マスク着用で話し方や態度「変わる」6割超 文化庁が初の調査

新型コロナウイルスによるコミュニケーションへの影響について文化庁が初めて調査したところ、マスクの着用で話し方や態度が変わると答えた人は6割を超え、声の大きさや発音、相手の反応に気をつけるといった変化があることがわかりました。

文化庁は日本語の使い方などの変化を毎年調査していて、ことしは感染対策のため調査方法を面接から郵送に変えて3月に実施し、全国の16歳以上の男女、3794人から回答を得ました。

今回は新型コロナウイルスの影響を初めて調査していて、マスクを着けると話し方や態度が変わるか聞いたところ、「変わることがある」が62%、「変わることはない」が37%でした。

変わると答えた人に具体的な変化を複数回答で尋ねると
▽「声の大きさに気をつける」が74%と最も多く、
▽「はっきりした発音で話す」が58%、
▽「相手との距離に気をつける」が45%、
▽「相手の表情や反応に気をつける」が40%でした。

またビデオ通話やウェブ会議、オンライン授業に参加したことが「ある」と答えた割合は46%、年代別に見ると10代が80%と最も高く、年代が上がるにつれて低くなり70代以上は14%でした。
オンラインで気をつけていることを複数回答で聞いたところ、
▽「自分が話すタイミング」が58%と最も多く、
▽「はっきりした発音」が54%、
▽「映り具合や音量」が48%と続いたほか、
▽「ほかの人の話を最後まで聞く」が40%でした。

文化庁は、コロナ禍で生活が変わる中、コミュニケーションにも変化がうかがえる結果となったとしています。

コロナ禍で生まれたあのことば 定着は…

今回の調査では、新型コロナウイルスの影響で頻繁に使われるようになったことばへの意識も聞いていて「不要不急」や「コロナ禍」は浸透している一方、「ウィズコロナ」は7割が、説明をつけるか別の言い方をしたほうがいいと答えるなど差が出ています。
調査では頻繁に使われるようになったことばについて「そのまま使うのがいい」「説明を付けたほうがいい」「ほかの言い方をしたほうがいい」の3つの選択肢で聞いています。

「そのまま使う」という肯定的な回答の割合を見ると、「不要不急」と「コロナ禍」がともに67%、「3密」と「ステイホーム」が61%、「濃厚接触」が59%と続きました。

一方で「クラスター」は「そのまま使う」が51%と意見が分かれ、「ウィズコロナ」は30%にとどまりました。
また「ソーシャルディスタンス」は全体では57%が「そのまま使う」と答えましたが、10代は81%だった一方、70代以上は34%と年代によって差が開きました。

文化庁ではコロナ禍で使われるようになったことばの定着も見られた一方、カタカナを使ったことばは年代が上がるにつれてそのまま使うことに肯定的な意見が減る傾向にあるとして、注意喚起などで使う際は配慮が必要ではないかと話しています。

口元が見えなくて

コロナ禍によるマスク着用で口元が見えない中、耳が不自由な人たちのコミュニケーションが難しくなっていると考え、悩みに応えるキットを作成した中学生もいます。

盛岡市の中学2年生、菊池海麗さん(13)は聴覚に障害があり、音声を電気信号に変えて伝える「人工内耳」を使って生活しています。

授業ではワイヤレスマイクを通して教員の声を人工内耳で受信し、英語での発表にも積極的に取り組んでいます。
しかし、重い聴覚障害があり補聴器を着けて生活している母親の樹理さん(41)は、かすかな音と相手の表情や唇の動きから発言を読み取っているため、コロナ禍によるマスク着用で口元が見えなくなり意思疎通が難しくなったといいます。

樹理さんは「買い物などでもマスクで顔が半分見えなくなり感情も読み取れず大変です。口が見えていたときはもう少しゆっくり話してもらえませんかとお願いしていましたが、今はそれもできず、かといってマスクを外してもらうわけにもいかないので、会話に消極的になってしまうこともあります」と話していました。
その様子を見た海麗さんは買い物の際に店員に使ってもらえるように、「レジ袋はいりますか」とか「ポイントカードはありますか」などと想定される質問を書いたカードを作り、写真用の小さなアルバムにまとめた「レジ用質問ファイル」を作成しました。

全国の小中学生を対象にしたアイデア賞でもユニバーサルデザインが評価され入賞したということです。

海麗さんは「スーパーで会計する時にお母さんが店員の質問を聞き取れず、レジに人が並んでいる中で時間をかけてしまうと、意思疎通を諦めた姿を見て何とか助けたいと考えました。聴覚障害のある人はマスクで口元が見えない状態だと本当にコミュニケーションが取りづらくなっていると思います。今はタブレット端末もあるので同じようなアプリができたり、筆談の声かけなどが広がったらうれしいです」と話していました。

専門家「人の特性に思いをはせて意思疎通を」

表情とコミュニケーションに詳しい同志社大学心理学部の藤村友美准教授は「調査結果からはコミュニケーションにおいて目に見える部分ではなく声の大きさや発音など言語的な情報を意識していると感じる。マスク着用が続く中で目をしっかり合わせて話すことも大事になるが、日本人は特に音声に表れる感情に敏感という調査もあり、声の調子などから相手の感情表現を理解することもポイントになるでのはないか」と話しています。

そのうえで「生態学的な観点ではマスクをつけて2年ほどで劇的にコミュニケーションが変化することはないが、対面が基本と考えていたことがオンラインでも抵抗感が減るなど多様化はしてきている。一方で難聴の方にとってはマスクで口元が見えずに読み取れないとか、高齢の方がふだん以上にマスクで聞き取りづらいとか、人それぞれの特性によって抱える問題も違う。そこに思いをはせて理解し、相手と接することが大事になる」と話していました。

マスクの下は!

新型コロナウイルスの感染拡大の影響でマスク生活が長引くなか、静岡県富士市の商店街などでは、コミュニケーションを円滑にしようと、マスクの下に隠された笑顔の写真の缶バッジをつけて接客をする取り組みを行っています。

『ふじスマイルバッジプロジェクト』と題したこの取り組みは、富士市のJR富士駅周辺の活性化に取り組む市民団体が先月下旬から始めたもので、駅周辺の商店街を中心に23店舗の30人余りが参加しています。

直径およそ6センチの缶バッジには、地元の写真館が撮影した笑顔の写真があしらわれ「マスクの下はこの笑顔!」ということばが添えられています。
この取り組みを企画した市民団体の会長の大木勝己さんは「マスクの下はどんな表情をしているのか伝わりにくく、人と人がコミュニケーションをとる際に口元の笑顔は大切だと考えて提案しました。笑顔は人の心を和やかにし、温かくしてくれるものだと思います」と話していました。

大木さんが経営する生花店では、妻と母親の3人で缶バッジを胸に着けて接客しています。

親子で墓参りのための花を買い求めに訪れた女性は缶バッジの取り組みについて「マスクの下でこういう笑顔で接客してくださっているんだなと感じ、素直にうれしいと思いました」と話していました。
富士市内では、富士商工会議所や富士市役所の一部の職員もこの取り組みに賛同し、缶バッジを着けて業務にあたっています。

富士商工会議所商業観光課の小林祐斗主事は「日々、この缶バッジをつけて窓口対応をしていますが、『笑顔がすごくいいね』と声をかけてもらい、効果を実感しています。そんなにお金もかからず手軽にできるので、この取り組みが広がってほしいです」と話していました。