子宮頸がんワクチン 積極的接種呼びかけの再開めぐる議論開始

接種の積極的な呼びかけが8年以上中止されている子宮頸がんワクチン。
厚生労働省の専門家部会が呼びかけを再開するかどうか議論を始めました。

これまでの経緯や海外の接種状況、接種をめぐる国内の動きなどをまとめました。

厚労省の専門家部会「再開を妨げる要素はない」

1日に開かれた厚生労働省の専門家部会では、安全性や有効性を示すデータが国内外で集まっていることなどを理由に「再開を妨げる要素はない」として今後、再開を視野に課題を整理していく方針を確認しました。

子宮頸がんワクチンは2013年4月に定期接種に追加されたあと、体の痛みなどを訴える女性が相次ぎ、2か月後、厚生労働省は、希望者に接種できる体制は維持しつつ、接種の積極的な呼びかけを一時、中止することを決めました。

厚生労働省は、10月1日、専門家部会を開いて、接種の呼びかけを再開するかどうか議論を始めました。

この中で厚生労働省の担当者が、ことし3月末までに接種を受けた人は推定で延べ929万人で、このうち0.008%にあたる759人に重篤な症状が見られたと、医療機関から報告があったことを明らかにしました。

一方、症状と接種との関連は、国内外の調査でも確認されておらず、スウェーデンで行われた調査では17歳になる前に接種した場合子宮頸がんになるリスクが88%低下するという分析結果が示されるなど安全性や有効性を示すデータが集まっているなどと説明しました。

これを受け、専門家部会では、接種の積極的な呼びかけを再開することについて、「妨げる要素はない」とする見解をまとめました。

委員からは、
▽接種の機会がなかった人への対応や、
▽症状が出た場合に備えて適切な医療体制の整備などを求める意見が出され、
部会では、今後、接種の呼びかけの再開を視野に具体的な課題を整理したうえで最終的な判断を示すことにしています。

弁護団「不当な結論 認めることはできない」

5年前には、子宮頸がんワクチンを接種した女性たちが、体の痛みや記憶力の低下などの副反応が出たとして、国と製薬会社を相手に治療費の支払いなどを求める訴えを集団で起こしています。

弁護団と原告団は1日夜、都内で会見を開き、弁護団の共同代表を務める水口真寿美弁護士は専門家部会の見解について、「厚生労働省が用意した接種の呼びかけの再開に都合のいい偏ったデータをうのみにしている。副反応の実態を十分に把握した上での議論ができておらず、不当な結論だ。決して認めることはできない」と批判しました。

日本産科婦人科学会など「安心できる接種体制のさらなる充実を」

子宮頸がんワクチンの接種の積極的な呼びかけを再開するか、厚生労働省の専門家部会で、議論が始まったことを受けて、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で歓迎する声明を出しました。

声明では、1日始まった議論について「今や国際標準となったこのワクチンに関するエビデンスの整理と共に接種後に生じた症状に苦しんでおられる方への支援策も含めたこれらの問題が真摯に検討されることを歓迎いたします」としています。

そして、子宮頸がんワクチンをめぐる現状について「世界中からこのワクチンの有効性の報告が相次ぐ中で、日本では何も議論されないまま8年以上が経過してしまいました。世界中で我が国の女性だけが子宮頸がん予防に関して取り残されたまま年月が経っておりました」とする認識を示しました。

その上で声明では「今後の接種の積極的な呼びかけの再開に向け、安心できる子宮頸がんワクチンの接種体制をさらに充実させて国民のワクチンへの理解が得られるよう活動して参ります」としています。

これまでの経緯と接種率の推移

子宮頸がんワクチンは、2013年4月に小学6年生から高校1年生までの女性を対象に定期接種に追加されましたが、接種後に原因不明の体の痛みなどを訴える人が相次ぎました。

その年の6月に積極的な接種の呼びかけが一時、中止され、翌2014年1月、厚生労働省の専門家部会は「ワクチンの成分によって神経や免疫などに異常が起きているとは考えにくく、接種の際の不安や痛みなどがきっかけで症状が引き起こされた可能性がある」などとする見解を発表しました。
しかし、接種の呼びかけを再開するかどうかは判断せず、定期接種になる前に70%以上あった接種率は1%を下回りました。
こうした中、厚生労働省は接種を受けてもらう際の参考にしてもらおうと、ワクチンの有効性や、接種後に報告された症状などを紹介するリーフレットを作成し、去年10月以降、接種対象の年齢の女性がいる世帯に自治体を通じて個別に配布を始めました。

ことし3月までに全国の市町村の61%が、リーフレットを配布したということです。

こうした中、田村厚生労働大臣はことし8月、積極的な接種の呼びかけを再開するか、検討を始める考えを表明していました。

接種後に報告された症状 ワクチン接種との因果関係は?

