99%は因果関係不明?

99%は因果関係不明?
99.3%。
新型コロナウイルスワクチンの接種後に死亡が確認された1093人のうち、「情報不足などで因果関係が評価できない」と厚生労働省の専門家部会が判断した人の割合です(8月22日時点)。

こうした中、なぜ息子はワクチン接種の直後に亡くなったのか知りたいと訴える遺族がいます。

なぜ因果関係を評価するための情報が足りないのか?国の調査はどのように行われているのでしょうか。
(広島放送局記者 諸田絢香、社会部記者 杉田沙智代)

接種3日後 突然の死

広島県の岡本裕之さん(30)です。

ワクチンの2回目の接種を受けた3日後、自宅で亡くなっているのが見つかりました。

自動車関係の会社に勤め、顧客と接することにやりがいを感じていたという裕之さん。サッカーが大好きで健康そのものだったといいます。

父親の裕二さんは最愛の息子の死をまだ受け入れられないといいます。
父親 裕二さん
「めちゃくちゃ明るいわけじゃないけど、はにかみ屋の。優しい、元気で活発な、そういう息子でした。基礎疾患もないし、継続中の病気とかも一切なかったもので」

“周囲のために”受けた接種

裕之さんが最初の接種を受けたのは7月18日。

顧客と接することも多い裕之さんは「感染して周りの人に迷惑をかけることがないように」と接種を決めたといいます。1回目の接種後は微熱が出ましたが特に異常はありませんでした。
2回目の接種は8月22日。その夜、40度ほどの熱が出たといいます。翌日も熱が続いたため、解熱鎮痛剤を服用し、仕事も休みました。

接種から2日後の24日には熱が下がったため出社。帰宅後もいつも通りに夕飯を食べ、夜9時半ごろ自室に。ふだんと変わらない様子だったといいます。

それが、家族が見た裕之さんの最後の姿でした。
父親 裕二さん
「朝、起きてこないので、会社に間に合わなくなると妻が息子の部屋に行ったところ、死亡していました。すごい体が硬くて冷たくなっていて」

息子の死と接種の関連は?

30歳という若さでの突然の死。

その翌日、厚生労働省は、一部のモデルナのワクチンの使用を見合わせると発表しました。そこには、裕之さんに接種されたワクチンのロット番号も含まれていました。

直接、異常は確認されていないものの、同時期に同じ工程で製造されたワクチンから金属片が見つかったため、回収されることになったのです。
息子はなぜ亡くなったのか、ワクチンとの関連性はあるのか。裕二さんは行政による解剖の結果を待ちました。

しかし、死の6日後に示された解剖結果の死因の欄に記されていたのは「不詳」のひとことだけでした。
父親 裕二さん
「この紙1枚で、いや待ってって。これじゃ何かわからない。これ1枚って絶対おかしいって。納得できなくて」
祐二さんが次に期待したのは、死亡とワクチン接種との因果関係を調べる厚生労働省の「副反応検討部会・医薬品等安全対策部会安全対策調査会」という専門家部会。

9月10日の部会で、裕之さんの死亡についても検討されました。
しかし、結果は「γ(評価できない)」。

仮にワクチンに金属片が混入していたとしても、死亡との関連は評価できないという内容でした。

この日の部会で「γ」とされた人は、裕之さんだけではありませんでした。
α(アルファ)=因果関係が否定できない…0件
β(ベータ) =因果関係が認められない…8件
γ(ガンマ)=情報不足などで因果関係が評価できない…1085件
(8月22日時点)
99.3%は、因果関係が評価できないという結果でした。

なぜ情報不足に?

情報不足とはどういうことなのか?国の調査はどのように行われているのか?
厚生労働省が、副反応について調べるために設けているのが「副反応疑い報告制度」です。

接種を行った医師や医療機関に対して、副反応が疑われる症状を報告するよう法律に基づいて求めています。

製薬会社にも同様に、医療機関などから情報を収集したうえで報告するよう義務づけています。

報告の対象となっているのは、アナフィラキシー(=重いアレルギー症状)と血栓症(血液の固まりで血管が詰まる症状)。

それに、医師が「接種との関連性が高い」と判断し、かつ入院や死亡、障害などにつながった症状です。
報告する内容は、接種したワクチンの種類のほか、アレルギー、基礎疾患の有無などです。

報告書には「症状の概要」という欄も設けられ、診断や検査の結果、症状の経過などを記入します。

報告先は、独立行政法人「PMDA」=医薬品医療機器総合機構。

届いた報告書に記載漏れがないか確認したうえで、PMDAの医師や薬剤師などの専門家が、接種との因果関係を評価します。

判断材料となるのは報告書のみで、医療機関に出向いて直接カルテを確認したり、本人や家族に聞き取りをしたりすることはありません。
PMDAが出した評価結果は、医師や薬剤師、感染症の専門家など15人の委員でつくる厚生労働省の専門家部会にすべて報告され、その評価が妥当かどうか検証されます。

こうして出された「γ(評価できない)」という結果に、父親の裕二さんは。
父親 裕二さん
「今回の専門家部会では(接種と死亡の)関連は評価できないという発表だけで、ワクチンの安全性は審議されていないと思う」

制度の限界?

