北朝鮮当局船 携帯型対空ミサイル装備し 能登半島沖大和堆航行

石川県の能登半島沖の「大和堆」と呼ばれる日本有数の漁場で、北朝鮮当局の船が、携帯型の対空ミサイルを装備していたことが関係者への取材で分かりました。
海上保安庁は、現場海域で操業する日本の漁船の安全確保に向け、警戒レベルを上げて対応しています。

能登半島沖の日本の排他的経済水域に広がる「大和堆」は、日本有数の漁場として国内の漁船が長年、イカ漁などを続けてきましたが、ここ数年は北朝鮮や中国などの外国漁船による違法操業が問題となっています。

関係者によりますと、ことしは、6月以降のイカ漁の時期になっても北朝鮮の漁船は大和堆周辺に現れていない一方、北朝鮮当局の船が航行しているのがたびたび確認されているということです。

ことし6月末には、北朝鮮当局の船1隻が携帯型の対空ミサイルを装備しているのを海上保安庁が確認していたことが分かりました。

関係者によりますと、このミサイルは旧ソビエトが開発した「SA―16」と同じタイプで、射程は4.5キロに及ぶとみられます。
平成13年に奄美大島沖の東シナ海で海上保安庁の巡視船と銃撃戦の末に沈没した北朝鮮の工作船が装備していましたが、大和堆の周辺海域で北朝鮮の船が装備しているのが確認されたのは初めてだということです。

海上保安庁は、大和堆周辺で操業する日本の漁船の安全確保に向け、レベルを上げて警戒を続けていて、不審船などに対応する巡視船を常時配備するとともに、北朝鮮のねらいを分析しています。

外国漁船の違法操業 深刻化 安全おびやかされる

大和堆周辺では、5年前から北朝鮮など外国漁船の違法操業が深刻化し、それに伴って北朝鮮当局とみられる船も相次いで確認されていて、日本の漁船や取締船などの安全がおびやかされています。

現場海域では、水産庁の取締船や海上保安庁の巡視船が警戒にあたり、放水などを行って日本の排他的経済水域から外国漁船を退去させる対応を取っていますが、4年前の7月、水産庁の取締船が小銃のような武器を保有した北朝鮮当局とみられる船に追尾されました。
また、おととし8月には、北朝鮮の国旗が記された貨物船のような船と、北朝鮮の海軍のような旗が掲げられている高速艇の合わせて2隻が確認され、このうち高速艇は、海上保安庁の巡視船に向かって30メートルほどの距離まで接近し、乗組員1人が小銃を向けて威嚇してきました。

去年は、周辺海域に中国漁船が多数確認される一方、北朝鮮の漁船はほとんど見られなくなりましたが、9月に北朝鮮当局の船が航行しているのが確認されたとして、政府は北朝鮮側に申し入れを行っています。

また、関係者によりますと、このほかにも複数回、水産庁の取締船が小銃を向けられたケースが確認されているということです。

日本漁船の操業に影響

北朝鮮当局の船の動きは、大和堆周辺での日本漁船の操業に影響をもたらしています。

去年9月、水産庁は、大和堆周辺で北朝鮮当局の船を確認したことなどを理由に、日本の漁船に対して一定の海域からの移動を要請し、要請が段階的に解除されたのは、およそ1か月後でした。

水産庁は、ことしも大和堆周辺で安全に操業できる海域の情報を日本の漁業者に示していて、関係者によりますと、急増する中国漁船の状況に加え、北朝鮮当局の船の動きに伴って情報を発信しているということです。
一方、海上保安庁も難しい対応を迫られています。

関係者によりますと、これまでも北朝鮮当局の船に対しては、小銃などの武器を備えている前提で、巡視船などが一定の距離を保ち警戒にあたってきました。

ただ、対空ミサイルが確認されて以降は、想定される射程を避ける必要があるため、さらに距離をあけての対応を迫られているということです。

一方、北朝鮮当局の船が、漁船に近づくような状況が生じた場合は、距離にかかわらず巡視船を漁船の近くに配備し、安全を確保する方針だということです。

海上保安庁は、沖縄の尖閣諸島周辺で中国海警局の船が活動を活発化させる中、人員や巡視船の増強を進めていますが、海上保安庁関係者は「大和堆周辺の方が不測の事態が起こりかねない」と警戒を強めていて、日本の水際を取り巻く環境は厳しさを増しています。

排他的経済水域 各国も主張で事態複雑化

大和堆周辺では、日本だけでなく、日本海に面する各国も排他的経済水域を主張していて、日本と範囲が重なり合う海域があり、事態を複雑化させています。

水産資源の管理などを行うことができる排他的経済水域は、国連海洋法条約に基づいて、沿岸から200海里の範囲で、各国が設定することができます。

ただ、海を隔てた国と国との距離が400海里よりも近い場合、重なり合う海域については、国どうしの合意で境界を定める必要があります。

それでも、国によって主張が異なることなどから、外務省によりますと、日本海側は排他的経済水域が画定している海域はないということです。
海上保安庁関係者によりますと、国交のない北朝鮮の正確な主張は分からないものの、北朝鮮当局の船が、水産庁の取締船や海上保安庁の巡視船を追尾したり、銃を向けたりしてきた海域は、自国の管轄権を主張しているとみられます。

また、北朝鮮外務省のホームページには、ことし8月、海洋管轄権についての協議会を開催したことが掲載されています。

協議の目的について「近年増加している日本による我が国の経済水域への不法侵入に対抗するため」と記されていて、日本の外務省が中国 北京の大使館ルートを通じて抗議したということです。

大和堆周辺では、日本や北朝鮮のほか、ロシアと韓国も排他的経済水域を主張していて、合意に向けた交渉が進められているかについて、外務省の担当者は「答えることはできない」としています。

海上保安庁関係者は「海域が定まらないかぎり、違法操業の問題は収まらないだろう」と話しています。

松野官房長官「関係省庁が連携して適切に対応」

松野官房長官は臨時閣議のあとの記者会見で「ことし6月下旬、海上保安庁が大和堆西方のわが国の排他的経済水域内で、武器らしいものを保有している船舶を確認したと承知している。その際、海上保安庁の巡視船や日本漁船に被害はなかったが、詳細については、わが国の情報収集、分析能力を明らかにするおそれがあることから控える」と述べました。

そのうえで「政府としては、平素より、日本の漁船の安全を確保するため、関係省庁が連携して適切に対応しており、引き続き、取り組みを続ける」と述べました。

中部大 加々美教授「各国の思惑が非常に複雑に絡む海域に」

海の境界画定の問題に詳しい中部大学の加々美康彦教授は「排他的経済水域の境界線は基本的には合意によって画定していくものだが、大和堆の周辺海域は一切そういう合意もない。各国ができるだけ自分たちに有利にしたいという思惑が非常に複雑に絡む海域になっている」と指摘します。

そのうえで、北朝鮮当局の船が航行を続けていることについて「日本海の中でも一番重要な海域への、政治的なプレゼンスを示す意味があるのだと思う。武器を搭載した船が大和堆周辺に行くのはそれなりのメッセージがあり、漁業の権益を確保したい、またはそれ以上の意思が読み取れる」と話しています。

聖学院大 宮本教授「日本側も対応策を」

また、北朝鮮の政治・外交に詳しい聖学院大学の宮本悟教授は「北朝鮮は2019年からはっきりと、海洋権益を作り出すという態度を示し、ことし8月におおよその範囲を発表した。自分たちの権益を守ることを目的に、他国の哨戒艇などを追い出すために対空ミサイルまで持ってきていると思う。日本側も対応策を立てておかなければならない」と話しています。