子どもの心の声を聴いて “大人の都合”だけで決めないで

子どもの心の声を聴いて “大人の都合”だけで決めないで
「両親からの暴力が怖いので自宅に帰りたくない」
17歳の女性は小学生5年生の時に一時保護をされた際、児童相談所の職員にそう伝えたといいます。しかし、そのまま自宅に戻されその後、親から再び虐待を受けたと話します。
女性は「子どもの意見をきちんと聴いてほしい」と訴えています。
(社会部 記者 間野まりえ)
取材に応じてくれたのは関東地方に住む17歳の女性。一緒に暮らしていた両親に繰り返し蹴られるなどの暴力を受け、小学5年生の時、児童相談所に一時保護されました。

“一時保護”で安心も…

一時保護は、親などから虐待を受けている疑いがある時に子どもの安全を守るために児童相談所の判断で親元から引き離すことです。
女性は一時保護所と呼ばれる施設で、ほかの子どもたちと一緒に暮らすことになりました。

子どもたちを保護するため、窓もなく、部屋ごとに鍵がかけられていることなどから、はじめのうちは怖いと感じたといいます。

ただ、両親から暴力を振るわれることはないという安心感が支えになっていました。

しかし、一時保護から2週間後に起きたことを女性は、今も忘れられないと証言します。

突然、児童相談所の職員から告げられました。

「明日、家に帰るよ」

女性は「両親からの暴力が怖いので、自宅に帰りたくない」と伝えましたが、職員から「一時保護所は人がいっぱいだから、帰らなくちゃだめだよ」と言われた記憶だけが残っているといいます。

女性は「大人の都合だけで決められた」と感じています。

一時保護 長期化で“退学”

女性は自分の意見を聴いてもらえなかったことが、ほかにもあったと話します。

それは高校2年生の時、父親から虐待を受けて再び一時保護された時のことでした。

児童相談所の職員に「学校だけは通い続けたい」と伝えました。
しかし、「ほかの子もみんな学校に行けていないのに、1人だけ行くことは難しい」と説明されましたが、これ以上の説明はなかったといいます。
一時保護された子どもが学校に通うことについて、どのようなルールになっているのか。

厚生労働省のガイドラインでは、通学などの制限について、子どもの安全確保などのため「必要最小限とする」とされていて、通学などを可能なかぎり認めることが望ましいとしています。
文部科学省は学校に通えない場合でも、施設での学習の内容などが一定の要件を満たす場合は「出席扱い」とすることができると教育委員会などに通知しています。

しかし、厚生労働省が昨年度行った調査では、2019年度に2か月を超えて一時保護をされた子どものうち、一時保護所から学校に通っていた子どもは、およそ4%にとどまっています。
女性の場合は高校2年生の時の一時保護の期間がおよそ8か月に及び、その間は通学することができませんでした。

また、女性の学校では「出席扱い」とはされず、出席日数が足りなくなったということです。

女性は留年をすると友達と気まずくならないかや、周りからどう見られるかが不安だったことから退学することを決めました。
現在、通信制の高校に通いながら大学進学を目指しています。
17歳の女性
「一生懸命勉強して入った高校だったし、仲のいい友達もいて、高校が好きだったので、やめなければならないのは本当にショックでした。少しでもいいから、子どもの意見を聴いて反映してほしかったと思っています」
女性には匿名を条件に取材に応じてもらったため、児童相談所の職員の対応が実際にどうだったのかは確認することはできませんでしたが、こうした意見を聴いてもらえなかったという子どもの声は相次いでいます。

厚生労働省が、ことし5月に一時保護をされた子どもなどおよそ60人にヒアリング調査を実施したところ、
「意見を聴かれたことはない」
「施設に行くか聴かれたが、よくわからないままきめられた」
など、意見を十分に聴かれていないと感じているという回答が相次ぎました。

“大人が勝手に決める”ことで 子どもの将来にも影響

女性のように虐待で一時保護された子どもは、2019年度、およそ3万人に上り、この5年間で1.7倍に増えました。

一時保護の期間は、平均でおよそ1か月間。

そして、その後児童相談所の判断で、自宅に戻るのか、児童養護施設や里親家庭で生活するのかが決められます。
厚生労働省のガイドラインでは、この時に、
▽子どもの意見や気持ちを十分に聞く、
▽そうした移行が必要であることを納得するための十分な説明、
などが必要だとしています。

支援団体は、当事者である子どもから意見を聴いて納得できる説明を行うことまで児童相談所の対応が追いついてこなかったと指摘します。
Children’sViews&Voices副代表 中村みどりさん
「児童相談所の職員は忙しく、大変な状況もあるのだろうと思いますが、子どもたちの意見を聴くことがこれまで後回しになっていたように思います。『大人に勝手に決められる』という経験を重ねることで、子どもたちが、自分の人生をひと事のように感じ将来に希望が持てなくなってしまうこともあります。子どもたちの心の安全や安心を考えると、ただ一時保護するだけなく、子どもたちの気持ちに寄り添うことがとても大切なんです」

