8月の記録的大雨「異常気象といえる」気象庁検討会

先月、西日本を中心に川の氾濫や土砂災害が相次いだ記録的な大雨について、専門家による気象庁の検討会は偏西風が南へ大きく蛇行したことで前線が停滞し、観測された雨の総量が3年前の西日本豪雨を超えるなど「異常気象といえる」と指摘しました。

先月中旬から下旬にかけて日本付近に前線が停滞し、南からは暖かく湿った空気が流れ込み続けて西日本や長野県などで記録的な豪雨となりました。

特に九州北部や中国地方では発達した雨雲が長期間にわたってかかり続け、先月11日から26日までの期間中の降水量が
▽長崎県雲仙市で1360ミリ、
▽佐賀県嬉野市で1334.5ミリなど1000ミリを超える観測地点が相次ぎ、
平年の年間降水量の半分前後に達しました。

また、
▽広島市でも530ミリと平年の8月1か月分の4倍を超える記録的な豪雨となり、各地で川の氾濫や土砂災害が相次ぎました。

この要因について、気候の専門家などで作る気象庁の「異常気象分析検討会」は13日臨時で会合を開き、分析しました。
それによりますと、先月、北半球では2つの偏西風がロシア東部と朝鮮半島付近でそれぞれ大きく蛇行し、日本列島はオホーツク海と、南にある2つの高気圧に挟まれる形となりました。

その結果、西日本から東日本にかけて前線が停滞し続け、そこに南や南西から大量の水蒸気が流れ込んで前線の活動が活発化し、広い範囲で断続的に雨が強まって大雨となりました。

全国の気象庁のアメダスで観測された雨の総量は、26日までの16日間で27万640ミリと、甚大な被害となった3年前の「西日本豪雨」を超えました。

また通常、8月は南の太平洋高気圧が日本の北側まで張り出し晴れて厳しい暑さとなる日が多くなりますが、検討会は偏西風が南に大きく蛇行したことで上昇気流が起きやすく、雨が長期間続いたと分析しました。

さらに、地球温暖化による気温の長期的な上昇で大気中の水蒸気の量が増え、降水量が増えた可能性を示す分析結果も得られたとして、検討会では一連の大雨を「異常気象といえる」と指摘しました。

検討会の会長を務める東京大学の中村尚教授は「『異常気象』と言って差し支えない状況だった。総降水量は西日本豪雨を上回る状況となったほか、梅雨の後半のような状況になり季節がずれている点でも異常であったとみなせる」と話していました。

また、今後も同じような異常気象は起こりえると指摘したうえで「地球温暖化の影響で水蒸気量が着実に増え、これまでにない雨量が各地で観測される可能性が以前よりもはるかに上がってきている」と述べました。

3年前の「西日本豪雨」を超える総雨量

西日本を中心に広い範囲で雨が降り続いた先月の豪雨は気象庁の全国にある観測地点の雨量を合計した値が3年前の西日本豪雨を超えました。

データからは短時間の猛烈な雨や非常に激しい雨の回数はそれほど多くなくても、雨が長期間にわたって降り続いたことで災害のリスクが高まっていった「長雨」の特徴が見えてきました。

気象庁の観測によりますと、日本付近に前線が停滞した先月11日から26日までの間、西日本と東日本を中心に広い範囲で断続的に雨が降り続きました。

期間中の雨量は、
▽高知県の馬路村魚梁瀬で1431ミリ、
▽宮崎県のえびの高原が1426ミリと、
それぞれ平年の年間降水量の30%に達する記録的な雨とました。

また、特別警報が出た地域では、
▽長崎県の雲仙岳が1360ミリで年間に降る雨の量の46%、
▽佐賀県嬉野市が1334.5ミリで57%、
▽福岡県大牟田市が1072.5ミリで56%、
▽広島市が530ミリで34%と、
2週間程度で年間の降水量の半分を超えたところもありました。

全国にある気象庁のアメダス1029か所で観測された雨の総量は、26日までの16日間で27万640ミリで、2018年に11日間に降り続いた雨で甚大な被害をもたらした「西日本豪雨」の24万5784ミリを超える値だったということです。

