ノーベル物理学賞に真鍋淑郎氏 研究者「とんでもなくすごい」

ことしのノーベル物理学賞の受賞者に、プリンストン大学の上級研究員でアメリカ国籍を取得している真鍋淑郎さん(90)が選ばれました。
親交がある研究者は、受賞決定について「とんでもなくすごいこと」などとたたえています。

6年前に受賞 梶田隆章さん「若者にとって非常にいい刺激に」

6年前にノーベル物理学賞を受賞した日本学術会議の梶田隆章会長は「ノーベル賞受賞者がことしも出たということで、日本の研究者を目指す若者にとって非常にいい刺激になる。本当にうれしく思います」と話しました。

また、真鍋さんの功績について「自然現象をきちんと物理的手法でモデリングして、気候変動を予測することは社会的に極めて重要な課題だ。気候変動は非常に複雑だが、それを説明するために基礎に戻ってきちんと説明したということが重要で、若い人にもこのような基礎科学に興味を持って、いろんな分野に取り組んでもらいたい」と期待を寄せました。

そして、先輩受賞者のひとりとして「本当にこれからお忙しいかと思うので、健康に気をつけて過ごされるよう願っています」とエールを送っていました。

江崎玲於奈さん 「当時はおそらく注目されていない研究分野」

昭和48年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さんは、電話での取材に対し「90歳の真鍋さんと96歳の私は同じような世代で、そのころはアメリカに渡った若い研究者が彼や私のように大勢いました。当時、二酸化炭素が気候に与える影響というのはおそらく注目されていない研究分野で、今回受賞が決まったことには、率直にお祝いのことばを申し上げたい」と話していました。

「気候モデリングの父と呼べる方」

真鍋さんと同じ分野の研究をしていて今も交流を続けている、国立環境研究所地球システム領域の江守正多副領域長は、受賞決定について「とんでもなくすごいことなのでびっくりしています。大気と海を物理法則でシミュレーションする気候モデリングの父と呼べる方で、その礎があって私たちがいま地球温暖化の予測ができています。そのモデリングを最初にされたというのはとんでもないことだ」と述べました。

また、物理学賞を受賞した意義について「気象学は物理学の対象分野ではないと思われていたので、これが物理学として評価されたのはわれわれの分野全体として非常に大きな意味がある。気候変動問題というのは人類の問題で、その基礎が物理学でノーベル賞として認められたということを社会が受け止めて、気候変動対策というものに真剣に向き合っていかなくてはいけないというメッセージになると思います」と述べました。

「私たちの生活に密接に関わる研究」

真鍋さんと同じ分野の研究をしていて親交がある東京大学大学院理学系研究科の東塚知己准教授は、受賞決定について「受賞に値するすばらしい研究をされてきた。本当にうれしい」と話しました。

そのうえで、研究成果について「誰も当時やっていなかった大気のモデルと海洋のモデルをくっつけたシミュレーションを作り、研究を進めたことだ。真鍋先生が開発されたモデルは温暖化の研究だけでなく、気象庁の予報のモデルにも応用されていて、私たちの生活に密接に関わっているものだ」と述べました。

「温暖化の基礎となる研究を確立した」

真鍋さんと同じ研究分野で、大学院時代から60年以上の親交がある、海洋研究開発機構の松野太郎特任上席研究員は、真鍋さんの受賞が決まったことについて「とてもうれしいです。真鍋先生の功績は、気象学の世界では誰もが知るところですが、ノーベル物理学賞として評価されたことが意外で驚きでした。真鍋先生にはおめでとうと伝え、この分野が評価されてよかったねと2人で喜びました」と話していました。

真鍋さんの研究の意義について「気候の問題が物理の研究対象とは誰も思っていなかった時代に、この問題を物理の基礎を使って解明することを始めた第一人者で、温暖化の基礎となる研究を確立した」と説明しました。

そして、真鍋さんの人柄については、「非常に元気で朗らかな方。すごい研究をした人なのに、すごいと思わせずフランクに付き合ってくれる。研究が大好きな方だが、いわゆる学者という雰囲気ではなく、研究分野にとどまらず政治や社会の問題についても関心をもっていて、話題が豊富な方です」と話していました。

「新しい学問に挑戦 姿勢すばらしい」

真鍋さんと同じ分野を研究していて、JAMSTEC=海洋研究開発機構で真鍋さんの部下だった東京大学大気海洋研究所の阿部彩子教授は「気候は総合的な物理現象であり、われわれの環境の基礎が何によって成り立っているか探る学問だということが、真鍋先生の業績によって評価されたことは意義深い」と話していました。

