初めの株価 低すぎる? なぜ少ない 日本のユニコーン

初めの株価 低すぎる? なぜ少ない 日本のユニコーン
伝説の一角獣に例えられる「ユニコーン企業」。
時価総額が10億ドルを超え、なおかつ未上場、非常にまれで貴重な存在とされる企業のことです。

日本にあるのはごくわずか。
しかし、アメリカや中国では何百社も登場し、成長性の高い企業が株式上場を果たすことで、活力ある経済の象徴となっているというのです。

日本でも「ユニコーン」のように、大きく成長する新興企業を増やそうという取り組みが始まろうとしているのですが…。(経済部記者 仲沢啓)

日本のユニコーン 米中とケタ違いの差

ことし6月、政府の「成長戦略実行計画」が閣議決定されました。
新たな企業を多く生み出し、その規模を拡大する環境の整備の一環として初めて盛り込まれたのが、「新規株式公開=IPOにおける価格設定プロセスの見直し」です。

背景にあるのが、日本のユニコーン企業の少なさ。
ユニコーン企業の定義は、時価総額が10億ドル=日本円で約1100億円を超える、未上場企業。将来的な上場が見込まれ、上場による巨額の資金調達でさらなる成長が期待される企業でもあります。
アメリカの調査会社「CB Insights」によりますと、ことし3月1日時点で、日本にはわずか4社しかありません。

一方、アメリカは274社、中国は123社と、まさにケタ違いの差です。

日本は成長前に上場

成長戦略を描く経済産業省としては、日本のユニコーン企業を増やしたいところ。

しかし日本は、未上場の企業の資金調達が海外に比べて難しいとされています。
アメリカや中国と比べ、ベンチャーキャピタルなどの投資額が少なく、創業まもない未上場の企業を育てる資金が不足していると指摘されているのです。

このため、日本では資金調達を目指す創業からまもない企業が、ユニコーンのような規模になる前の段階で、上場するケースが多くなっています。
さらに「マザーズ市場」の存在があります。
マザーズは上場に際して企業の規模や業種などによる制限を設けていない市場で、「世界でも有数の上場しやすい市場」と言われています。

このため、海外のユニコーンと比べ時価総額が小さい企業が上場するケースが多くなっています。

株価が低く抑えられる?

では、上場後に成長しない理由はあるのか。

そこで課題の1つと指摘されているのが、株式の「公開価格」を決めるプロセスです。

「公開価格」とは、上場に伴い企業が株式を売り出す際の株価のこと。その価格が高ければ高いほど、上場する企業は多くの資金を手にすることができます。

しかし経産省は、この「公開価格」が低く抑えられ、新興企業が上場を機に大きく成長するための妨げになっていると考えているのです。
これは世界各国の「公開価格」と、上場後に市場で初めて売買が成立した時の株価=「初値」を比較したグラフです。

公開価格から初値の値上がり幅は、イギリスでは15.8%、アメリカでは17.2%です。

一方、日本は48.8%。初値が公開価格の1.5倍近くになっています。

初値がそれほど高くなるのであれば、公開価格をもっと高く設定できるのではないか。そうすれば上場する企業がもっと多くの資金を調達できたはず。

つまり、公開価格の低さが新規上場企業のさらなる成長を妨げているのではないか…というのが経産省の考えです。

「公開価格」はどう決まる?

そもそも「公開価格」はどのように決められているのでしょうか。

証券会社に話を聞くと、現在は「ブックビルディング方式」というやり方で決められるのが主流になっているといいます。
ブックビルディング方式とは
(1)IPO(新規株式公開)を予定する企業と幹事の証券会社が同業他社の株価の動向や業界の成長性などを協議し「想定価格」を決める(例:1株=2200円)
(2)価格算定能力が高いとされる機関投資家などに需要動向を聞き、公開価格の一定の幅となる「仮条件」を決める(例:1株=2200~2500円)
(3)機関投資家や個人投資家からの需要申告(ブックビルディング)を受け、仮条件の範囲内で公開価格を決める。(例:1株=2500円)

公正取引委員会も動く

証券会社が主導する、こうしたIPOの価格決定プロセスについて、公正取引委員はこの夏、調査に乗り出しました。

直近に上場したおよそ100社を対象に、「証券会社と公開価格の設定で十分に交渉できたか」「価格設定に満足したか」などを聞く調査票を送付しました。公開価格が適正な水準になっているかを調べるためです。

実際にIPOをしたスタートアップ企業の担当者に話を聞くと
「証券会社に公開価格をもっと上げられないのか交渉しても、とりあってもらえず、期待していたような資金調達ができなかった。一方で、初値は公開価格の数倍に上り、そこから数年たって株価はさらに伸びている。本当はもっと多くの資金調達ができたはずだ」と話しました。

日本特有の市場構造

一方で、ある大手証券会社の幹部は「公開価格が低く抑えられているという指摘には違和感がある。日本特有の市場の構造も影響している」と指摘しています。
その背景にあるのが「マザーズ市場」の存在です。

マザーズでは比較的規模が小さい企業が上場することが多く、機関投資家にとっては、もうけにつながりにくいため、個人投資家が取引に参加する割合が高い傾向があります。

また金融緩和でマネーが株式市場に流れ込み、企業の成長性だけでなく、短期的な値動きを重視した人気投票的な売買につながり、その結果として初値が上昇しやすいというのです。

個人投資家にはメリットも

また、公開価格に比べ初値が高くなることは、個人投資家にとっては大きなメリットになっているという側面もあります。

公開価格での株の割り当ての多くは証券会社の裁量で行われ、多くは個人投資家が対象となっています。
公開価格で購入した個人投資家が、高騰した初値ですぐに売却すれば、その差が利益になるからです。

そもそも公開価格の設定プロセスをめぐっては、実は2008年にも大きな改定が行われました。
このときは現在とは逆で、初値が公開価格を下回り、個人投資家が損失を被るケースが相次いだことから、市場の取引が活発になるようにと、現在のような手続きに見直された経緯もあります。
さまざまな意見がある中、IPOの価格設定プロセスの見直しに向けて、証券業界でも議論が始まることになりました。

全国の証券会社などでつくる日本証券業協会の森田敏夫会長は、ことし9月の定例会見で「こうした機会に幅広く議論することが大事だ。しゃくし定規ではなく、さまざまな角度から検証していく」と述べ、価格設定の問題点を議論する新たなワーキンググループを立ち上げることを明らかにしました。

ワーキンググループには証券会社だけでなく機関投資家や専門家なども参加して、より柔軟な価格設定ができないかなどの議論を進めて、年内の取りまとめを目指すとしています。

ユニコーン育成 日本経済の課題

アプローチのしかたは違えど、国も証券会社も、日本でも大きく成長する新興企業を増やしていきたいという点では一致しています。

政府の「成長戦略実行計画」では、ほかにも、SPACと呼ばれる特別会社と合併したうえで上場する制度の整備を検討することも盛り込まれ、東京証券取引所で議論が始まっています。

潜在力のある若い企業に資金をいかに供給し、世界へ羽ばたく企業へと成長させていくのか。
議論の先に、日本からGAFAのような企業が次々と生まれ成長し、ユニコーンが伝説の一角獣ではなくなる日が来ることを願っています。
経済部記者
仲沢 啓
福島局、福岡局を経て、経産省・金融業界を担当