子宮頸がんワクチンの接種後に報告された、頭痛や倦怠感、体の痛み、失神などさまざまな症状をめぐっては、これまで国内でも調査研究が行われましたが、接種歴がない人にも、同様の症状が一定数出ることが明らかになっていて、厚生労働省によりますと、ワクチン接種との因果関係があるという証明はされていません。

国は8年前、ワクチンの接種後に、頭痛や倦怠感、体の痛み、失神など、さまざまな症状が出たと報告されたのを受けて接種の積極的な呼びかけを中止しました。

その後の厚生労働省の調査で、接種後に症状が出た人の割合は、
▽因果関係があるかどうかわからない症状や、接種後に短期間で回復した症状も含めて「1万人あたり9人」で、
▽入院が必要になるなど医師などが重篤と判断した症状では「1万人あたり5人」だとしています。

厚生労働省によりますと、接種歴がない人にも、同様の症状が一定数出ることが明らかになっていて、これまでに、接種後に出たさまざまな症状について複数の調査研究が行われているものの、ワクチン接種との因果関係があるという証明はされていないとしています。

また、国の研究班は因果関係があるかどうかわからないものの、接種後に痛みの症状が出た244例のうち、その後の経過が把握できた156例についてのデータを2016年11月に公表しました。

それによりますと、
▽痛みが消失または改善したのはおよそ74%にあたる115例、
▽痛みが変わらないのはおよそ21%にあたる32例、
▽痛みが悪化したのはおよそ6%にあたる9例でした。

一方で、どのワクチンでも、接種したあとにさまざまな症状が出る人がいることは、国際的に認識されるようになっていて、こうした症状についてWHO=世界保健機関はおととし、「予防接種ストレス関連反応」という新たな概念を提唱しました。

子宮頸がんワクチンに限らず、注射やワクチンを接種することそのものへの不安やストレスが要因となって、息切れやめまい、失神などが起きるケースや、遅れて出る反応として脱力やしびれ、歩行困難などが極めてまれに起こることが報告されています。

専門家「患者を支える医療体制の充実が大切」

ワクチン接種後に症状が出た患者の治療にあたってきた愛知医科大学の牛田享宏教授は「子宮頸がんワクチンの接種が始まった当初は、接種後に出る症状についてわからないことが多く、医師が対応できずに別の医師にたらい回しをするような状態になって、患者さんがますます不安になる事態が起きていた。最近ではワクチンに対するストレス反応として、さまざまな身体症状が起こりえることが分かってきた。こうしたことも踏まえて、これまでの治療のノウハウを集積して共有したうえで、医師や臨床心理士、理学療法士などがチームになって症状が出た患者さんを寄り添い支える医療体制を充実させることが大切だ」と話しています。

100か国以上で公的な接種 リスク減らした国も

子宮頸がんワクチンは2006年に欧米で開発され、現在では100か国以上で公的な予防接種が行われ、接種率が8割を超えている国もあります。

その中で、接種が進んでいるスウェーデンからは、去年、ワクチンで子宮頸がんの発症を大幅に防ぐことができたとする論文が発表されました。

国際的な医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表された論文によりますと、スウェーデンのカロリンスカ研究所のグループは2006年から2017年までの間に10歳から30歳だったおよそ167万人の女性を対象に4つの型のウイルスに有効なワクチンの接種が子宮頸がんの発症と関連するか調べました。

その結果、ワクチンを接種しなかった女性で子宮頸がんと診断されたのは、10万人あたり94人だったのに対し、接種した女性は10万人あたり47人と半減していました。

年齢などを調整したうえで子宮頸がんのリスクを分析したところ、17歳未満で接種した場合はリスクが88%減り、17歳から30歳までに接種した場合でも、リスクは53%減っていたということです。

また、ワクチンの接種後に出た重篤な症状について、接種との因果関係が証明されなかったとする論文もことし、国際的な医学雑誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に発表されました。

それによりますと、韓国の研究グループが2017年時点で11歳から14歳だったおよそ44万人のうち、子宮頸がんワクチンを打ったおよそ38万人と、このワクチンを打っていないおよそ6万人で、偏頭痛や甲状腺の機能低下、関節の痛み、てんかんなど、33の症状の発症頻度に差があったか調べたところ、偏頭痛だけワクチン接種を受けた人たちにやや多い傾向は見られましたが、ワクチン接種と重篤な症状の発症に、因果関係は証明されなかったとしています。

