第5波の自宅療養者 半数以上が中等症 東京のクリニック分析

新型コロナウイルスの第5波では、医療体制が危機的な状況となり、急増する自宅療養者への対応が課題になりました。東京 新宿のクリニックが、先月往診などを行った自宅療養者270人の状況を分析すると、半数以上が原則入院とされる「中等症」だったことが分かり、第5波で自宅療養者が置かれた厳しい状況が改めて浮き彫りになりました。

東京 新宿区にある新宿ヒロクリニックでは、先月、保健所からの依頼で自宅療養者273人について継続的に往診やオンライン診療にあたり、その状況を分析しました。

年代別では、
▽40代が87人、
▽30代が75人、
▽50代が42人、
▽20代が33人で、
働き盛りの20代から50代で86%に上りました。

重症度別では、
▽血液中の酸素の値が93%以下となり、入院して酸素の投与が必要な「中等症2」が99人と最も多く、
▽軽症が98人、
▽肺炎の所見がみられ入院が必要な「中等症1」が51人で、
原則入院とされる「中等症」が全体の半数以上に上りました。

こうした自宅療養者には、入院の調整を進めながら、応急処置として在宅で酸素の投与を行ったということで、先月だけで酸素濃縮装置94台を貸し出したということです。

今回の分析で、第5波で自宅療養者が置かれた厳しい状況が改めて浮き彫りになりました。

英裕雄院長は「第5波では中等症2の方も少なからず入院できない。適切な医療にかかれない異常な事態だったと思います。保健所、病院に任せきりにするのではなく、安心して療養できるためには、地域が関わらないといけない。病状の変化におびえている方が多いので、安心して自宅療養できる仕組みを作らないといけない」と話していました。

家庭内の感染の広がり 問題に

第5波で自宅療養を支える現場で問題となったのが、家族内での感染の広がりでした。

都内に住む50代の夫婦は、20代の娘から感染しました。

娘は実家から離れてひとり暮らしをしていました。

先月上旬、娘は全身の痛みに耐えられず救急車を要請しました。

病院で新型コロナの感染が確認されましたが、入院はできませんでした。

自宅療養者の容体が急変することがあるとニュースで聞いていた夫婦は、娘をひとりにできないと実家に呼び寄せ、看病することにしました。

当時の状況について夫婦は「自分たちのことは二の次で娘のことしか考えていなかった。容体が急変することがあるという情報を耳にすると、怖さが先に立ってしまう」と話していました。

家の中では娘は別の部屋で隔離して生活しました。

触ったドアノブはすべて消毒するなど、感染対策を徹底し、家族の会話はSNSで行いました。

しかし、夫婦は4日後に受けた検査で感染していることが分かりました。

夫婦は新型コロナのワクチン接種の有無で、重症度に違いが出ました。

ワクチン接種を2回終えていた夫は軽症でしたが、接種していなかった妻は次第に体調が悪化し、血液中の酸素の値が92%に低下し、入院して酸素投与が必要な「中等症2」の状態に陥りました。

往診を受けて回復しましたが、家庭内で感染を避ける難しさを感じたといいます。

妻は「インフルエンザみたいなものだろうと思ったが、全然違った。段違いで、とにかく苦しかった」と当時のつらさを話します。

そして、夫は「妻は死にたくないと言うことがあったし、僕は大丈夫だよと声をかけるしかことばが見つからなかった。家族1人が感染すると、全員が感染してしまうんだと怖さを感じた」と話していました。

次の感染拡大に備え 地域全体で支える仕組みへ

第5波が減少傾向にある今、次の感染拡大に備えて、東京 新宿区では、地域全体で自宅療養者を支える仕組みを整えようと、話し合いを始めています。

新宿区では今月上旬、保健所や地元の医師会、それに薬剤師会などの幹部がオンラインで会議を行いました。

第5波では希望しても入院できない自宅療養者が相次いだことを踏まえて、地域全体でどう支えるか意見が交わされました。

保健所からの依頼で自宅療養者の往診を行った医師からは「多いときは酸素濃縮装置を使うケースが1日に8人相次いだ時期があり、スタッフの人数や機材の面からも非常に厳しかった。医療資源を集約した救護所の設置が必要なのではないか」という意見が寄せられました。

これに対して新宿区は「地元の医師の協力を得て、救護所のような臨時施設の設置を検討している」と応えていました。

往診にあたった英裕雄医師は「第5波を経験して、地域全体で支えなければいけない。入院の待機待ちは非常に異常な事態であって、そうしたことが二度と起こらないようにすることが、地域のこれからの役割と思っている」と話しています。

新宿区医師会で在宅医療に携わる医師で作る委員会の迫村泰成医師は「自宅療養者で医療にかかれない人や入院待機待ちの人が出ないようにするために、行政や医師会などオール新宿で支える仕組みをつくっていきたい」と話していました。