また「気候の問題をコンピューターを使って研究するという新しい学問に挑戦するのは、非常に勇気がいったと思う。基本的な気候の問題を一から考え抜く姿勢がすばらしく、物事を広く考えることと、とことん考えることのバランスが絶妙で、学ぶところが多かった」と話していました。

「リスクを覚悟の上で現実的な目標 哲学が卓越」

気象庁の異常気象分析検討会の会長で東京大学の中村尚教授は、真鍋さんが在籍しているプリンストン大学に1991年から2年間、研究員として所属し、それ以来、親交があります。

中村教授は「同じ日本人の偉大な先輩で公私にわたりお世話になり、感謝ということと、本当におめでとうございますと心からお伝えしたい」と話していました。

また、真鍋さんの業績について中村教授は「国連のIPCC=『気候変動に関する政府間パネル』の報告書も最近出されましたが、地球の気候を再現し、それに基づいて将来を予測するという、その礎を築かれたのが真鍋先生です。今から40年以上も前の、計算資源が少ない時代に地球のエネルギーの流れをどう再現するのか、リスクを覚悟の上で現実的な目標を見据えた哲学が卓越していたのだと思います」と述べました。

また、気象や気候の研究分野がノーベル物理学賞の対象とされたのは今回が初めてですが、中村教授は「これまで宇宙に関してはたくさんあるが、大気の分野がノーベル賞の対象になる日が来ると思っていなかったので驚きました。ノーベル賞という枠組みの中でわれわれの分野の研究が評価されたのは本当にありがたいし、うれしい。地球の人類の将来に不可欠だというところを認めていただいたとのは本当にうれしいことです」と話していました。

「数値モデル 気象庁でも当たり前のように使用」

真鍋さんの受賞について、気象庁気象研究所で地球温暖化の将来予測について研究している山中吾郎全球大気海洋研究部長は「真鍋さんが1960年代に世界に先駆けて提唱した大気と海洋を結合した数値モデルは、今の気候変動の予測に欠かせないもので、季節予報やエルニーニョ現象の予測など、気象庁の日常業務の中でも当たり前のように使われています。地球温暖化研究の世界で知らない人はいない伝説的な人なので、受賞はとてもうれしい」と話しています。

その上で「90歳になってもなお第一線の研究者なので、これからも引き続きご活躍を続けてほしい」と話していました。

「物理学は基礎 広く分かってもらえるきっかけに」

真鍋さんが名誉会員として所属する「日本気象学会」の理事長で研究室の後輩にあたる東京大学大学院理学系研究科の佐藤薫教授は「真鍋先生は私が今、教授を務めている研究室の大先輩で、自分が大学院生だった35年ほど前に集中講義をしにきてくれた。それから私が教授になり、5年ほど前にも講演しにきてくれたが、研究内容を楽しそうに語る様子は全く変わっていなかった。気候や気象の研究は経験に基づく学問だと捉えられていると思うが、今回の真鍋先生の受賞によって物理学が基礎なんだと世の中に広く分かってもらえるきっかけになったのが、同じ分野の研究者として非常にうれしい」と話していました。

「安心安全を守る気象学が世界中に認められた」

真鍋さんと同じ分野の研究者で20年以上の交流があるという、国立環境研究所の木本昌秀理事長は「われわれの気象学の分野は何十年も前からノーベル賞をとれないと言われていて、今回の受賞はぶったまげておりますが、大変名誉なことだと思う。今地球全体で地球温暖化を止めて人類の進む方向を変えようとしている中で、その根拠となるサイエンスを先頭に立って引っ張ってきたのが真鍋先生であり、大変感慨深いものがあります」と述べました。

真鍋さんの研究姿勢について「細かいところや分からないところに固執せず、それでいて大事なツボを外さないというすばらしいセンスの持ち主だ」と評価しました。

そして、今回の受賞の意義について「人類の安心安全を守る私たちの気象学の研究が世界中に認められたことは大変励みになる。豪雨や土砂崩れなどの災害から身を守るためには精密な予測が必要で、その研究成果をみなさんに納得してもらわないと世の中は変わらないという中、今回の受賞をきっかけにみなさんに納得してもらいやすくなった。その意味でも意義深い受賞だ」と話していました。

