。

諸外国は大規模な補助金や減税などで長期にわたって自国企業を支援したことで、日本の半導体産業を超える競争力をもつことになったとしています。

そのうえで、対策として国内の半導体の開発や生産体制の強化に向けて、国家事業として主体的に進めていくことが必要だとしています。

現在、日本には半導体メーカーが工場を建設する際に直接、補助金を出す制度はありません。

このため政府は、1社当たり数千億円規模の支援を行う海外並みの取り組みが必要だとして検討を進めています。

自民党でも半導体産業の強化を重視する観点から戦略を議論する議員連盟がことし5月に設立されました。

この中で会長を務める甘利幹事長は5月の会合で「半導体を制する者が世界を制すると言っても過言ではない。40年後の『ジャパン・アズ・ナンバーワン・アゲイン』を目指したい」と述べました。

また、岸田総理大臣は13日、参議院で行われた代表質問で「半導体はあらゆる分野に使われる、いわば『産業の脳』であり、安定供給体制の構築は非常に重要だ。生産拠点の日本への立地を推進することで、サプライチェーンの強じん化に取り組んでいく」と述べています。

九州には「シリコンアイランド」

半導体関連の工場が集まる九州は「シリコンアイランド」とも呼ばれています。

半導体の生産に必要となる水が豊富にあることや、労働力の確保がしやすかったことから、1960年代から大手の半導体メーカーが相次いで工場を建設しました。

半導体のうちIC=集積回路の生産額は、ピークの2000年には1兆3923億円に上り、国内のシェアは毎年、3割以上を占めるまで成長しました。

その後、海外への生産拠点のシフトで伸び悩んだものの、2010年代の後半からは、スマートフォンのカメラや自動車の電動化に必要な半導体部品の生産が拡大したことを背景に再び成長します。

2020年の生産額は7360億円に上り、国内シェアは43.1%を占め、再び九州は「シリコンアイランド」としての存在感を高めています。

九州には、半導体工場だけでなく、生産に必要な材料のほか、半導体製造装置などの工場も集まっていて、厚いサプライチェーンができあがっています。

特に熊本県は、豊富な水や広くて安価な土地、高速道路と近い点などが評価されて、九州の中でも半導体関連の工場が多く集まっています。

日本政府が半導体産業の強化に力入れるのは

日本政府がなぜ半導体産業の強化に力を入れるのか。

それは半導体がAI=人工知能や5G、データセンターや自動運転技術など成長が期待される分野に不可欠な部品だからです。

日本メーカーは現在、一部の自動車向けや工場向け、画像センサーなど特定分野やニッチ市場では強みがあるものの、先端的な半導体の技術では海外に大きく遅れをとっている状況です。

今、各国は政府が半導体メーカーの誘致に巨額の補助金を投じています。

ボストンコンサルティングとアメリカ半導体工業会の調査によりますと、2019年の日本の半導体製造能力は世界の17%を占めていて第3位です。

台湾の20%、韓国の19%には及びませんが、アメリカや中国を上回っています。

アメリカ、中国が巨額の政府補助で設備の増強をはかっていけば、日本は米中に抜かれて自国で半導体がつくれなくなるおそれがあることを、日本政府や産業界は懸念しているのです。

専門家「本気で巻き返しできるチャンス」

半導体市場の動向に詳しいイギリスの調査会社「オムディア」の南川明シニアディレクターは「日本の産業にとって非常にプラスの影響がある。計画されている工場は、自動化や生産性の面で世界で最先端のものであり、働く人材の育成に大きな意味を持っている。自動車の半導体供給の安定化につながるうえ、家電など幅広い製品に使われる半導体を手がけるので、日本にとって有効な工場だ」と話しています。

そのうえで「電子機器の発展は半導体の進化が支えていて、国の安全保障の鍵も握るため、国内で半導体を作ることは非常に大きな意味を持つ。今後、半導体だけでなく、電子機器を構成する部品メーカーなども巻き込んで国内に開発拠点をつくる戦略をとるべきだ。日本は半導体の分野でシェアを落とし続けて“失われた30年”となっていたが、やっと本気で巻き返しができるチャンスがめぐってきた」と話しています。

萩生田経産相「率直に歓迎 わが国の将来に極めて重要」

萩生田経済産業大臣は記者団の取材に対し「率直に歓迎したい。国内に半導体の生産基盤を整えることは、わが国の将来を考えたときに極めて重要だ」と述べました。

また、工場の建設に伴う費用を政府が補助するか問われたのに対し、萩生田大臣は「選挙のあとにしっかりと方針を決めて対応を考えたい」と述べ、政府としても支援していく考えを明らかにしました。

小林経済安保相「日本の半導体産業をもう1回 世界のど真ん中に」

小林経済安全保障担当大臣は記者団のインタビューに応じ「半導体はデジタル社会の基盤を支えるもので安定供給の体制の構築が極めて重要だ。今回TSMCが表明した製造拠点の設立は日本が先端半導体を製造していくにあたって欠けていた部分を埋めるものだ」と述べました。

そのうえで、「日本の半導体産業は瀬戸際に立たされている。個人的な思いとしては日本の半導体産業をもう1回、世界のど真ん中にもっていきたい。日本が次世代の半導体の研究や開発を誰と組み、どのように進めるかが必要で、関係省庁と連携しながら日本の半導体の再生に向けて取り組みを進めたい」と述べました。