一方、今回の豪雨では短時間でまとまった雨の回数は少なく、長期間、降り続いたいわゆる「長雨」によって災害のリスクが高まっていったことが見えてきました。

期間中、毎正時までの1時間に50ミリ以上の「非常に激しい雨」が観測された回数は全国で62回、1日当たり平均3.9回で西日本豪雨の平均6回を大きく下回りました。

記録的な大雨となった高知県馬路村や福岡県大牟田市、広島市などでは期間中に「非常に激しい雨」は観測されませんでした。

特に広島市では1時間の降水量は14日に観測された23ミリが最大だったものの、土砂災害や住宅の浸水が相次ぎました。

「避難指示」も長期化『いつまで避難すれば』

「どのタイミングでどうしたらいいのかわからない…」
「こんなに全ての地域で雨が降ると、どこに避難すれば安全か迷うよね」
「もうJRも動かないし、道路も通行止めだし、家にいるべきかね」

今回の大雨について、SNS上では長く降り続いた雨によって「避難のタイミングがよくわからなかった」と投稿が相次ぎました。

災害時には自治体から出される「避難指示」や「高齢者等避難」などの情報が参考になりますが、雨が長引くにつれて情報が発表される期間も長期化しました。

自治体が「避難指示」の対象地域や日時などの経過をホームページで公表しているものだけでも、長いところで2週間前後、中には8月いっぱいまで指示を継続していた自治体もありました。

このうち広島市は土砂災害や河川の氾濫のおそれがあるとして、長いところでは12日間にわたって避難指示を出しました。

避難者が最も多かった14日の午後10時の時点では最大で2156人が避難所に身を寄せました。

今回の豪雨では住民が避難所へ移動したあとに住宅や道路に大量の土砂が流入し、被害を免れたケースがいくつもあったということです。

広島市の担当者は「いったん雨がやんだあとも土砂災害などの危険性が高い状況が続いた地区もあり、避難指示が長引いたのはやむをえなかったが、住民から『いつまで避難すればいいのか』という声もあり、対応は難しかった」と話していました。

長崎 雲仙の自治会長「そんなに降っていたのかと驚いた」

先月の記録的な豪雨で、長崎県の雲仙岳では、11日の降り始めからの10日間だけで、平年の年間総雨量の4割を超えました。

雲仙市内では、先月13日、土砂崩れが発生して親子3人が死亡したほか、市内の温泉街でもお湯が出なくなるなどの被害が出ました。

地元の自治会長を務める加藤宗俊さんは、雨は長く降り続いていたものの、これほどの被害が出るとは思わなかったと振り返りました。

加藤さんは「雨は長く降り続いたが通常の雨と比べて“めちゃくちゃ強い”という感じではなかった。まさかこんなことになるとは思っておらず、避難は考えなかった。雨は夜も降り続いていたが、朝起きたら土砂崩れが発生していて、そのときになって総雨量を知り『そんなに降っていたのか』と驚いた。もし分かっていたら避難していたと思う」と話していました。

専門家「避難の意識 転換を」

災害時の住民の避難行動に詳しい京都大学防災研究所の矢守克也教授は「大雨に見舞われたのは3年前の西日本豪雨などで大きな被害を受けた地域が中心で、住民や自治体には当時の記憶が鮮明な人が多かった。避難に関する意識が高く、いち早く防災行動につなげられたことが被害を抑えることができた理由の1つではないか」と分析しています。

そのうえで、「“長雨ダラダラ型”の降雨パターンになると、住民がただごとではないと感じるような強い雨があまりなく、どこで避難をすればよいかタイミングが非常に難しくなる。行政側も避難情報を出したり、解除したりといった決定が難しくなる」と指摘しました。

さらに災害から身を守るためには、行政の避難情報に従うだけでは十分ではないとして、「斜面から濁り水が出ていたり、変な土の臭いがしたり、見たこともないような川の色になっていたりといった身近な異変に気付いた際には、すぐに避難をする“避難スイッチ”として周囲と共有しておくことが雨が降り続く場面においてはますます重要になる」と話していました。

そして「各地で記録破りの豪雨が毎年のように降って長雨になるパターンが着実に増えていて、台風の接近なども含め、長期間の避難が求められる場面が今後も相次ぐおそれがある。短期間、急場をしのぐだけというこれまでの風水害に対する避難のイメージから、ある程度の期間知人宅やホテルなどで暮らすことも想定した避難の在り方への意識の転換も必要になる」と話していました。