新型コロナ デルタ株“空気感染”する?! いま分かっていること

過去最大の感染拡大となった新型コロナウイルスの第5波。ようやくピークをすぎたとみられますが、感染力が強い「デルタ株」が主流になるにつれ「新型コロナは空気感染する」と考える人も出てくるようになりました。

新型コロナは「飛まつ感染」と「接触感染」ではないの?
空気感染するように変異しているのでしょうか?

今、わかっていることをまとめました。

日本の専門家が気付いた「マイクロ飛まつ」感染

新型コロナの感染が国内で始まった時期の2020年2月、対策にあたっていた日本の専門家は感染の特徴に気付きました。

当時WHO=世界保健機関などは、新型コロナはせきなどをした際に出される飛まつに含まれるウイルスを通じた「飛まつ感染」、それにウイルスのついた手で鼻や口を触ることで広がる「接触感染」としてきましたが…。

札幌の雪祭りで暖を取っていた休憩所で感染したケースなど、室内で感染したケースをよく調べてみるとそれにとどまらない感染経路がある。密閉された空間で一定の時間、ウイルスが含まれたごく小さな飛まつがしばらく漂い、それを吸い込むことで感染することが分かりました。

すぐに落ちてしまう「飛まつ」とは異なり、空間を漂う「マイクロ飛まつ」による感染があることに気付いたのです。

この発見をもとに、手洗いや消毒、マスク無しでの会話を避けることに加え、「密閉・密集・密接」の3密を避けるという対策が生まれ、WHOなどでも紹介されるようになりました。

デルタ株が主流になった今、さらに感染しやすくなって「空気感染」のようなことが起きているのでしょうか?

「空気感染」とは どのような感染か?

その前に、空気感染とはどのような感染なのでしょうか?

感染者から出た唾液などの飛まつが乾燥し、その中の病原体が感染力を保持したまま空気に漂って広がります。これを吸い込むことで起きるのが「空気感染」。

直径5マイクロメートル、1000分の5ミリ以下の「飛まつ核」が数時間漂い、同じ空間にいる人が吸い込んで感染するため、対策は最も難しいとされています。同じ部屋の離れた場所、たとえば教室の最前列でせきをしたら、最後部でも感染することがあるとされています。
ただ、アメリカのCDC=疾病対策センターによりますと、空気感染するのは結核菌やはしか、水ぼうそう、帯状ほう疹のウイルスに限られています。

はしかは対策を取らない場合、1人から12人~18人に感染するとしています。

新型コロナでは「飛まつ」よりは小さいものの「飛まつ核」ほど小さくはなく、一定の時間空間を漂う「マイクロ飛まつ」での感染があるとされてきました。

デルタ株の感染力「水ぼうそうと同程度」の可能性

では、デルタ株ではどうなのでしょうか?

CDCがデルタ株の感染力や広がり方について記したウェブサイトでは、これまでの2倍以上の感染力があり、ワクチン接種なしではより重症化する可能性があることなどが書かれていますが、「空気感染」についての記載はありません。

また、政府の分科会が先月中旬にまとめた提言でも「感染力の強いデルタ株で感染拡大が起きやすくなっている」としながらも、「主な感染様式はこれまでと変わらず、飛まつ、もしくはマイクロ飛まつと考えられ、これまでの対策を徹底する必要がある」としています。

一方、CDCの内部資料では、従来のウイルスでは、1人の患者は平均1.5人~3.5人程度に感染させていたのに比べ、デルタ株では平均5人~9.5人程度に感染させる可能性があるとしていて、最も高い場合には「水ぼうそうと同程度の感染力」がある可能性があると推定しています。

専門家 “ウイルスの量の多さ影響”の可能性指摘

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は、デルタ株の感染力が強いことは確かだとしながらも、現在のところ空気感染するという証明はされていないといいます。

舘田教授
「『空気感染』することを証明するには、感染した人から出た飛まつの中の水分が蒸発し、『飛まつ核』にウイルスが残って空気中を浮遊して感染を起こすような状態が観察される必要がある。新型コロナではまだそこまでは証明されていない」

舘田教授は、デルタ株で感染力が強いのは患者が排出するウイルスの量が多いことが影響している可能性を指摘します。

「臨床でも証明されつつあるが、ウイルス量が非常に多くなっていることが考えられる。そのために、あたかも空気感染するように見えるのか、注意して分析していかなければならない」

ウイルス量 従来の4倍以上と推定 民間検査会社

空気感染するとは証明されていないものの、デルタ株にはそう思わせるほどの感染力があります。さらに取材を進めるとこれを裏付けるデータがあることがわかりました。

デルタ株では、患者から検出されるウイルスの量が従来の新型コロナウイルスの少なくとも4倍以上になると推定されることが民間の検査会社のまとめで分かったのです。

データはPCR検査を1日最大で2万件余り行っている大手検査会社「ビー・エム・エル」がまとめました。

PCR検査では検体に含まれる遺伝子を増幅させてウイルスの有無を調べます。増幅する回数は「Ct値」と呼ばれ、一般にこの値が40以内の場合には「陽性」とされています。「Ct値」が少ないのに検出されればウイルスの量が多いことを示します。
「Ct値」が陽性とされる40回の半分、20回未満だった割合を調べたところ、
▽1月には全体の38.0%
▽イギリスで最初に確認されたアルファ株が広がった4月でも41.4%でした。

それが、
▽デルタ株が主流となった7月には65.9%
▽先月には63.7%と高くなっていました。

今回、それぞれの時期に最も頻度が高かったCt値をもとに推定すると、検体に含まれるウイルスの量は、デルタ株では従来型やアルファ株と比べて少なくとも4倍~64倍になると考えられるということです。
「ビー・エム・エル」の山口敏和執行役員は「7月から明らかにCt値が小さくウイルスを多く含む検体を頻繁に目にするようになってきました。従来のウイルスと比べ、ここまで差があるとは想像していませんでした。ウイルス量に決定的な違いがあると言える」と話していました。

ウイルス量多いこと前提に対策を

このデータについて舘田教授は、患者から検出されるウイルスの量がデルタ株で多いことが国内のデータで示されたのは初めてだとしています。

そして、ウイルスの量が多いことを前提に、
▽不織布マスクの着用
▽人と人との距離を保つこと
▽飲食時には斜め向かいに座ること
▽飲食時の会話ではマスクを着けること
▽換気を徹底することなどの対策を取ることが重要だとしています。

特に換気がポイントで、1時間に1回~2回、1度に5分~10分程度行うことが重要だとしています。

そのうえで「気温が低いと、ウイルスは飛まつの中で感染力を保ちやすいことが報告されている。秋冬にかけて気温が下がってくると、感染リスクが高まることも考えておかなければならない。今から徹底して対策を取ることが重要だ。ワクチンを打ったとしても、知らず知らずのうちに感染を広げている可能性があると考えて、油断せず対策を取ってほしい」

「空気感染」明確な証拠には行き当たらずも 対策徹底を

現在のところ、デルタ株で空気感染するという明確な証拠には行き当たりませんでした。

しかし感染力が強いのは事実で、それを裏付けるデータは報告されてきています。

ワクチン接種が進んだ国でもデルタ株によって感染が再拡大していることもあり、これまでの対策に加え、換気の徹底が必要なのは間違いありません。