売り場大変革 店で買わない時代の消費とは

売り場大変革 店で買わない時代の消費とは
あなたは、欲しい物をどこで買いますか?
店頭で品定めして買う派?
それともスマホでワンクリック派?
今、店とネット通販の「いいところ取り」した新しい消費の形が、日本でも広がってきています。店頭とインターネットが融合することで、どんな魅力が生まれるのか?
新たな買い物の現場を取材しました。(経済部記者 茂木里美)

“買う”ではなく“体験する”店

最先端の消費の現場を見ようと訪れたのは、東京 千代田区のビルの1階に入る店です。
取り扱っているのは、最新の家電製品や寝具など70種類以上。いずれも量販店ではなかなか見かけない、ユニークな商品が並んでいます。
例えば、額縁の前に手をかざすと、世界のアート作品が次々と表示される「デジタルキャンバス」。
音量を20デジベルだけ下げてくれる「賢い耳栓」。
さらに、生き物の成長や感情の変化をモデル化したAI搭載の「ペットロボット」もあります。
一見すると共通性がない商品群…。実は、この店は商品を開発したベンチャー企業などが、店内の一部を間借りして製品を展示しているんです。
運営するのは、アメリカ・シリコンバレーで生まれた、こちらもベンチャー企業の「b8ta(ベータ)」。店側は、幅60センチ×奥行き40センチのスペースを企業に半年契約で貸し出すことで売り上げを得ています。
最大の特徴は、店では商品を「売らない」点です。客は、商品を手に取ったり、実際に使ってみたりして欲しいと思ったら、商品の横にあるタブレットから購入専用のページに飛んで、インターネットから予約や購入をする仕組みです。客の50代男性に店の感想を尋ねると「売らない店ということですが、さまざまな商品が体験できるのでいいと思います。飽きることなく、楽しいです」と話していました。

客の反応が、企業にとっての価値を生む

店にスタッフはいますが、商品の説明をするだけで、商品を強く勧めてくるということはありません。むしろ「持ち手が重いというお客様もいました」など、商品の使いにくさを説明することもあります。この店では、商品の売り上げ以上に、どれだけ商品に足を止めてもらえたか、客の行動そのものを重視しています。

店の天井に25台あるカメラで来店客の年代や性別を識別し、商品の前を通った人や立ち止まった人を匿名で分析するほか、接客した店員の声もデータとして出店企業に提供しています。出店企業としては、従来のネット通販だけでは見えなかった客の生の反応が得られ、次の商品開発や販売戦略につなげることができる仕組みです。

こうした仕組みは「オンラインとオフライン(実店舗)の融合」という意味で、OMO(Online Merges with Offline)とも呼ばれています。
去年8月に都内に2店舗をオープンして1年。これまでに延べ45万人が来店し、約240社、500点以上の商品を扱いました。
出店をきっかけに自社の販売サイトを訪れる人が増えたという企業も多いということで、ことし11月には国内3店舗目を渋谷にオープンする予定です。
大嶋さん
「オープン以来、幅広い年齢層に来てもらっています。“売らない小売り”をうたっているので、お客さんも買うプレッシャーから解放されて、単純に商品を楽しんでもらっているなと感じます」

逆境のデパート業界も追随

ベンチャーが主導する、店頭とネットの融合の動き・OMOに、小売りの「巨艦」デパート業界も追随しようとしています。大手の「そごう・西武」は今月、東京 渋谷の店舗内に、専門フロアをオープンしました。

デパート業界は、客層の高齢化や専門店の台頭、さらに最近では新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛による客数の激減にインバウンド需要の“蒸発”と、逆風のまっただ中です。そして、ネット通販の普及もまた、厳しい経営環境の一因となってきました。その、いわば商売敵だった「オンライン」のノウハウを取り込むことで、生き残りを図ろうとしているのです。
専門フロアには、50社余りの企業が出店しています。大半が自前の店舗を持たないネット販売専業で、デパートには初出店だといいます。60センチ四方のスペースに商品を並べ、客に試してもらいます。
ベータとの違いは、レジを店内に残したことです。客は気に入った商品のQRコードをスマホで読み取り、レジで決済します。
決済といってもキャッシュレス、使えるのはクレジットカードか電子マネーだけです。また、自宅への配送もできますが、希望すれば商品を店内で受け取ることができます。
「お気に入りの品物を持ち帰る喜び」も大切な体験の1つととらえ、そこからほかの売り場での購買につなげたいという、デパート側のねらいがあります。客の行動データを出店企業に提供するのは同じですが、ベータに比べてより実際の店舗機能を残した形となっています。

若い世代にアプローチ

ターゲットの客層を、若い世代に絞り込んだ点も、デパートにとっては大きな挑戦でした。商品コンセプトは10代・20代の間で関心が高いとされる「サステナビリティー(持続可能性)」。これまで捨てられていたホタテの貝殻を原料にした洗剤や、端材などのガラスを使った花瓶・グラスなど、循環型社会に適応した商品が並んでいます。
地球環境の問題を授業で学び、商品選びにも環境にやさしいか吟味する傾向があるという、若者の目線を重視しました。ネットで買い物する機会が多いという20代の男性客は「おしゃれというのが第一印象です。店に並んでいるものを配送してくれるなら、商品を持ち歩くこともなく便利だと思います」と話していました。
大胆な発想が求められる売り場改革に抜てきしたのは、20代から30代のデザイナーやIT企業の代表など、社外の人材からなる若手グループです。会社では、今後、客の反応や取り扱い商品の売れ行きなど分析し、他の店舗でも展開できないか検証していきたいとしています。
伊藤さん
「思い切った新しい挑戦。出店企業は半年ごとにテーマに沿って入れ替えることにしていて、変化し続けるフロアを目指していきたい」

問われる令和の「店づくり」

デパートとネットの融合では、松屋も先月、ネット販売に主軸を置いたジュエリーブランドを新たに立ち上げ、店頭で紹介を始めています。
ネットの普及で自宅でも手軽に買い物できる令和の時代に、消費者があえて足を運びたくなる店とはどういう場所か。これまでの常識を覆す「売らない店」の衝撃が、小売り業界に、次の成長への新たなヒントを与えているようです。
経済部記者
茂木 里美
さいたま放送局
盛岡放送局を経て
4年前から現所属
デパートやコンビニなど
流通業界を担当