厚労省 感染再拡大備え 病床確保計画見直しを都道府県に通知へ

新型コロナウイルスの感染の再拡大に備え、厚生労働省は都道府県に対して病床の確保計画を見直すよう今週にも通知する方針です。一方、病床の大幅な上積みは見込めないことから、臨時の医療施設の整備や看護師の派遣の調整なども求めることにしています。

デルタ株が流行した今回の第5波では首都圏や沖縄を中心に病床が不足し、自宅療養者は一時、全国で合わせて13万人を超えました。

感染の再拡大に備え、厚生労働省は都道府県に対し、新たな病床の確保を図るなど、計画を見直すよう今週にも通知する方針です。

しかし、すでに3月にも見直しを求め、全国で合わせて4800床余りを増やしていることから、大幅な上積みは難しいとみています。

先月には東京都とともに感染症法に基づいて都内の医療機関に病床の確保への協力を要請しましたが、新たに確保できる見通しが立ったのは240床余りで、目標としていたおよそ600床に届きませんでした。

そこで厚生労働省は、入院できない患者のために「入院待機ステーション」などの臨時の医療施設を整備し、自宅療養者についても健康観察を強化して容体の急変に対応できる体制を取るよう求めることにしています。

また、特に今回の第5波では、入院患者の急増に対応できる看護師などの確保が追いつかず、想定していた人数の患者を受け入れられない医療機関が相次ぎました。

このため厚生労働省は、限られた曜日や時間帯しか働けない看護師を集めて一定期間を通して医療機関に派遣できるよう都道府県に調整を求めることにしています。

厚労省「療養者の増加 想定超えていた」

感染の第5波では、入院が必要な状態でも入院先が見つからず、自宅での療養を余儀なくされる人が相次ぎました。

新型コロナウイルスの感染が拡大して1年余り。

病床の確保が続けられていたはずなのに、なぜ医療体制は危機的状況に陥ったのか。

厚生労働省は「療養者の増加が想定を超えていた」としています。

厚生労働省が毎週水曜日の午前0時時点でまとめている全国の療養者数や療養状況の資料によりますと、新型コロナに感染し入院したり自宅や宿泊施設などで療養したりしている人は、8月25日時点で21万1970人とそれまでで最も多くなり第5波のピークでした。

一方で、各都道府県がこの時点で想定していた療養者数は1日当たり最大で合わせて13万7028人。

実際の療養者数が想定のおよそ1.5倍にのぼっていたのです。

東京都では1日当たりの療養者数は最大2万3406人と想定していましたが、8月25日時点の療養者数は4万1368人と想定の1.7倍、神奈川県、埼玉県では想定の2倍以上、千葉県でも2倍近くの療養者数となりました。

また京都府では1936人の想定に対して3.3倍の6404人、沖縄県では想定の療養者数は2845人でしたが2倍を超える6484人となっていました。

療養者数が想定を超えたのは31の都府県にのぼります。

厚生労働省は第3波で病床がひっ迫したことを受けて、ことし3月、病床の確保を都道府県に働きかけ6月までに新たに4800床余りを確保、新型コロナの患者を受け入れられる病床は全国で3万5000床余りになっていましたが、それでも追いつかなかったとしています。

厚生労働省は「都道府県には、第3波で最も新規感染者が多かった日の2倍以上の感染者を見込んで計画を立ててもらったが、デルタ株の感染力の強さは想定を超えるものだった」と説明しています。

ただ、確保していた病床がすべて稼働していたわけではありません。

例えば、8月25日時点で東京都の重症者用の病床の使用率は94%とほぼ満床の状態でしたが、病床全体の使用率は64%でした。

30%余り空いているのになぜ入院できない人が相次いだのか。

厚生労働省によりますと、ベッドは空いていても医療スタッフが足りず受け入れられなかったケースのほか、精神疾患や小児専門の病床も含まれていて幅広い患者の入院を想定していない病院もあったということです。

厚生労働省は今後、病床の大幅な上積みは難しいとみていて、臨時の医療施設の整備なども都道府県に要請することにしています。

コロナ専門病院へ転換も

感染症法に基づく病床確保への協力要請を受けて、27日から新型コロナウイルスの専門病院に転換する病院もあります。

東京 中央区の石川島記念病院は回復期のリハビリを専門に行う病院でした。

これまでは症状が落ち着いた患者を受け入れる「後方支援」を担い、ことし1月から4月までに10人受け入れましたが、第5波では若い世代の感染が多く、治療後すぐに自宅に帰れるケースが増えて後方支援の必要性が低下してきたと感じていたといいます。

転換にあたって大きな課題となったのは医師の確保でした。

この病院の常勤医は3人で、夜間の当直や休日の診療は他の病院から派遣されている医師が非常勤で担当していました。

新型コロナの専門病院に転換する方針を伝えたところ、派遣元の病院から「派遣している医師が感染した場合、本来担っている診療への影響が大きい」などと懸念が示され、半分ほどの医師が引き上げることになりました。

代わりの医師の派遣について東京都に相談しましたが、「都立病院でも医師が不足していて対応は難しい」という返答でした。

個人的なつてを頼って、医師を派遣してくれる別の病院をなんとか見つけたということです。

また、看護師の離職も懸念されました。

ノートを用意し不安を書き出してもらったところ、自身や家族への感染や、急性期の患者の看護をスムーズに行えるのかといった不安があることがわかりました。

看護部長が22人の看護師、一人一人と面談したり家族にもワクチン接種を行ったりして不安の解消に努めた結果、21人が引き続き働いてくれることになりました。

看護部長は「人工呼吸器やネーザルハイフローといった、リハビリの患者には使うことがなかった医療機器にきちんと対応できるのかなど課題は多くあった。すべて解決したわけではないが第5波の状況を目の当たりにして、貢献できるところは貢献しようとみんなで決断した」と話していました。

理学療法士や作業療法士などのリハビリの専門職は、同じ医療法人が経営するグループ病院に移ってもらうことにしましたが、離職した人もいたということです。

この病院のこれまでの入院病床は2つのフロアに47床。

現状の医師や看護師の人数で感染対策を徹底しながら新型コロナの患者に対応するため1つのフロアで18床に集約して、27日から軽症や中等症の患者を受け入れることにしています。

石川島記念病院の重田洋平院長は「単独の病院の場合、これほど融通がきかないと思うので、転換はなかなか難しいだろうし例えば4月や5月にかじを切ろうとしていたらスタッフの賛同は得られなかったと思う。第5波の状況を見て医療者としてできるかぎりのことをしたいと考えてくれるようになった。第6波に向けて軽症や中等症の患者の受け皿をいかに増やすかが医療全体の課題だと思ったし、リハビリ病院のままでは今の時代には適応できないと感じ転換を決断した」と話していました。