アメリカ 経済活動の再開進むも新型コロナ感染者は高い水準

アメリカでは、経済活動の本格的な再開が進む一方で、新型コロナウイルスの1日当たりの感染者は、およそ14万人と高い水準が続いていて、ワクチンの接種率が低い地域では重症化する人や、死者の数も増えています。専門家は、感染の拡大を抑制しながら社会を正常化するためには、ワクチン接種だけでなく、マスクの着用など、基本的な感染対策を続けることが重要だと指摘しています。

アメリカでは、ことし1月、1日当たりの感染者が30万人を超える深刻な事態となりましたが、ワクチン接種が進むにつれ、6月下旬には1週間の平均で1日1万人程度にまで減少しました。

しかし、変異ウイルスの「デルタ株」が拡大しはじめると、再び感染者が急激に増加し、今月13日の時点で、1日当たりの感染者数は、1週間の平均でおよそ14万人、死者の数もおよそ1200人と、高い水準が続いています。

ワクチンの接種率が低い州では感染者数の増加にともない重症化する人も増加し、南部テキサス州などでは、ICU=集中治療室の使用率が90%を超える病院が増え、医療体制がひっ迫するところも出てきています。

こうした州の中には、マスクの着用義務を廃止するなど基本的な感染対策にも消極的な州が多く、感染拡大の抑制を困難にしています。

また、ワクチンの接種率が高い東部ニューヨーク州やマサチューセッツ州では、感染の拡大は比較的抑えられているものの、学校の新学期が始まる季節を迎えワクチンの接種年齢に達していない子どもの感染が懸念されるほか、秋から冬にかけて再び感染が拡大することへの警戒感も高まっています。

多くの州で規制解除も

アメリカでは、多くの州で店舗の営業規制が解除されるなど経済活動の本格的な再開が進んでいますが、専門家は、マスクの着用や、屋内の施設の人数制限といったワクチン以外の感染対策が行われなくなっていることを懸念しています。

CDC=疾病対策センターは、一時、ワクチンを接種した人は原則、マスクを着用する必要はないと発表しましたが、感染の再拡大を受けて、再び、屋内でのマスクの着用を強く推奨しています。

ニューヨーク市立大学公衆衛生・保健政策大学院のデニス・ナッシュ教授は「経済活動の再開が進んでいるがアメリカの感染状況はまだ警戒が必要で、今後、次の波が来る可能性もある。ワクチンは重要な感染対策だが、マスクの着用をはじめとした基本的な感染対策を当面続ける必要がある」と話しています。

ニューヨークでは接種証明書提示義務づけ

一時はアメリカで最も感染拡大が深刻だったニューヨーク市では、1年以上にわたりマスク着用の義務化や、屋内での飲食制限などが実施されてきましたが、感染者の数が減少したことし5月には飲食店や映画館などの屋内での人数制限がなくなり、一部を除き、マスクの着用義務も緩和されたほか、観光の柱、ブロードウェイの劇場も14日から全面的に再開するなど新型コロナウイルスの流行前の姿を取り戻しつつあります。

今月14日現在、1日の感染者の数は、1週間の平均でおよそ1500人、入院する人は60人程度と比較的低い水準となっています。

こうした中、社会や経済の活動を維持しながら感染を抑制する取り組みの一つとしてニューヨーク市では、屋内の飲食店やスポーツジム、それに映画館や劇場、美術館といった施設に対し、12歳以上の利用客にワクチン接種の証明書の提示を求めることが義務づけられました。

違反した場合、1000ドルから5000ドル、日本円でおよそ11万円から55万円の罰金が科せられます。

しかし、学校の再開にともない、ワクチンの接種年齢に達していない子どもたちが感染する懸念が高まっているほか冬になって屋内で過ごす時間が増えることで再び感染が拡大する可能性も指摘されています。

このため、ニューヨーク市の保健当局は引き続きまだワクチンを接種していない人に対し接種を急ぐよう求めるとともにマスクの着用や頻繁に換気を行うなど基本的な感染対策を徹底することも重要だとして、警戒を緩めないように呼びかけています。

ワクチンの接種率が低い地域では感染者急増

新型コロナウイルスの感染者の急増が顕著なのは、主にワクチンの接種率が低い南部や中西部、西部の州です。

こうした州の多くはマスクの着用などの感染対策にも消極的で、感染者数の増加にともない重症化する人も増加しました。

ワクチンの接種を終えた人の割合がアメリカで最も低い水準にある南部ルイジアナ州では多くの病院でICU=集中治療室の使用率が90%を超え、一部の患者を隣接するテキサス州に移送するケースも相次ぎました。

医療機関の人手不足も深刻になり、アメリカ政府は支援チームを派遣して、患者の治療にあたりました。

また、南部フロリダ州は、共和党のデサンティス知事が学校が教師や生徒のマスク着用を義務化することや、飲食店などがワクチン接種の証明を求めることを禁止するなど、感染対策に消極的な姿勢を示しています。

フロリダ州の18歳以上のワクチン接種率は65.4%と、全米の平均と同程度に達しているものの、1日当たりの感染者の数は1週間の平均で1万2600人余りと全米で最も高い水準となっています。

専門家「マスクなどワクチン以外の感染対策も必要」

ニューヨーク市立大学公衆衛生・保健政策大学院のデニス・ナッシュ教授は、アメリカでの感染拡大の状況について、「感染力の強いデルタ株の拡大が大きな原因だが、CDCがワクチン接種者にはマスクの着用が不要だとするメッセージを出したことによってワクチン以外の感染対策が重視されなくなったことも影響したと考えられる」と述べています。

そして、ワクチンは重要な感染対策だとしたうえで、「再開した職場や飲食店ではワクチンの義務化を始めたところもあるが、マスクの着用や、自覚症状のある人は出勤しないなど、ほかの感染対策も同時に行うことが重要だ。一時的に感染拡大が落ち着いても、次の波が来る可能性があり感染者が増えれば重症者も死者も増えてしまう。当面は、マスクの着用をはじめとした対策を続ける必要があるだろう」と話しています。