コロナ 軽症者向け「飲み薬」 各社の開発状況は

新型コロナウイルスの患者の治療をめぐり世界中で開発が急がれている軽症者向けの「飲み薬」。症状が悪化しないうちに自宅などでも服用できれば、重症化を防ぐことができ、亡くなる人を減らすことにつながると期待されています。

この「飲み薬」について、最終段階の治験の結果を示す時期や、承認申請の時期のめどを示している会社の開発状況をまとめました。

メルク開発 モルヌピラビル“入院 死亡リスク約50%低下”

このうち、開発が最も早く進んでいるとみられるのが、アメリカの製薬大手「メルク」が開発している「モルヌピラビル」と呼ばれる抗ウイルス薬です。

会社の発表によりますと、治験の中で発症から5日以内の患者で重症化リスクのある760人余りを、この薬を投与するグループと、プラセボと呼ばれる偽の薬を投与するグループに分けて経過を比較したところ、プラセボを投与したグループでは入院した人や死亡した人の割合が14.1%だったのが、薬を投与したグループでは7.3%だったということで、入院や死亡のリスクがおよそ50%低下したとしています。

メルクは、できるだけ早くアメリカのFDA=食品医薬品局に緊急使用の許可を申請するとしています。

日本法人社長「承認得られれば速やかに供給できるよう調整」

メルクの日本法人「MSD」のカイル・タトル社長と白沢博満 上級副社長はNHKのインタビューに応じ、日本国内でも承認申請に向けて審査当局と協議を進めていることを明らかにしました。

タトル社長は「承認が得られれば国と契約を結び、必要な分量の薬を速やかに供給できるよう調整している」と述べ、承認申請を迅速に進め年内の供給を目指す考えを示しました。会社側では年内に「モルヌピラビル」を世界で1000万人分供給できるとしています。

来年には製造体制を拡大し2000万人分を供給できる見通しだということで、白沢副社長は「まずはきたる第6波までに流通体制を整え、いずれはインフルエンザと同じように体調の悪さを自覚したら誰でも近くのクリニックで処方してもらえるよう供給体制を整備したい」と話しています。

ファイザー ロシュ 塩野義製薬も最終段階の治験

▽アメリカの製薬大手「ファイザー」は2種類の抗ウイルス薬を併用する治療法について、最終段階の治験を海外で進めています。治験の暫定的な結果は12月までに得られる見込みだとしていて、年内にもアメリカで緊急使用許可の申請を行う可能性があるとしています。

▽スイスの製薬大手「ロシュ」は「AT-527」と呼ばれるC型肝炎の治療薬として開発を進めてきた抗ウイルス薬が新型コロナウイルスにも効果があるかどうか、日本の患者を含めて最終段階の治験を進めています。

日本国内での開発などを行っている中外製薬によりますと、年内に結果がまとまる見込みで、来年にも厚生労働省に承認申請したいとしています。

▽大阪に本社がある製薬会社「塩野義製薬」はことし7月から薬の安全性を確かめる第1段階の治験を進め、安全性に大きな問題はなかったとして、最終段階の治験を先月下旬から始めたと発表しました。治験のデータは早ければ年内にまとまる見込みだとしています。

このほか日本の製薬会社の「富士フイルム富山化学」がインフルエンザの治療薬の「アビガン」について、同じく日本の製薬会社の「興和」が寄生虫による感染症の特効薬「イベルメクチン」ついて、それぞれ新型コロナに対する効果があるか最終段階の治験を進めています。

ワクチン接種と並び“コロナ対策の切り札”と期待

新型コロナウイルスの感染拡大の「第5波」では医療体制がひっ迫し、自宅療養者は最大で9月1日の時点で13万5000人余りに上りました。

自宅療養をしている軽症の患者が自宅で服用できる薬がなかったため、治療を受けられないまま、症状が悪化して重症化したり亡くなったりする人も相次ぎました。

ことし7月中旬には、人工的に作った抗体でウイルスの増殖を防ぐ「抗体カクテル療法」の薬が軽症患者用の治療薬として初めて承認されましたが、点滴での投与が必要で供給量が限定されているため、治療を受けられる人はおおむね50歳以上で、重症化リスクのある人など一部にとどまっています。

