パチンコ店でワクチン?ライブに接種証明?エンタメの今後は

パチンコ店でワクチン?ライブに接種証明?エンタメの今後は
緊急事態宣言がまた延長されました。

休業、時短、中止、延期…

新型コロナの感染拡大防止のため、要請が繰り返されています。

こうした中、パチンコ店ではワクチン接種に乗り出すところも。

イベントにワクチンの接種証明などを求める動きも出ています。

コロナ禍のエンタメ業界。

この先、どうなっていくのでしょうか?

(大阪拠点放送局 米原達生 ネットワーク報道部 記者 斉藤直哉 芋野達郎)

打っているのは…ワクチン

大阪・北区のパチンコ店。

パチンコ台にずらっと並んだ人たちが打っているのはパチンコではなく、ワクチンです。
接種を済ませた人に聞いてみると…

「打ったのがワクチンなんて大喜利みたいだったけど、予約が取れなかったから助かった」

「ワクチン打ててよかった。パチンコもやりたかった」

評判は上々のようです。
大阪だけでなく福岡市のパチンコ店にも「職域接種」の文字。

今、各地のパチンコ店が、職域接種をしたり、接種会場を提供したりしているのです。

なぜ、パチンコ店がワクチン接種に手を挙げたのでしょうか。

なぜパチンコ店がワクチンを?

パチンコ業界は去年春、新型コロナが初めて国内で感染拡大した時に、営業の休業要請に協力しない店舗があったこともあり、強い逆風にさらされました。

今回、集団接種を行った大阪のパチンコ店の社長は当時「業界への評価が厳しすぎる」と感じながらも、「自分たちも社会との対話が足りていないのではないか」と考えていました。
新型コロナの感染が収まらないなかで、パチンコ業界と地域との間で何ができるか?
考えた末に実行することになったのが、近くの病院と協力してのワクチン職域接種でした。

パチンコ店は、今は改正健康増進法によって原則禁煙となっていますが、これまでタバコの煙を排出するために活躍した強力な換気システムがあります。

いすは回転式で、左右どちらの腕に接種するにも便利。
また、パチンコが大当たりしたときに店員を呼び出すボタンは、接種後に気分が悪くなった時に使うことができます。

「集団接種に理想的な環境だ」と病院関係者は冗談交じりに話します。
ワクチン接種には、従業員のほか、地元商店街や常連客などおよそ1500人の申し込みがありました。

店内でワクチン接種を行うために、店は休業にしなければなりません。

外出の自粛で客が減る中で、1回目と2回目の接種、合わせて4日間の休業で失う売り上げは1億円近くに上るといいます。

それでもパチンコ店が得たいものとはいったい…
大阪のパチンコ店運営会社アバンス 平川順基社長
「街とのコミュニケーションです。批判されることも多く、ともすれば悪く見られることもある中で、いろんな人とのコミュニケーションをすることが自分たちの存在を生むんだということを、従業員が感じてくれたらそれが会社として得たことだと思う」

B’z 有観客ライブに向けて

イベントにワクチンの接種証明などを取り入れる動きも出ています。

人気ロックバンドのB’zは、ワクチンの接種済証などを活用した感染対策を行ったうえで、観客を入れて公演を行うことを決めました。
公演はB’zが主催し、今月18日と19日にはMr.Childrenを迎えて大阪で。28日と29日にはGLAYを迎えて横浜で行われます。

日本を代表する人気バンドが集結するライブ。

会場に受け入れる人数は国や自治体の要請を守って5000人を上限にしています。
感染対策を徹底するため、観客には任意でワクチンの接種済証やPCR検査の陰性証明の提示を呼びかけています。

協力した観客には、オリジナルのステッカーを1人1枚プレゼントするということです。

観客はマスクを常に着用。

歓声をあげることや、酒類を持ち込むことは禁止です。
こうした感染対策について公式ウェブサイトでは、
「有観客で公演を実施することに賛否両論があることは重々承知しております。しかし、単に無観客にするだけでは、本来のコンサートの姿を取り戻す道程は遠くなるのではないかと感じ、メンバー・スタッフ間で話し合いを重ね、本日のご案内に至りました。出演者とスタッフの徹底した対策はもちろんのこと、ファンの皆様、お一人、お一人のご協力が是非とも必要です」としています。
ウェブサイトにはB’zの2人もコメントを寄せています。
松本孝弘さん
「コロナで大きな打撃を受けた音楽業界復興に向けて立ち上がらねばと考えます。素晴らしい同志達の協力を得て、共にコロナ禍に一矢報いる事が出来ればと思っています」
稲葉浩志さん
「この1年以上、ライブやツアーを行うことは決して当たり前のことではないと思い知らされて、われわれミュージシャンやバンドも見たことのない壁にぶつかったような思いで過ごしてきました。ファンの皆さんと一緒に、まだまだ残されている音楽の可能性を目一杯感じながら歌いたいと思います」

イベント行動制限 国の考えは?

