サークル文化は終わった?どうなる大学生の友人関係

サークル文化は終わった?どうなる大学生の友人関係
「大学時代に入っていたサークルが活動休止らしい」

そんな知らせを耳にしました。

友情も恋愛も、優秀な学生のノートのコピーも…いろいろなことを教えてくれた大学のサークル。

コロナ禍の今、大きな危機を迎えています。

授業はオンラインばかりで、大学の友達がほとんどいないという声も聞かれます。

コロナが広がって一年半以上。

変わる大学生のコミュニケーション、社会人にとってもひと事ではないかもしれません。

(大阪拠点放送局 成田大輔 ネットワーク報道部 記者 藤島新也 吉永なつみ SNSリサーチ 中藤智晴)

サークル、活動休止するってよ

「大学時代に所属していたテニスサークルが活動を休止している」。

大学時代の先輩のフェイスブックに、そんな投稿がありました。

私(成田)が大学生だったのは今から18年も前ですが、当時は100人近くのメンバーがいました。

テニスだけでなく授業と授業の空き時間はサークルのスペースに行くといつも誰かがいて、交流の場になっていて、当時の友人たちとは今でも連絡を取り合っています。
しかし、SNSの普及で誰でも気軽につながれるようになったせいか、サークルに入る学生はここ最近、減っていたといいます。

そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍でした。

事情を知る人に聞いてみると、大学の授業がオンラインになったため、新入生を勧誘する機会を失い、メンバーが思うように集まらなかったといいます。

合宿や大会などの開催もままならなくなり、サークル活動を休止。

これまでの活動を知っている人たちも引退し、サークルは事実上、解散状態だということです。

ちょっと切ない気持ちになりました。

「サークル文化は戻らないと思う」

「残念だが大学のサークル文化はかつてのようには戻らないと思う」

先月、こんなツイートをしたのは明治大学の木寺元 教授です。

サークルなどを管轄する学生部で、副部長を務めています。

およそ3万人の学生が通う明治大学には、スポーツ系や人文系のサークルがおよそ300団体あり例年は新入生の8割ほどが加入。

ところが去年は、新型コロナの影響で新入生の加入率は1割以下に激減したといいます。

ことしの春は、緊急事態宣言が解除されたタイミングだったので、対面で勧誘活動ができたため、サークルの加入率は例年並みに戻ったそうですが、その後の感染再拡大を受け、活動を休止したり、オンラインにしたりする団体が相次いでいます。

せっかくサークルに入っても思うような活動ができず、1年生が辞めてしまっているといいます。

また、上級生にとっても試練が続きます。

コロナ禍で入学した2年生は、対面でのサークル運営のノウハウがありません。

先輩を頼ろうとしても、対面でのサークル活動を知っている3、4年生は就職活動や卒論などで忙しく、あてにしにくい状況です。

木寺教授はこれまでのようにサークルの文化を継承していくのは難しいと感じています。
明治大学政治経済学部 木寺元 教授
「大学4年間という人生にとって非常に貴重な時期に、かなり強い制限がかけられたまま、学生たちはこれまで1年半過ごしています。大学として提供できる教科やカリキュラムに限界がある。サークルでの人間関係がきっかけでいろんな世界に進む人もたくさんいる中で、課外の学生生活が奪われていることは学生にとってかなりの損失です」

不安を抱える大学2年生

消えゆくサークル文化。

大学生活もこれまでと大きく変わり、「友達が作れない」「居場所がない」といった悩みが広がっています。

ことし7月、全国大学生活協同組合連合会が、大学生を対象にしたアンケートの中で、「学生生活は充実しているか」聞いたところ、合わせて44.7%が「充実していない」という回答。

これはコロナ前、2019年秋の調査のおよそ4倍です。

中でも、いちばん不安を抱えていたのが、大学2年生でした。
「不安に思っていること」について尋ねたところ、大学2年生は、
▽「友人とつながれていない孤独感・不安」が39.2%。
▽「友人関係の変化への不安」が29.9%
などと8項目のうち6つで全学年の中で最も高い値となりました。