子どもが安心して意見を話すために

どうすれば、子どもたちの意見を聴き納得してもらえるのか、取り組みを始めた自治体もあります。

大分県では、地元の大分大学と連携して「アドボケイト」と呼ばれる、“意見表明支援員”の養成を去年から始めました。
アドボケイトは県内の一時保護所や児童養護施設、里親家庭を訪問し、子どもたちに、困っていることや現在の気持ちなどについて意見を聴き、子どもから希望があれば、その意見を施設の職員や里親に伝えるサポートをします。

現在13人が活動していて、10月からさらにおよそ30人増やす予定です。
どのような活動をしているのか。
8月、大分県内の児童養護施設での活動を取材しました。

児童養護施設を訪れたアドボケイトは、まず子どもたちに、自分の意見や気持ちを「言う権利」があることを、アニメやゲームなどを通じて知ってもらいます。
そのほかにも、住む場所や食べ物が保障される「生きる権利」、勉強や遊びを通じて能力を十分に伸ばして成長できる、「育つ権利」があることを伝えます。

子どもたちからは
「こんなにたくさん権利があると知って驚いた」
「自分に自信がついた」
という声が上がっていました。

そして、子どもから希望があれば、アドボケイトは話しやすいように個別に意見を聴く時間をつくります。

アドボケイトと個別に相談をした小学生の女の子は
「施設の職員どうしが、時々こそこそと話をしていること」
「ずっと会っていないおじいちゃんに、実は会いたいこと」
を伝えました。

そしてアドボケイトが施設の職員に女の子の気持ちを話したところ、
▽職員がないしょ話をやめたり、
▽家族に会える機会を増やしたりする、
など対応を見直しました。
女の子
「なんとなく、職員さんには直接言いづらかった。でも、支援員が自分の気持ちを話してくれてすっきりした」
アドボケイトはこれまでに80人の子どもと面談していて、専門家は、アドボケイトの役割は子どもが安心して意見を話すためにもとても重要だと指摘します。
大分大学 相澤仁教授
「一緒に生活をしているからこそ職員や里親には言いにくいということもあり、常に子どもの側に立ってくれる存在はとても大切です。子どもたちの声をきちんと聴いて、それを関係者に届けることで子どもたちがより適切なサポートを受けられるように、仕組みをつくっていきたい」

意見を聴き説明を尽くす

岡山県の児童相談所では、県の審議会から委託を受けた弁護士が一時保護された子どもと面会し、意見を聴く取り組みを去年から始めています。
その結果、子どもが過剰に人の行動が気になってしまうなど集団生活が苦手であることを打ち明けて、児童養護施設ではなく、里親家庭で生活することが決まったケースや、一時保護所での「歯磨き1日5回」、「髪を黒染めする」などの厳しいルールを見直したケースがありました。

ただ、子どもの意見を聴くと言っても、すべての意見を反映できるわけではありません。

子どもが「自宅に帰りたい」と言っても、虐待によって命の危険がある場合、「子どもの最善の利益を守る」という観点から、児童相談所が自宅に帰さないという決定をすることがあります。

岡山県の児童相談所に取材したところ、職員が説明したつもりになっていても、弁護士が確認すると、子どもから「よく分からなかった」という声が多く聞かれたといいます。

このため子どもの立場にたって説明を尽くすことの重要性を改めて感じ、意見を反映できない場合も、職員がきちんと説明することを心がけていると言います。
岡山県中央児童相談所 池内正江所長
「一時保護をした直後は子どもも混乱しています。子どもが分かるようにきちんと説明できていないと、それは伝えていないことと同じになってしまいます。子どもの意見を聴いて、それを踏まえてどのような対応ならできるのか、できない場合はどうして難しいのか、子どもが分かるまで説明したいと考えています」

子どもの権利を守るため

子どもたちの「意見を聴かれる権利」を守るために、厚生労働省は法律の改正を検討しています。

具体的には、児童相談所を設置する都道府県などに対して、一時保護をした後に、児童養護施設などで生活することを決める際には、あらかじめ子どもから意見を聴くことを義務化すること、そして、子どもをサポートする、「意見表明支援員」を配置するなど、意見を言いやすい環境整備に努めるよう求めることなどを検討しています。

虐待などの被害を受けた子どもが、施設での生活や児童相談所の対応などでさらに追い詰められることは、あってはならないことだと思います。
しかし、取材を進めると実際にはそこで傷つき、本来頼るはずの大人への不信感を強めている子どもたちは少なくないことがわかりました。

また、児童相談所や子どもたちを受け入れる児童養護施設や里親家庭の体制が十分ではないために、子どもの意見を反映することができないというケースもあります。

子どもたちの声にきちんと耳を傾け、子どもたちが自分の人生に希望を持てるよう、一時保護のあり方や体制の見直しも含めた検討が今こそ求められていると感じます。
社会部 記者
間野まりえ