どうなる!? 関西スーパー争奪戦 見据えるのは“ポストコロナ”

どうなる!? 関西スーパー争奪戦 見据えるのは“ポストコロナ”
皆さんにはよく足を運ぶ、お気に入りのスーパーはありますか?コロナ禍で、いわゆる”巣ごもり需要”が盛り上がりを見せる中、いま、多くのスーパーの業績が好調です。

そんな中、関西のあるスーパーをめぐり、東西対立ともいえる激しい争奪戦が起きています。取材を進めると、足元の好調さとは裏腹に、業界を取り巻く厳しい現状も見えてきました。

(大阪局記者 小野志周、加藤拓巳、経済部記者 保井美聡)

関西最強のスーパー連合を

「関西最強のスーパー連合を目指したい」

8月31日、大阪・梅田で開かれた会見で、阪急阪神百貨店などの運営会社、「エイチ・ツー・オー リテイリング」の荒木直也社長は力を込めました。

自社の傘下にある2つのスーパーと、兵庫県に本社を置く中堅スーパー「関西スーパーマーケット」を統合し、”関西最強”を目指すというのです。

荒木社長の横に座ったのは、「関西スーパー」の福谷耕治社長。感染防止として設けられたアクリル板越しに2人は笑顔で“グータッチ”。両社の経営統合の合意をアピールしました。
しかし、会見を取材した記者は違和感も感じていました。「関西スーパー」の福谷社長が会見で、過去に“第三者”から買収提案を受けたものの、その提案を受け入れず「エイチ・ツー・オー」の傘下に入ることを決めたと述べたからです。

突如現れた”第三者” 争奪戦が勃発

買収提案をしたという”第三者”とはいったいどこなのか?会見から3日後、その正体が明らかになりました。

横浜市に本社を置くスーパー「オーケー」が、統合に待ったをかけたのです。
「オーケー」は、首都圏におよそ130店舗を展開。特売日を設けず、常に低価格で集客する戦略で業績を伸ばしてきました。昨年度まで34年連続で増収を達成している、まさに業界の”成長株”です。

実は、関西スーパーが経営統合を発表する2か月ほど前のことし6月。オーケーは、関西スーパーに買収を提案していました。

その返事待ちだったオーケーにとって、エイチ・ツー・オーと関西スーパーの統合発表は、まさに「寝耳に水」(オーケー関係者)。

「自社の買収提案について、十分に協議する場が設けられなかった。きちんと検討されたのか、懸念している」

オーケーは、強い反発の姿勢を示しました。

「関西最強のスーパー連合」か、「“東”の成長株・オーケー」か。こうして関西スーパーをめぐる争奪戦が幕を開けたのです。

争奪の舞台 スーパーの草分け的存在

争奪戦の対象となった「関西スーパー」。地元の方以外には、あまりなじみがないかも知れません。

いったい、どのような会社なのでしょうか?

関西スーパーは、兵庫や大阪などにおよそ60店舗を展開。地元では「関スー」や「関スパ」の愛称で親しまれています。
創業は今から60年余り前。創業者の北野祐次氏は、今のスーパーに欠かせないあるシステムを業界でも先駆けて取り入れたことで知られています。
北野氏は、創業後に視察で訪れたアメリカのスーパーで衝撃を受けます。野菜や果物が冷蔵ケースに整然と並べられ、バックヤードには精肉を保存するための大型冷蔵庫が置かれている光景を目にしたのです。

アメリカで目にした生鮮食品の販売システムを、北野氏は自社にも早速導入。鮮度と効率を重視したこのシステムは、今のスーパーの生鮮売り場の原型を作ったとも言われ、その後、全国に広がりました。

ちなみに、格安店の進出で経営難に追い詰められたスーパーが売り上げを改善し、ライバルに打ち勝つまでを描いた、伊丹十三監督の映画『スーパーの女』は、関西スーパーから影響を受けたとも言われています。

なぜ激しい争奪戦に?

その関西スーパー。

昨年度の最終的な利益は20億円。店舗数も100に届きません。大小のスーパーがしのぎを削る関西にあって、決して大手というわけではありません。

同じ関西発祥のスーパー「ライフコーポレーション」(最終的な利益178億円/店舗数およそ280)や「平和堂」(最終的な利益97億円/店舗数およそ150)などと比べても、その差は大きいのが現状です。

なぜ東西の両社は、このスーパーの獲得に火花を散らしているのでしょうか?

