ドイツ メルケル首相の後任は?社民党第1党で連立の見通しは?

26日に行われたドイツの連邦議会選挙は中道左派の社会民主党が第1党となり、メルケル首相が所属するキリスト教民主・社会同盟は第2党となりました。どちらもみずからが主導してほかの政党との連立政権を発足させたいとしていて、連立交渉の行方が焦点になります。

26日に行われたドイツの連邦議会選挙は暫定結果が発表され、735議席のうち中道左派の社会民主党が前回より53議席多い206議席を獲得して第1党になりました。

一方、メルケル首相が所属する中道右派のキリスト教民主・社会同盟は50議席減らして196議席と、第2党になりました。

どちらも過半数に届かず、みずからが主導してほかの政党との連立政権を発足させたいとしていて、第3党に躍進し環境保護政策を前面に打ち出す緑の党と、第4党で市場経済を重視する中道右派の自由民主党を取り込めるかがカギをにぎる展開となっています。
投票から一夜明けた27日、社会民主党の首相候補、ショルツ氏は「有権者が求めているのはわが党と緑の党、それに自由民主党の政権だ」と訴えました。

キリスト教民主・社会同盟のラシェット氏も同じく緑の党と自由民主党との連立を模索していて、両党とも年内の新政権発足を目指しています。

ただ、気候変動対策と経済をどう両立するかや、増税の是非などをめぐって各党の政策には隔たりがあることから、交渉は難航も予想されます。

新政権が発足するまではメルケル首相が職務を続けることになります。

前回の連立交渉は「半年近く」

社会民主党は過半数にはほど遠く、他の政党と連立交渉を行うことになります。

過去には連立交渉の末、第2党から首相を輩出したこともあります。

現時点で新たに議会多数派を形成するにはどちらの政党も、第3党に躍進する勢いの「緑の党」と、第4党をうかがう「自由民主党」を、同時に取り込む必要があります。

ただ、これらの政党は「環境保護」と「ビジネス重視」という別の理念を掲げていて、そろって政権に取り込むのは容易ではありません。

実は前回2017年の選挙後の連立交渉でもメルケル首相がこれらの政党を同時に取り込もうとして失敗し、結局半年近くをかけて社会民主党との「大連立」に行き着いた経緯があります。

前々回の2013年の選挙後も政権発足までにはおよそ3か月かかっています。

今回も二大政党のどちらがどれほどの時間をかけて、連立交渉をまとめるのかは、まだ見通せない状況です。

ドイツは連立政権を「色」で表現

ドイツのメディアでは、政党の連立を伝える際、各党のイメージカラーの組み合わせで表現するのが特徴です。

各党のイメージカラーは、
▼キリスト教民主・社会同盟:黒
▼社会民主党:赤
▼緑の党:緑
▼自由民主党:黄色
▼ドイツのための選択肢:青
などとなっています。

第4次メルケル政権は、「キリスト教民主・社会同盟」と「社会民主党」、「黒・赤」による大連立政権となっています。

今回の選挙をめぐっては、連立を組みそうな3党の色を用いて政権の行方が予想されていて、3色であることから、「国旗」などに見立てたユニークな呼び方もされています。

▼「信号機連立」・・・社会民主党の赤、自由民主党の黄、緑の党の緑の3党による赤・黄・緑の連立は「信号機連立」と呼ばれます。
▼「ジャマイカ連立」・・・ジャマイカの国旗に使われている色の黒・黄・緑の3党による連立です。キリスト教民主・社会同盟の黒、自由民主党の黄、緑の党の緑による連立です。
▼「ドイツ連立」・・・ドイツ国旗に使われている色の黒・赤・黄で、キリスト教民主・社会同盟の黒、社会民主党の赤、自由民主党の黄による連立です。

▼「ケニア連立」・・・ケニアの国旗に使われている色の黒・赤・緑の3党による連立です。キリスト教民主・社会同盟の黒、社会民主党の赤、緑の党の緑による連立です。

専門家「連立は『信号機』か『ジャマイカ』か」

ヨーロッパの政治や経済に詳しい第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは社会民主党が第1党になった勝因について「政策論争よりポスト・メルケルにふさわしい候補を問う選挙となった結果、堅実でメルケル路線を踏襲するという印象づけに成功した社会民主党のショルツ氏が選ばれた」と分析しました。

そして今後の連立交渉では社会民主党が、第3党の緑の党と第4党の自由民主党を取り込む「信号機連立」か、第2党のキリスト教民主・社会同盟がこれら2党を取り込む「ジャマイカ連立」の組み合わせが考えられるとしながら「難航が予想される」と指摘しています。

その理由として田中主席エコノミストは、気候変動対策の強化に向けて積極的な財政出動を進めたい緑の党と、財政規律を重視する自由民主党とでは「政策の軸が大きく異なる」とした上で「連立交渉の間もメルケル首相が暫定政権を率いる形となり政治の空白は起きないが、政権が決まらないと次の政策運営も見えてこない。その不透明感からドイツでビジネスをしたりドイツとビジネスを行ったりする日本企業にとっては不安材料となり得る」と指摘しました。

そしてドイツは自動車産業や経済を支える中小企業を多く抱える点で日本と共通していると指摘したうえで「ドイツをはじめEUは気候変動対策で世界で最も積極的な地域だ。気候変動対策と企業の競争力をどう両立させるのかは日本にも重要なヒントになる」と話していました。

