社会

子どもへのワクチン 5歳以上に?メリット リスク どう考える?

新型コロナウイルスのワクチン接種が小学生の年代にも広がろうとしています。
アメリカの製薬大手ファイザーなどは、9月ワクチン接種の対象となる年齢を、現在の12歳以上から、5歳以上に拡大するよう申請することを発表しました。

日本でも今後、子どもの接種について議論が始まるものと見られます。

今の状況をまとめるとともに、どう考えればよいのか、小児医療とワクチンに詳しい専門家に取材しました。

ワクチン 5歳から11歳にも拡大するよう申請へ

アメリカの製薬大手ファイザーとドイツの製薬企業ビオンテックは9月20日、新型コロナウイルスのワクチンについて、アメリカなどで行われた臨床試験の結果を発表しました。

臨床試験では、5歳から11歳までの2268人を対象に、通常の3分の1の量の成分が含まれたワクチンを2回接種。

1か月後にウイルスの働きを抑える中和抗体の値を調べたところ、強い免疫反応が確認されたとしています。

中和抗体の値は、16歳から25歳が通常の量の成分が含まれたワクチンの投与を受けた場合と変わらず、副反応もおおむね同様だったということで、接種の対象をこの年齢に拡大するよう、近く、FDA=食品医薬品局に申請するとしています。

接種年齢 これまでの経緯 日本でも今後議論か

ファイザーのワクチンは、当初は16歳以上が対象でしたが、ことし5月には12歳以上に拡大されています。

このときファイザーは、3月31日に臨床試験の結果、12歳から15歳への安全性と有効性を確認したと発表。
4月9日には、接種年齢の拡大をFDAに申請しました。

そして5月10日にはFDAが緊急使用の許可の対象を拡大し、5月13日にはアメリカでこの年代での接種が始まりました。

ファイザーは、日本でも厚生労働省に海外での臨床試験のデータを提出。

厚生労働省は5月28日、接種が可能な年齢に12歳から15歳も加えることを決めました。

そして、5月31日には公的接種の対象となり、接種が始まりました。

このときは、アメリカで接種の対象が拡大されたおよそ3週間のちに、日本でもこの年代での接種が始まっています。

今回、5歳から11歳で安全性と有効性が確認されたという発表、そして申請を受けて、日本でもこの年代を接種の対象にするのか、議論が始まると見られます。

接種年齢の拡大 専門家「意義がある」

小学生の年代にも接種対象を拡大しようとする動き、どう受け止めたらいいのでしょうか。

小児科の医師で、ワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は、接種の年齢が下がること自体は意義があると言います。

(北里大学 中山哲夫特任教授)
「これまで子どもたちは接種できるワクチンが存在しなかった。現実には学校での感染、学童保育での感染、それに習い事での感染が起きている。対処する一つの手段ができることには意義がある」。

子どもが重症化するケースは少ない

一方で、子どもでは新型コロナに感染してもほとんどが軽症で、重症化するケースは少ないことも知られています。

厚生労働省のデータによると、2021年9月15日時点で、日本国内で感染した人は累計でおよそ162万5000人いて、亡くなった人は1万4229人で、死亡率はおおむね0.9%となっています。

このうち、10歳未満で感染したのはおよそ8万4000人、10代でおよそ16万3000人です。

この中で、亡くなった人は10代の1人となっています。
また、別の厚生労働省の資料によりますと、去年6月から8月に診断された人のうち、重症化する割合は10歳未満では0.09%、10代では0%でした。

基礎疾患のある子どもで重症化するケースはありますが、重症化した子どもは少ないのが現状です。

感染は「子ども→大人」より「大人→子ども」

厚生労働省の専門家会合の分析でも、家庭内での感染は多くが大人から子どもに感染していて、子どもから大人への感染は比較的少ないとしています。

学校などで子どもが感染し、家庭で家族に広がるインフルエンザのようにはなっていないとしています。
脇田隆字座長は8月25日の専門家会合の後、子どもの感染について聞かれ「全体的に感染が拡大しているために、まず大人の感染が増え、それに伴って家庭内感染が増えており、子どもの感染増加とつながっていると考えている。今のところ、子どもたちの間で感染がどんどん増幅するインフルエンザのような状況にはならないだろうと予測している」と話しています。

子どもがワクチンを打つメリットは

こうした状況を踏まえたうえで、ワクチンには一定程度、副反応があることを考えると、ワクチンのメリットは大人が打つ場合よりは小さいとも考えられます。
メリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか?

▽発症を防ぐ、重症化を防ぐ
いま接種が行われているワクチンは、デルタ株に対しても、発症や重症化を防ぐ効果が高いことが分かっています。

▽学校や習い事でのクラスター減らす
感染拡大の第5波では、学校や塾などの習い事を通じて子どもを中心としたクラスターが起きましたが、こうしたクラスターの発生を減らせると考えられます。

▽家庭内の感染リスクを下げる?
子どもがワクチンを打つことで、家庭内でワクチンを接種していない人や、接種ができない人に感染が広がるリスクを下げることができると考えられています。

副反応で発熱も 有効性と安全性のバランスを考えるべき

ワクチンの副反応については、どう考えればよいでしょうか?

5歳から11歳について、ファイザーが9月20日に出したプレスリリースでは、通常の量の成分のワクチンを受けた16歳から25歳と変わらなかったとしか書かれていません。

(中山特任教授)
「子どもにとって危険なワクチンということはないが、一定の副反応が出るということだろう。ワクチンの副反応で発熱することもあり、中には、発熱によってけいれんを起こしやすい子どもたちもいる。保護者がしっかりと理解し、納得して接種を受ける必要があり、接種をするときはふだんの体調をよく知っているかかりつけ医で行うことが大切だ」

また、日本ワクチン学会の理事長で、福岡看護大学の岡田賢司教授は、基礎疾患のある子どもたちや接種を希望する受験生には必要だろうとしたうえで、12歳未満の子どもにワクチン接種を進めることは最優先の課題というわけではないと指摘しています。

(福岡看護大学 岡田賢司教授)
「子どもたちに大きな副反応が出てしまったときには禍根を残してしまう。特に健康な子どもたちへの接種は、病気にかかったときの重症度と、ワクチンの有効性と、安全性という3つのバランスを考えるべきだ」

アメリカとの事情の違い

アメリカでは、アメリカ小児科学会のデータで、今月9日までの1週間に新型コロナウイルスに感染した子どもの数は、少なくとも24万3000人余りと、過去最も多い水準が続いています。

また、CDC=疾病対策センターからは、デルタ株の拡大にともない、入院する子どもの数が増えているというデータも報告されています。

中山特任教授は、日本とは傾向が異なることも、今後、接種の議論を進めるうえで考えるべきだと話しています。

「アメリカでは社会全体で接種率が伸び悩んでいる中で学校でのクラスターが増えているので、小学生でも接種できるようにすることが求められているのだろう。日本では、これから20代、30代の若い世代、子どもの父親母親の世代のワクチン接種率が上がっていく可能性があるので、もう少し様子を見てもいいのかもしれない」

メリットとリスク見極めて 子どもと保護者が希望するかどうか

コロナの収束が見通せない中での大きな武器となるワクチン。

接種の対象年齢の拡大は、子どもの感染対策として関心が高くなっています。

有効性などのメリットと、副反応などのリスクを慎重に見極め、そのバランスを考えることが大事で、子ども自身や保護者が希望するかどうかも含めて判断することが求められることになります。

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