イベントなどの行動制限の緩和に向けて、国はどう考えているのか。

政府が掲げているのが「ワクチン・検査パッケージ」です。
「ワクチン・検査パッケージ」とは、ワクチンを接種した人や検査で陰性が確認された人などが、他の人に感染させるリスクが低いことを示す仕組みです。

政府はこの仕組みを活用して、マスク着用などの基本的な感染対策を継続しつつ、段階的にイベントや会食、旅行などの行動制限を緩和していくことに。

その時期について専門家は、ワクチンがほぼ希望者に行き渡る見込みの11月ごろからを想定。

イベントについては、感染を防ぐための計画の策定や、QRコードを活用した感染経路の追跡といった対策を講じたうえで、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域でも人数制限などの緩和を検討し、それ以外の地域では緩和や撤廃をするとしています。
一方で、この仕組みを活用する際には、接種できない人、しない人に、なるべく不利益が出ないようにすることも必要で、政府は幅広く国民的な議論をしながら具体化を進めていくとしています。

政府の分科会の尾身茂会長は、今月9日「ワクチン・検査パッケージ」について、このように説明していました。
尾身会長
「どのような場面で使うのかについてはコンセンサスが非常に重要で、私たちは国民的議論をしてほしいと強調している。国や自治体が一方的にお願いしても理解と共感が得られないので、市民や事業者の意見を聞きながら、仕組みの導入にどのような難しさや条件があるのか、どんなメリットがあるのか議論をしたうえでみんなに納得してもらう必要がある」

すでに入場の条件になっている動きも

ワクチン接種やPCR検査の陰性証明を条件として観客を入れる取り組みが、すでに始まっているところもあります。

プロ野球・ソフトバンクは今月2日から5日までの本拠地での4連戦で、2回のワクチン接種を済ませた人や1週間以内のPCR検査で陰性であることを条件として観客を入れて開催しました。
観客は窓口でワクチンの接種が済んだことを示す書面を提示するなどし、観戦チケットを受け取ると、マスクを着けたまま検温をして球場に入っていました。

また、サッカーJ1・鹿島アントラーズは今月18日と22日に開催される本拠地での試合について有観客で開催するとしたうえで、茨城県からの要請に従い、来場する観客にワクチン2回接種の証明やPCR検査・抗原検査での陰性証明への協力を呼びかけるとしています。

主催者の思いは…

こうした取り組みの背景にはどういった思いがあるのでしょうか。

実際に入場の条件にワクチンの接種や検査を検討している人に聞きました。

芸能プロダクション代表取締役の山田昌治さんです。
山田さんのプロダクションにはアイドルグループの「アップアップガールズ(仮)」などが所属していて、現在は政府の方針に従い、感染対策をしたうえで観客数を制限してライブを開催しています。

しかし、山田さんはことし11月をめどに、ワクチンの接種済証やワクチンパスポート、48時間以内のPCR検査の陰性証明書の提出を入場の条件とするライブ開催を検討していると発表しました。
YU-M エンターテインメント 山田昌治 代表取締役
「どうしたらお客様やアーティスト、スタッフが安心してステージを作れるかということで、1つ考えた形になります。これまでオンライン配信ライブなどいろいろ取り組みましたが、アーティストが目の前にいて表現するライブとはお客様にとっても感じ方が違うものだし、目の前でパフォーマンスするアイドルに憧れて、自分もアイドルを目指すという人もたくさんいるので、その文化を絶やしたくないという思いがありました」

発表に分かれた賛否 今後は?

山田さんの発表のあと、ファンからは「安心してライブに行けるようになる」といった声も聞かれました。

一方で…

「いろいろな事情で打てない人のことももっと考えてほしい」

「ワクチンアレルギーの人もいます。明らかに差別しているとしか思えません」

厳しい意見も寄せられたということです。
山田昌治さん
「差別するという意図はもちろんなくてみんなが安心してライブに臨めるよう考えた結果ですが、必ずしも全員がワクチンを打てるわけではないので、どうやったら希望するファンを取りこぼす、取り残すことなくイベントを開催できるかが今の課題だと思っています」
山田さんは証明書が提出できない場合でも、入場前に抗原検査を行って陰性が確認できれば入場できるようにすることなどを専門家の意見を聞いて検討したいとしています。
山田昌治さん
「一時は『こんなときにエンターテインメントなんて』と後ろ指をさされながらもステージに立っていたことも現実にはあったので、安心できる環境をつくることでそういった面でもアーティストやスタッフを守っていきたい。主催者側もファン側もこれまでとは違う配慮が必要になってくるが、それでもライブの文化を愛しているし、この文化とともに生きていきたいと思っています」