建築資材など住まい関連商品 相次ぎ値上げ 消費回復への懸念に

「緊急事態宣言」が全面的に解除され経済活動の回復が期待されていますが、懸念されるのが原材料価格の高騰によるさまざまな商品の値上げです。
住宅やインテリアの業界では、建築資材や壁紙などが相次いで値上がりしていて、専門家は住まいに関わる「物価高」が消費の回復に水を差しかねないと指摘しています。

テレワークなどで在宅の時間が長くなったことなどを背景に、住宅やマンションの着工戸数は前の年を上回る状況が続いていて、リフォーム需要の高まりも期待されています。

しかし、住宅やマンションの建築用の資材は、木材や鉄鉱石、アルミニウムなどの原材料価格の高騰が続いているため、さまざまな商品が値上げされています。

鉄製の外壁材で国内シェアトップの建築資材メーカー「アイジー工業」は、鉄板の仕入れ価格が、この1年で3割ほど上昇したため、ことし8月から外壁材や屋根材を17%値上げしました。

また、東京に本社がある不動産会社「オープンハウス・アーキテクト」によりますと、マンションなどの建設に使う鋼材の1トン当たりの仕入れ価格もこの1年でおよそ2割、上昇したということです。

鋼材のほか、木材や銅などの資材も価格が上がっているため、このまま建設費の上昇が続けば、今後のマンションの販売価格に影響を及ぼす可能性があるとしています。

このほか、壁紙の卸売りで国内シェアトップのインテリア商社「サンゲツ」も先月、壁紙や床材、カーテン生地などを最大で18%値上げしました。

値上げの要因は共通していて、経済回復で先行したアメリカや中国で需要が急拡大し、原材料価格や輸送に必要なコンテナを確保するための費用が高騰しているためです。

専門家は「日本の景気が回復する前に、海外の要因で物価が上がり続けており、今後の消費回復に水を差しかねない状況になっている」と指摘しています。

原材料高に建築資材メーカーは

都会的なデザインや高い断熱効果が人気で、一戸建て住宅や事務所などに使われる鉄製の外壁材。

鉄製の外壁材の国内シェアトップで、山形県東根市にある建築資材メーカー「アイジー工業」によりますと、原材料費の5割以上を占める鉄板の仕入れ価格が、この1年で3割ほど上昇したということです。

このため、会社はことし8月から、外壁材や屋根材を17%値上げしました。

この会社の外壁材を使った住宅を多く手がけてきた建築士の男性は、「木材価格の高騰に加えて、鉄まで値上がりしてしまい、お客さんに住宅の見積もりを出しづらい状況になっている。手ごろな価格帯の住宅も相場が上がっているので、資産に余裕のある人しか手を出せなくなってきている」と話していました。
会社の高光克典社長は、「中国やアメリカで需要がいち早く回復したことで、長いデフレによってグローバルな購買力が落ちている日本の弱点が出てしまっている。資材の安定供給を続けるためには、値上げの理由を丁寧に説明し、理解をしていただくしかない」と話しています。

マンション価格にも影響及ぼす可能性

建築資材の値上がりは今後のマンションの販売価格にも影響を及ぼす可能性があります。

東京に本社がある不動産会社「オープンハウス・アーキテクト」は、現在、埼玉県川口市で賃貸マンションを建設中です。

このマンションは鉄筋コンクリート造りで、柱やはりなどの基礎的な部分のほか、部屋の天井や壁、ドアなどにも鋼材が使われています。

しかし、鋼材の1トン当たりの仕入れ価格がこの1年でおよそ2割、上昇しているほか、木材や銅などの資材も値上がりしています。

現在、建設中のマンションには去年、仕入れた資材を使っているため、今のところ販売価格に影響はないということですが、このまま建設費の上昇が続けば、今後は価格に反映せざるをえない状況だといいます。
会社の五味久忠さんは「土地の価格上昇に加えてこの1年で鋼材などの価格が高騰し、ダブルショックのような形でマンション全体の建設費に影響が出始めている。今後はお客様にご迷惑をおかけすることになる値上げの可能性も十分考えられると思う。中国やアメリカの経済状況が、今後の資材価格にどの程度のインパクトを与えるのか先行きが見えない状況だ」と話していました。