去年、初めて緊急事態宣言が出たころに大学生活がスタートし、最初から従来のような対面式の講義が受けられなくなったり、サークル活動が全面禁止になったりして、友人を作る機会も奪われてしまったことの影響も大きいようです。
実際に大学2年生に話を聞いてみると…
大学2年 女子学生
「本来の大学生活がどのようなものかいまだに分からずつらいです。1年生の時にサークル募集が全面的に禁止だったので、2年生の4月にサークルに入らないと一生友達ができないと思って滑り込みました。でも、もう入るのが面倒といって入っていない2年生の方が多いように感じます」
大学2年 女子学生
「大学2年の半分が過ぎた今も友達が数人しかおらず、大学生活の楽しさはあまり感じられていません。友達どうしで就活やゼミなどの情報を共有するところを、1人で考え、悩みも相談し合えないので不安が大きいです」
大学2年 女子学生
「今の1年生は私たちが1年だった時に比べ対面の授業が増え、友達づくりが円滑に行えているように思います。大学が始まっていちばん不安定な1年生の前期に1人ぼっちだったことが、今の2年生にとって大きな障壁になっていると思います」

対応は大学ごとの判断に

この先、大学生活はどうなっていくのでしょうか。

夏休みが終わり、大学は再開されていますが、対応は学校ごとの判断に委ねられています。

慶応義塾大学は、十分な感染対策を講じたうえで対面授業とオンライン授業を併用するとしています。

明治大学は対面の授業を中心に通学を前提とした運営にしたいとしながらも、10月10日まではオンライン授業を中心にするとしています。

横浜国立大学は10月末までオンライン授業を原則とし、課外活動は原則として活動自粛を強く要請するとしています。

対面の大会などに出る場合は、大学に計画書を提出して許可された場合に限るとしています。

少人数の講義やゼミでは対面式にする動きも出ていますが、感染状況を見極めるために、オンライン授業を中心にしているところが多く、影響はしばらく続きそうです。

コロナ禍の友達づくり どうすれば

まだ今後も続くコロナの影響。

今の大学生たちは、どうやって友達や新たな居場所を作っているのでしょうか。

少しでもヒントになればと、当事者の大学生たちに聞いてみました。
1 バーチャル背景を使ってLINEやInstagramでつながる

多かったのは授業などで出会った人とLINEやInstagramでつながってやり取りするという方法です。

所属する学科のメンバーでグループを作っているケースや、中には、オンライン授業の際にバーチャル背景画像にLINEなどのQRコードを表示して、連絡先を交換している人もいるということです。

2 Twitterで検索してつながる

入学前から「#春から○○大」というハッシュタグを使って、同じ大学に入る人を探す人も多かったようです。

顔とアカウントが一致し、自分と趣味の合う人がいればダイレクトメッセージを送って連絡を取るということです。

中には「ふだんはしないのですが、友達がいないことに焦っていたので積極的に動きました」という声もありました。

3 オンライン交流会に参加

オンラインでのイベントに出席して交流を深るケースもありました。

オンラインでできるゲーム会で友達を作ったケースや、学部の上級生が下級生のために交流会を複数回開催したケースもありました。
対面での交流に制約があるなかで、SNSを通じて友達を作っているたくましい学生が多いようです。

一方、こんな声も…
大学2年 男子学生
「LINEもインスタも相手の顔が分からない中、文字だけのやり取りがメインなので、いざ対面で会って話すと考え方や性格が合わないケースがありました」
大学2年 女子学生
「オンラインではテンプレみたいな会話しかできず、趣味や雰囲気、波長が合うか全く分からなかった。高校の時の友達のほうが深い関係だと思う」
できれば対面で交流したいというのが本音のようです。

決してひと事ではない

明治大学の木寺教授はコロナ禍により、学生たちは大学の外に居場所を求めるようになっているが、注意が必要だと指摘しています。
木寺元 教授
「今は飲食店も閉まっているので、学生たちはバイトもできません。そんな状況につけ込んで、『手軽にもうけられる方法を教える』と悪徳商法の誘いを受けたという相談も寄せられています」
「インターンシップに参加するなど前向きな動きも出ていますが、サークルもバイトもできない、人とのつながりに飢えて、孤独感を抱えている学生たちを大学としてどのようにサポートできるか、今本当に悩んでいるところなんです」
今の大学生たちが置かれている環境は、決してひと事ではありません。

こうした学生たちが卒業し、社会人として入社してきます。

私たち自身の経験を振り返っても、今の仕事につながるさまざまな経験や出会いがあった大学時代。
あのころの「日常」が当たり前ではなくなった今の大学生たちの声に、もっと思いを寄せる必要があるのではないかと感じます。