子宮頸がんワクチンの有効性と安全性に関する研究は各国で進められていて、WHO=世界保健機関はがんを引き起こすウイルスの感染やがんになる前の病変、それにがんを効果的に防ぎ、安全だとして接種を推奨しています。

難しい対応を強いられてきた自治体「早期に結論を」

国が子宮頸がんワクチンの接種の積極的な呼びかけを中止した一方で、予防接種の実施を担う各地の自治体は希望者が接種できるよう、接種期間や場所を知らせる義務もあるため、接種の情報をどう伝えるべきか、手探りの対応を強いられてきました。

このうち、東京 港区は、2013年に国が子宮頸がんワクチン接種の積極的な呼びかけを中止したのを受けて、接種の対象者への個別の通知は控えてきました。

これによって、2012年には免疫がつくのに必要な3回の接種を終えた人は区内で805人いたのが、2014年以降は年間10人以下に激減しました。

一方で、「ワクチンの存在を知らずに、公費で接種できる期間を逃してしまった」という声が寄せられたこともあり、区は、去年からは「積極的な呼びかけ」にあたらないよう、「効果と副反応のリスクを十分に理解し、接種を判断してください」などと記載したうえで、無料で接種できる最後の学年となる高校1年生の女子生徒およそ800人に対し、個別にワクチン接種の案内の送付を再開しました。

接種した人は昨年度、110人に増加し、さらに、ことしは、接種対象の小学6年生から高校1年生に加え、新型コロナ感染への不安から接種を控えた可能性があるとして区内では特例でことしも無料での接種ができる高校2年生あわせて4500人余りに、厚生労働省が作ったリーフレットと接種に必要な予診票を送ったということです。
港区の太田留奈保健予防課長は「どこまでが積極的勧奨にあたるのか不透明な中、手探りの対応を続けてきた。国の方針とはいえ、長期にわたって必要な情報が届けられなかったことを申し訳なく思っている。国は早期に結論を出すとともに、この8年間に、ワクチンの存在を知らずに機会を逃した人に対する救済制度を整えてほしい」と話していました。

機会逃した世代 無料で接種を求める動きも

国が子宮頸がんワクチンの接種の積極的な呼びかけを中止した8年余りの間に、無料で接種ができる年代が過ぎた女性たちからは、接種の呼びかけの再開とともに、改めて無料で接種できる機会を与えてほしいという声が出ています。

子宮頸がんワクチンは、現在も、小学6年生から高校1年生までの女性は定期接種として公費によって無料で接種できます。

しかし、8年前の2013年に国の定期接種が始まった直後、接種後に体の不調を訴える女性が相次いだことを受け、国が「積極的な呼びかけはしない」と方針を変更しました。

このため、自治体は対象となる年代の女性や保護者に接種を促すはがきなどを送ることをやめ、さらに体調不良への不安もあって、2013年以降、ワクチンの接種率は急激に下がりました。

大阪大学の研究グループは、無料で接種できる年代を過ぎた2000年度から2004年度までに生まれた現在16歳から21歳までの女性のうち、およそ260万人が無料接種の機会を逃したと分析しています。

また、この世代の女性のおよそ7割がワクチンを接種していたら、子宮頸がんになる人をどれだけ減らせたか試算したところ、ワクチンで子宮頸がんの発症を60%防ぐとした場合、将来子宮頸がんになる人を2万2000人減らすことができ、5500人が子宮頸がんで亡くなるのを避けられたとしています。

この世代の女性の中には、改めて無料での接種をできるよう求める活動を始めた大学生もいて、医師らとともに、「HPVワクチンforMe」という団体を作り、ことし3月、無料での接種を求めるおよそ3万人の署名を厚生労働大臣に提出しました。

署名を提出したうちの1人で、21歳の大学3年生、江連千佳さんは無料接種の対象になった12歳のころには接種後に体調不良になったとする報道が多かったこともあり、親と相談して接種しませんでした。

その後、ニュージーランドに留学した際にワクチンで子宮頸がんが予防できると学んだことなどから、接種したいと考えるようになりましたが、無料で接種できる期間を過ぎていたため、実際に4万円程度を負担して接種したということです。

大学生「打ちたくても打てないという友人も多い」

江連さんは「以前は副作用がひどいという報道がたくさんあり、不安感があったので接種しなかった。ただ、確かな情報が得られるようになったいま、自費で接種したいと思っても、大学生の私たちにとって、接種にかかる費用は簡単に出せる金額ではなく、親の支援を得られずに、打ちたくても打てないという友人も多い。私たちの世代にもう一度無料で接種できるチャンスを与えてほしい」と訴えています。