インテリアも値上げ

商品の値上げは、住まいを彩るインテリアにも及んでいます。

壁紙の卸売りの国内シェアトップで、名古屋市に本社があるインテリア商社「サンゲツ」は、先月から壁紙や床材、それにカーテン生地などを最大で18%、値上げしました。

会社によりますと、世界経済の回復に伴ってインテリア商品の需要が高まり、原材料となる塩化ビニル樹脂やナイロン、ポリエステルなどの価格が上昇しているほか、輸入の際のコンテナが不足し、物流費が高騰しているということです。

このため、メーカーからの仕入れ価格が上昇し、3年ぶりの値上げに踏み切ったということです。

会社は、商品を採用している住宅メーカーやリフォーム業者などを回り、値上げの理由を説明しています。

会社のショールームを訪れていた男性は、「リフォームにかかる費用がずいぶん高いなと感じている。質のいいものを使いたいが、予算は限られているのでその中でやりくりするしかない」と話していました。
安田正介社長は、「企業努力ではコスト高を吸収しきれず、価格転嫁が必要だと判断した。中国では、はるかに高い価格で壁紙が売れていて、日本での価格はあまりにも低い水準にある。『緊急事態宣言』が明ければリフォーム工事の需要も回復すると考えているので、産業全体のためにも値上げを認めていただきたい」と話しています。

原材料価格は高騰

住宅やマンションの建築用の資材に使われる原材料価格は、高騰が続いています。

世界銀行の調査によりますと、鋼材などの原料となる鉄鉱石の価格はことし7月に一時、去年の同じ時期の2倍に上昇しました。

また、銅の国際的な指標となる先物価格は、ことし5月に1トン当たり1万ドルを上回って過去最高値の水準となり、その後も高止まりが続いているほか、アルミニウムの先物価格も1トン当たり2800ドルを上回り、2008年以来、13年ぶりの高値水準になっています。

このほか、建築向けのガラス製品も原料の「けい砂」や製造設備の燃料となる重油の市場価格が高止まりしていることなどから値上げする動きが相次いでいて、
最大手のAGCは、今月1日の納品分から
▽一般的な板ガラスと鏡を15%から20%、
▽防火用の網入りの板ガラスなどを30%、
▽断熱性能の高い複層ガラスなどを10%から20%、
それぞれ値上げしています。

日本の賃金は伸び悩み

この30年間、日本の賃金は伸び悩み続けています。

OECD=経済協力開発機構によりますと、世界各国の名目の平均年収は、1991年を100とした場合、日本は2020年の時点で100.1で、この30年間、ほぼ横ばいで推移しています。

一方、先進各国の賃金は大幅に上昇していて、
2020年の時点で
▼アメリカが249.1、
▼イギリスが243.4、
▼ドイツが200.5、
▼フランスが181.6となっています。

先進各国の賃金が大きく上がる中、世界的な物価の上昇に「所得」が追いついていない日本の現状を露呈する形になっています。

専門家「悪い物価上昇」

第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは、「ワクチン接種のスピードや医療提供体制の差で、日本より海外経済の方が先に回復した。海外経済がよくなれば、世界的に物価が上がるので、日本の景気は回復していないのに物価だけが上がっていくことになる。海外に買い負けして生活の負担だけが増す『悪い物価上昇』と言える」と指摘しています。

そのうえで、「さまざまな商品の値上げが進めば、行動制限の緩和で期待される消費の回復に水を差し、足を引っ張る状況になることが懸念される。お金を使った人が恩恵を受けるような、消費喚起策などが必要になるのではないか。海外に買い負けない購買力をつけるためにも、一刻も早く経済を活性化し需要を引き上げることが重要だ」と話しています。