なぜこれほど「γ」が多いのか。

厚生労働省の担当者はこう説明しています。
厚生労働省の担当者
「この専門家部会では、個別の事例の因果関係も検証しますが、最大の目的は、副反応の全体の傾向をモニタリングして『接種を継続するかどうか』方向性を考えることです。一つ一つの因果関係が分からなくても、人数が集まってくると関連性が出てきたり、相関関係が見えたりしてくることもあります」
これでは裕之さんの家族も納得しないのではないか。
これ以上の対応はしないのか、担当者に聞きました。
厚生労働省の担当者
「γでも『何か見つかるかもしれない』、『問題がある副反応が出てくるかもしれない』という姿勢で調査は続けていきます。その結果、一度はγとなった事例でも、同じような事例がその後に報告され、のちに因果関係が認められることもあります」
1000人を超える人について審査し、99%を評価できないとした専門家部会。

その情報公開の在り方についても、委員から疑問が投げかけられました。
委員A
「どうしてもγが多くなる。死亡事例を丁寧に見ていっても、因果関係の評価が難しいということもあるが、誤解を招かないような情報提供を心がける必要がある」
委員B
「専門家による評価の判定は合議制なのか、ブラックボックスになっている。専門家がどう決めているのか、どういうプロセスで、なぜγが多いのか、国民が分かるように説明すべきだ」
こうした意見に、厚生労働省の担当者は「より分かりやすい情報の示し方を考えていきたい」と述べ、9月10日の部会は終了しました。

因果関係を調べる仕組みはもう1つ

国の制度には、もう1つ、死亡などとワクチン接種との因果関係を調べる仕組みがあります。

それが「予防接種健康被害救済制度」です。
接種後に副反応が疑われる症状が出た場合、本人や家族などが市町村に申請し、一定の因果関係が認められれば、医療費の自己負担分や月額最大で3万7000円の医療手当などが支払われます。

死亡した場合は、4420万円の死亡一時金などが支給されます。

認定を行うのは「疾病・障害認定審査会」と呼ばれる厚生労働省の専門家の審査会です。

ここでは、医師や弁護士、感染症の専門家などがカルテの確認なども行い、因果関係をより詳しく調査します。

新型コロナウイルスのワクチンについては、8月19日から審査が始まっています。

これまでに行われた審査は2回。

合わせて66人が「接種によってアナフィラキシーや急性のアレルギー反応などを起こした可能性が否定できない」として認定を受け、医療費や医療手当を支給されることになりました。

しかし、接種後に死亡した人の審査はまだ始まっていません。

厚生労働省は申請件数を明らかにしていませんが、「ほかのワクチンの死亡事例と同様に、必要な資料を集め、審査の手続きを進めるのに時間がかかっている」と説明しています。

安心して接種できる体制を

「きちんと訴えないと誰にも関心を持ってもらえないから」

そう、実名で顔を出しての取材に応じてくれた理由を明かしてくれた岡本裕二さん。

裕之さんの死をさらに検証し、原因を究明してもらいたいと、救済制度に申請しました。

そこには、若い世代への接種が進む中で、誰もが安心して接種を受けられるようになるための一歩にしてほしいという願いが込められています。
岡本裕二さん
「ワクチンしかコロナに勝てる今の特効薬はない。きちんと安全性を確立できるような体制をつくって20代、10代に接種してほしい」
国は「これまでに接種と因果関係があると結論づけられた死亡事例はなく、重大な懸念は認められない」として、接種を継続する方針を示しています。

しかし、最も重要な「安全性」について、今の制度で国民が十分に納得できる説明を尽くせているのか。

そして、接種後に因果関係が分からない症状で苦しむ人や、亡くなった人の遺族の心情に本当に寄り添えているのか。

これからも取材を続けていきます。
広島放送局記者
諸田 絢香
2020年入局
新型コロナや性被害問題をテーマに取材
社会部記者
杉田 沙智代
2010年入局
和歌山局・大阪局では主に事件や災害担当
2016年から社会部で国土交通省、環境省を経て現在は厚生労働省の担当