「研究をいつも楽しむ 非常に芯の強い方」

真鍋さんは名古屋大学で特別招へい教授を務めたことがあり、名古屋大学の研究者からも受賞を喜ぶ声が上がりました。

このうち名古屋大学大学院環境学研究科の須藤健悟教授は学会やセミナーなどで真鍋さんと一緒になったことがあるということで、「ノーベル物理学賞は地球科学などは基本的に対象にしないと言われてきたので本当に驚いています。真鍋先生は研究をいつも楽しんでいて、にこにこしていますが、非常に芯の強い方だと感じています。過去の研究を見て、せん越ながら、これが重要だという現象の本質的な部分、エッセンスの部分をズバッと切り出す、抽出することが非常に得意な方だという感想を持っています」と話していました。

JAMSTEC 「世界各国で開発進む気候モデルの原型」

真鍋さんがフェローを務めているJAMSTEC=海洋研究開発機構は「真鍋淑郎博士のノーベル賞受賞を心からお祝い申し上げます。気候変動予測情報の創出に不可欠なツールとなっている気候シミュレーションモデルの源流は、真鍋博士が1960年代から取り組みを始めた研究にあります。地球大気の鉛直構造を決める、エネルギーの伝達過程や対流の役割を正確に評価した『放射対流平衡モデル』による研究は、世界の気候モデル開発に先鞭をつけました。続いて、大気や海洋の流れを考慮し開発を進めた『大気海洋結合モデル』は、現在世界各国で開発が進む気候モデルの原型となり、目覚ましい発展を遂げています。真鍋博士は1997年から2001年まで、海洋研究開発機構に在籍され当時創生期にあった気候モデリングチームを指揮され、『気候変動に関する政府間パネル』報告書への寄与などを通じ世界に貢献する礎を築かれました。改めて感謝とお祝いの意を表しますとともに、真鍋博士のご健勝とますますのご発展をお祈りいたします」というコメントを公表しました。

「受賞を機に温暖化問題の大事さ再認識を」

真鍋さんは、地球温暖化対策の初の国際的な枠組み「京都議定書」の意義を後世に伝え地球環境の保全に貢献した人をたたえるために京都府などが2010年から始めた「KYOTO地球環境の殿堂」の最初の受賞者のひとりに選ばれています。

選考委員を務めているNPO法人「気候ネットワーク」の代表で弁護士の浅岡美恵さんは、真鍋さんを受賞者に選んだ理由について「二酸化炭素が増えている要因が自然的な変化ではなく、産業革命以来の生産構造や暮らしの変化によるということをいち早く指摘していた。そしてこうした状況が積み重なることの危険性を警告し、世界的にも先駆的な研究となっていた」と説明しました。

その上で「今回のノーベル賞受賞の背景として、気候変動問題に今世界の人々が対応しないと温暖化に対処できる最後のチャンスを逃してしまいかねないという危機感があるのを感じた。この受賞を機に、多くの人に温暖化問題の大事さを再認識してもらいたい」と話していました。

環境省も歓迎の声

環境省では、気候変動に関わる研究がノーベル物理学賞を受賞することが決まったことを歓迎する声が聞かれました。

環境省の幹部は「現在の気候変動に関する研究には真鍋さんが基礎を作ったモデル分析の手法は欠かせず、その功績は計り知れない。今回の受賞は、気候変動対策を考えるうえで科学的な知見に基づいた判断が求められていることが改めて裏付けられたと感じている」と話していました。

また、地球科学の研究の経験があり気候変動対策を担当する職員は「この分野の研究では真鍋さんの名前は必ず論文で目にします。ノーベル賞とは無縁の分野だと思っていたので、受賞は画期的だと思います。今月末からは国連の会議『COP26』も開催されるので、気候変動対策の重要性に改めて注目が集まれば」と話していました。

気象庁も喜び

真鍋さんがノーベル物理学賞の受賞者に選ばれたことについて、気象庁は「真鍋先生は気候のシミュレーションモデルの開発や、それを用いた気候変動予測に関する研究など、私たちが科学的根拠をもって気候変動を正しく理解するための研究をまさに先頭に立って進めてこられました。今回、真鍋先生の気候変動に関する研究業績がノーベル物理学賞として認められたことは、気象庁職員一同にとって大きな喜びであり、また大変励みになるものです。気象庁としては関係省庁や国内外の関係機関と協力しながら、真鍋先生が切り拓いてきた研究分野をより進展させ、気候変動の諸課題に対応するための科学的情報の提供に努めて参ります」とコメントを発表しました。