背景にあるのは、コロナ収束後も見据えた経営者たちの危機感です。

”コロナ後”に危機感 業界取り巻く環境は?

”巣ごもり需要”で総じて好調なスーパー業界。
日本チェーンストア協会によりますと、昨年度(2020年度)の業界での売り上げは、前の年度に比べプラスとなりました。

イオンやライフ、業務スーパーを展開する神戸物産など、直近の決算で過去最高の売り上げを記録する会社も相次いでいます。

新型コロナで飲食業や宿泊業など多くの業種が苦境にあえぐ中、スーパーは非製造業では数少ない”勝ち組”の業界なのです。

ただ、足元の好調な業績をよそに、危機感はむしろ高まっているのかもしれません。好調とはいえ、業界全体の売り上げは、この10年を見てもほぼ横ばいの状態が続いています。
さらに競争相手はいまや業界内だけにとどまらず、ドラッグストアまで生鮮食品や総菜の販売に乗り出しています。アマゾンや楽天など、「巣ごもり需要」を取り込むことに成功したネット通販各社との競争は、さらに激しくなっています。

人手不足が続くなか、レジの無人化や、商品の欠品をAIで感知し、発注するといったデジタル技術による店舗の効率化も不可欠で、デジタル関連の投資は今後確実に増加する見込みです。

“薄利多売”のスーパー業界でどう生き残るのか。

経営統合し規模を拡大することは、コロナ収束後に待ち受ける厳しい経営環境に備えるための手段でもあるのです。

スーパーの再編… 各社のねらいは

都市部に出店攻勢をかけてきた「オーケー」。

首都圏の出店余地が限られてくる中、今後の規模拡大には、関西への進出が不可欠だとしています。さらに、買収による品ぞろえや店舗の改装によって、関西スーパーの1坪当たりの売り上げを今より3割向上できるとしています。
一方の「エイチ・ツー・オー」。

傘下の2つのスーパー(イズミヤ、阪急オアシス)との統合効果により、スーパー事業を百貨店事業に次ぐ第2の柱にして、昨年度、41億円だった営業利益を2030年までに100億円以上にするという目標を掲げています。

スーパー再編の動きはほかにも進んでいます。

ことし9月には「イオン」の子会社のスーパーと、松山市に本社のあるスーパー「フジ」が経営統合に合意したと発表。

流通業界のアナリストは「再編の動きはまだまだ続くだろう」と分析します。

決戦の株主総会

争奪戦の行方は、いったいどうなるのでしょうか。

関西スーパーは、エイチ・ツー・オーと経営統合し、子会社になる方針について、株主の承認を得るため、10月29日に臨時の株主総会を開きます。承認には株主の3分の2の賛成が必要となります。

関西スーパーの株式を10%余り保有する筆頭株主「エイチ・ツー・オー」以外の株主から、どれだけ支持を集められるかが焦点です。

一方のオーケーは、この提案が通らなかった場合、TOB(株式公開買い付け)に乗り出す構えです。その際の1株当たりの買い取り価格については、関西スーパーの株式の最高値である、1株=2250円という条件を提示しています。
11日には、株主総会でエイチ・ツー・オーとの経営統合の議案に反対するよう呼びかける文書を、およそ6000の株主に送ると明らかにしました。

株主総会をにらんだ、攻防がさらに激しくなっています。

業界関係者の1人は「関西スーパーの株主の中には、関西スーパーとも、オーケーともつきあいがある業者もいて、こうした株主の動向は読みにくい」と語ります。

35%程度とみられる個人株主の動向も不透明で、どちらの主張が最終的に株主の理解を得られるのかは予断を許しません。

“決戦”の10月29日まで、残りわずかです。

再編進むスーパー業界 今後は?

「巣ごもり特需」とも言える活況が続いたスーパー業界。

しかし今後、さらに感染が収束に向かえば、再び厳しい状況に置かれることはほぼ確実です。

再編の行方とともに、コロナ後の消費者の動向も見据え、業界がどのように変わっていくのか、取材を続けたいと思います。
大阪拠点放送局記者
小野 志周
2016年入局
大阪局で警察、司法担当を経て、現在は関西の流通業界などを担当
大阪拠点放送局 記者
加藤 拓巳
2011年入局
長野局 神戸局を経て2020年夏から大阪局で経済取材を担当
経済部記者
保井 美聡
2014年入局
仙台局、長崎局を経て、流通業界などを担当