こうしたことから軽症患者が重症化するのを防ぐために、自宅で服用できる飲み薬が求められていて、ワクチン接種と並んで新型コロナ対策の切り札となると期待されています。

治験の実施計画によりますと、モルヌピラビルは発症から5日以内の軽症から中等症の患者が12時間おきに5日間、合わせて10回服用するとしていて、承認された場合、発症後の早い段階で使うことが想定されています。

専門家「検査体制 量・質ともに拡充する必要」

新型コロナウイルスの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄 客員教授は、軽症患者用の飲み薬について「この夏の感染拡大の第5波では感染者が入院できず、自宅待機を余儀なくされる中で、重症化したり死亡したりするケースもまれではなかった。飲み薬があれば自宅待機しながら治療でき、重症患者の治療を行う医療現場などでの負担を大きく減らすことができる。ワクチン接種の拡大と合わせてこうした薬が普及して一般の診療所でも広く処方できるようになれば、インフルエンザ並みの対応に変えられるかもしれない」と話しています。

そのうえで「軽症患者用の飲み薬は、感染が分かった時点でなるべく早く投与することが望ましいので、検査体制を量・質ともに拡充していく必要がある。また、薬の供給が世界中で待ち望まれる中、日本に十分な量が供給されるか懸念がある。もし供給が限定的となる見通しならば、どのような患者に優先的に投与するか事前に考えておくことも重要だ」と指摘しました。

承認されたコロナ治療薬 3タイプに分類

いま承認されている新型コロナウイルスの治療薬は3つのタイプに分けられます。

▽ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ薬
▽細胞に侵入したウイルスの増殖を抑える薬
▽増殖したウイルスに反応する過剰な免疫の働きを抑える薬

ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ薬

新型コロナウイルスは、表面にある突起の「スパイクたんぱく質」が、人の細胞に結合することで侵入します。

現在、使われているmRNAワクチンは、人工的に作ったスパイクたんぱく質の遺伝子の一部を投与することで、体内で抗体が作られるようになりそれがウイルスのスパイクたんぱく質にくっつくことで、細胞への侵入を防ぎます。

承認されている治療薬のうち、抗体医薬と呼ばれるタイプで軽症患者に点滴で投与する「抗体カクテル療法」や「ソトロビマブ」は、ワクチンと同じような仕組みで、人工的に作った「抗体」がスパイクたんぱく質にくっつくことで、細胞に侵入するのをブロックします。

抗体がウイルスを狙い撃ちにするため、高い効果が期待される一方、供給量が限られるといった課題もあります。

細胞に侵入したウイルスの増殖を抑える薬

メルクが開発中の飲み薬「モルヌピラビル」は、ウイルスが細胞に侵入したあと設計図の「RNA」をコピーして、増殖するのに必要な酵素の働きを抑え増殖を防ぎます。

承認されている治療薬の中では、中等症から重症の患者に投与される点滴薬「レムデシビル」がこのタイプですが、医療機関で受ける必要があります。

ウイルスが細胞の中で増殖する仕組みは、ほかのウイルスでも共通しているため、別の病気の治療にも使われる薬を転用する形で開発が進められています。

増殖したウイルスに反応する過剰な免疫の働きを抑える薬

いま新型コロナの治療に使われている薬のうち、主に重症患者に使われるのが「デキサメタゾン」と「バリシチニブ」です。

ウイルスが体内で増殖し炎症を引き起こす物質が過剰に出ると、免疫の働きが暴走し、肺に傷がつくなど体に深刻なダメージを受けることがありますが、これらの薬は免疫の働きや炎症を抑える役割を果たします。