さよならニッポン、夢みた人たちの苦悩

大好きな国で学ぶことを、小さいころから夢みていた人がいました。
大好きな人が暮らす国で、自分も一緒に暮らすことを夢みていた人がいました。
2人の夢は、かなう直前でいま、途切れています。
その国はニッポン、夢がつながるかどうか、2人は不安の中にいます。

（国際部記者 近藤由香利 石井利喜 おはよう日本 江口ひな子）

スペイン人のジョアナ・グバウさんはそう話しました。

22歳のグバウさん、父親の影響で子どもの頃から日本のアニメやアイドルが大好きでした。

中学生のころからはAKB48の歌やダンスに憧れました。
柏木由紀さんと小嶋陽菜さんの大ファンになりました。

日本のアイドルをきっかけにファッションにも関心を持つようになり、将来の夢は日本で働くことになりました。

高校、大学と準備を進め、大学卒業後は、日本で日本語を学ぶと決めたのです。

そしてこの春からは日本の語学学校に留学することになり、夢への一歩を踏み出そうとしていた時、留学の代理店の担当者から告げられました。

新型コロナウイルスへの対策をとる中、日本では現在、新規の留学生の受け入れが認められていないというものでした。

“去年8月にスペインの大学を卒業していて、このままでは行くところがない”。

“ただ海外で勉強することだけは止めたくない”。

そうした中、韓国であればすぐに留学できることを知り、留学できる期限のギリギリで行き先を韓国に変更しました。
現在はソウルの大学で韓国語を学んでいます。

コロナ禍で、いったんさよならした憧れの日本。

将来、日本に行くかどうか、グバウさんの気持ちは揺れています。

グバウさんのように、新型コロナの影響で日本への留学がかなわない外国人がどれくらいいるのか。

特に影響が大きい、日本語学校の状況について調べてみると、日本語学校480校が加盟する「日本語教育機関関係6団体」がことし7月に行った調査結果がありました。

ことし入学予定の外国人のうち、入国の見通しがたっていない人は93％にあたる1万5877人。
4％の738人は留学を取りやめました。

さらに去年の入学予定者で、いまも入国できていない人もあわせると、その数は2万2000人以上でした。

日本に来ることができない中、グバウさんのように、留学先を韓国や台湾などへ変更するケースが相次いでいるそうです。

日本語学校の関係者からは危機感を募らせることばが聞かれました。

“新規の留学生が入国できない状態が長期化している”。

こうした状況について留学生政策に詳しい東京工業大学の佐藤由利子准教授は、将来のために留学をあきらめない施策が必要と考えています。

日本と海外との往来はいまどうなっているのでしょうか。
出入国在留管理庁と厚生労働省の担当者に聞いてみました。

外国人の場合は原則、ことし1月からすべての国と地域からの新たな入国は認めていません。
ただ「特段の事情」がある場合、それに「在留資格」のある場合の再入国は可能となっています。

「特段の事情」は親族や家族などの葬儀や出産、手術など人道上配慮すべき事情や公益性がある状況をさし、東京オリンピック・パラリンピックの選手なども「特段の事情」で入国が認められたケースです。

「在留資格」とは滞在するために必要な資格のことで、「留学」はもちろん「技能実習」、「技術・人文知識・国際業務」など38の資格があります。

すでに在留資格のある人は再入国が可能な一方、在留資格を得るために必要なビザの発給が現在原則、停止されているため留学などを希望しても在留資格をとることができず、入国が難しいのです。

このため外国からの新たな入国者は去年12月は1日あたり、平均でおよそ1700人いましたが、ことし2月には52人、3月も65人と激減しています。

ビジネスの出張や留学生などの新規の入国は原則、認めてなく、ヨーロッパやアメリカと比べても、日本の水際対策は厳しいと言えそうです。

一方で、各国ではワクチン接種を前提とした水際対策に移行しようという動きもでています。

イギリスは10月から、日本などからの入国者については、ワクチンの接種を完了していれば事前の検査や入国後の隔離が必要なくなるとしています。

アメリカは出発前3日以内の検査による陰性証明に加えて、入国する外国人に対し、11月上旬からワクチン接種の完了を義務づける方針を発表しています。

そして、日本です。

9月に水際対策を段階的に見直す方針に変えました。

ファイザーやモデルナなど、日本国内で承認されているワクチンを接種していることを条件に、入国者に求めてきた自宅などでの待機期間を14日間から10日間に短縮する方針です。

また、デルタ株などの変異ウイルス対策として、検疫所が管理する宿泊施設で求めている3日間の待機についても、ワクチン接種を条件に免除を検討しています。

ただ実施時期やどういう目的で入国する人が対象になるかなど具体的なことはまだ明らかにされていません。

留学などの在留資格を得るために必要なビザの発給が、いつ本格的に再開されるかも、これから議論される段階で、まだしばらく時間がかかる見通しです。

入国の難しさに直面し、大きな影響が出ているのは留学生だけではありません。

婚約者と1年半近く会えない人がいます。

愛知県に住む21歳の廣瀬彩乃さんです。

おととし8月、勤務先の会社で、技能実習生だったデリ・ナンダ・プラヨガさんと出会いました。

付き合い始めた2人は去年の1月に婚約、お互いの両親にも祝福され、結婚に向けて準備を進めていました。

その年の4月には、技能実習生としてのビザが期限を迎えることもあり、デリさんは一度、インドネシアに帰国。

しかし入国の制限が厳しくなる中、このあと、2人は一度も会えないままになっています。

現在、法的な配偶者は入国が認められているものの、婚約者や結婚していないパートナーの入国は原則認められないため、デリさんが入国できないのです。

廣瀬さんは、外務省や法務省あてに手紙を出したり、SNSでみずからの経験を伝えたりしてきました。

しかしSNSには
「ガイジンを選んだのは自分だろ？責任持ったらいい」
「おまえらの都合で国民の安全をおろそかにできるか」
といったコメントが寄せられました。

ショックでした。

ふだんは、病院で医療事務の仕事をしている廣瀬さん。

コロナ禍でひっ迫する医療現場を間近で見てきたこともあり、感染状況をコントロールする必要性は感じています。

ただ、2人で将来を過ごすことを約束した婚約という重みを、国に理解してほしいと考えています。

廣瀬さんのように海外にいる婚約者などと会えない人たちがオンラインの署名活動を行っています。

いま、およそ4000人の署名が集まっていて、今後、目標数に到達したら、外務省や法務省に提出する予定です。

ウェブサイトには、
「外国籍の彼女との入籍を控えています。家族と長期間隔離されないで済む制度を切望します」
「結婚をしていない＝パートナーではない、と突き放されてしまった気がしました」
といった切実な声がありました。

国ごとに感染状況も医療体制も異なるので、同じ条件での比較はできませんが、シンガポールでは婚約者などの入国を認めていて、ほかの国でもこうした動きが出てきています。

入国の水際対策を見直す動きが出てくる中、困難な中にいる人たちを救うきめ細かな対策を感染対策と並行しながら、打ち出せるかどうか、日本で学び、暮らすことを夢みた多くの人が注目しています。