社会民主党 ショルツ氏「大きな成功だ」

第1党となる社会民主党の首相候補のショルツ氏は、日本時間の27日午前2時ごろ、首都ベルリンで演説し「選挙結果に満足している。大きな成功だ」と述べました。

そのうえで「多くの有権者が、政権の変化とオラフ・ショルツという名の次期首相を求めて社会民主党に投票した」と述べて、ほかの政党との連立交渉を主導して、政権発足を目指す考えを示しました。

社会民主党 ショルツ氏 “カリスマ性はない”ものの…

オラフ・ショルツ氏は63歳。

北部ハンブルクで市長を務めたあと2018年からはメルケル首相が率いる大連立政権で財務相と副首相を兼任しています。

ことし7月にドイツ西部を襲った洪水を受けて、被災地への緊急援助を行う方針を速やかに発表したほか、新型コロナウイルスによる経済への影響を抑えるため、大規模な景気対策を行ってきました。

選挙戦では社会格差の是正を訴え、最低賃金を12ユーロ、日本円で1500円余りに引き上げることや、富裕層への増税などを掲げ、雇用を確保しながら気候変動対策も進めると主張しました。

カリスマ性がないとされてきましたが、豊富な政治経験に基づく実務能力の高さと堅実さが評価され、冷静で落ち着いた対応はメルケル首相に似ているとも指摘されています。

8月には両手の指先を組み合わせてひし形を作る、メルケル首相が好んでとるポーズをまねた写真が地元メディアに掲載され、自分こそがメルケル首相の後継者だとアピールしたものと受け止められています。

ただ、2017年、みずからが市長を務めていたハンブルクでG20サミットが開かれた際、開催に抗議するデモの参加者の一部が暴徒化し、放火や略奪に発展したことから、危機管理能力を問われたこともあります。

キリスト教民主・社会同盟のラシェット氏「政権発足させる」

暫定の得票率で2位のキリスト教民主・社会同盟の首相候補のラシェット氏は、日本時間の27日午前2時ごろ、首都ベルリンで演説し「接戦となっている。確かな最終結果が出たわけではないが、結果には満足できないだろう」と述べ、厳しい情勢になっているという認識を示しました。

そのうえで、社会民主党を中心にした左派主導の政権を望まない有権者の声にこたえたいとして「キリスト教民主・社会同盟のもとで政権を発足させる」と述べ、劣勢が伝えられるなかでも連立交渉を主導したい考えを示しました。

ラシェット氏 メルケル路線の継続訴える

アルミン・ラシェット氏は60歳。

ドイツ連邦議会やヨーロッパ議会で議員として活動したあと2017年からはドイツで最も人口の多い西部ノルトライン・ウェストファーレン州の州首相を務めています。

キリスト教民主・社会同盟に所属するメルケル首相が進めてきた中道路線の継続を訴え、選挙戦では経済成長を重視する政策を掲げてきました。

メルケル首相は先月(8月)ラシェット氏について、常に人々の心をつなぐことを大切にしてきたなどとたたえ、「将来のドイツの首相だ」と支持を表明しています。

ラシェット氏は政治経験が豊富で、協調を重視する調整型として知られる反面、カリスマ性や強い指導力に欠けるとも指摘されています。
ことし7月には、地元のノルトライン・ウェストファーレン州などを襲った洪水の被災地を訪れた際、大笑いする姿が報じられて強い批判を浴びました。

過去には第2党から首相も

東西統一前の旧西ドイツでは、議会選挙で第2党となった政党から首相が選ばれたこともあります。

1969年に行われた連邦議会選挙では、「キリスト教民主・社会同盟」が242議席を獲得しましたが、単独では過半数の議席に足りず、224議席を獲得して第2党となった「社会民主党」が30議席を獲得した「自由民主党」と連立を組み、「社会民主党」を中心にしたブラント政権が誕生しました。

またブラント政権の後を継いだシュミット政権のもとで行われた1976年の選挙では、当時第1党として連立政権の中心となっていた「社会民主党」が214議席の獲得にとどまり、「キリスト教民主・社会同盟」の243議席を下回り第2党に転落しましたが、39議席を獲得した「自由民主党」と再び連立を組んだことで政権を維持しました。

さらに、4年後の1980年に行われた選挙でも、「キリスト教民主・社会同盟」が「社会民主党」を再びリードしましたが、「社会民主党」が「自由民主党」との連立を維持しシュミット首相の3回目の内閣が発足しました。

各党の議席数まとめ

ドイツの選挙管理委員会は日本時間の27日午後1時ごろ、暫定結果を発表しました。

それによりますと各政党の獲得議席数は、中道左派の社会民主党が前回より53議席増やして206議席となり、2002年の選挙以来、19年ぶりに第1党となりました。(前回153議席)

一方、メルケル首相の所属する中道右派のキリスト教民主・社会同盟は、前回より50議席少ない196議席にとどまり、大幅に議席を減らしました。(前回246議席)

また、環境保護政策を前面に打ち出す「緑の党」は、前回より51議席多く過去最多となる118議席を獲得し、第6党から第3党に躍進したほか、(前回67議席)市場経済を重視する中道右派の「自由民主党」は前回より12議席多い92議席を獲得しました。(前回80議席)

このほか、新興の右派政党「ドイツのための選択肢」は、11議席減らして、83議席となったほか、(前回94議席)「左派党」は30議席減らして、39議席となっています。(前回69議席)

ドイツ連邦議会の法律で定められた議席数は598議席ですが、複雑な選挙制度の結果、定数を超える議席が認められるため、今回の暫定結果に基づく議席数は735議席となっています。

投票率は、76.6%で、前回の選挙よりも0.4ポイント、高くなりました。