津波から職員を避難 ルール定めていない自治体が約半数

東日本大震災の発生から11日で10年半。当時は自治体庁舎にいた多くの職員も犠牲となりました。全国の自治体のうち、津波で庁舎に浸水のおそれがある178の自治体をNHKが取材したところ、半数近くが職員を安全な場所に避難させる「退避ルール」を定めていないことがわかりました。震災の教訓をどのように生かすか課題となっています。

東日本大震災では、東北を中心に10の自治体の庁舎が津波で被災し、災害対応にあたっていた職員など200人以上が犠牲になりました。

教訓が生かされているのか検証するため、NHKは先月、津波の浸水想定区域に庁舎がある全国178の自治体を対象に高台など安全な場所に職員を避難させるルールを定めているか取材しました。

それによりますと、97の自治体がルールを定めている一方、半数近くの46%にあたる81の自治体が「定めていない」と回答しました。

定めていない理由を尋ねると、19の自治体が「津波の想定よりも庁舎が高い建物で安全だ」と答えましたが、「基準や決め方が分からない」、「策定する余裕がない」と答えた自治体があわせて36に上りました。

また、12の自治体が現在、策定中だということです。

職員を避難させる「退避ルール」について、国は自治体に対し具体的な基準を示していません。

自治体の災害対応に詳しい兵庫県立大学大学院の紅谷昇平准教授は「自治体の中には、住民の命を守ることを最優先にし、職員の安全対策が後回しになっているところがあると思う。リスクが高い自治体では『退避ルール』を早急に定めるべきで、国も明確な指針を示すべきだ」と話しています。

「職員の命も住民の命も守らなくてはいけない」

ことし3月に退避ルールを作成した岩手県久慈市は、職員の避難と住民への災害対応をどのように両立させるか検討を始めました。

久慈市は、東日本大震災の津波で沿岸部は被害を受けましたが市役所は浸水を免れました。

しかし、去年9月に国が発表した巨大地震の新たな想定では、市役所も5.3メートルの高さまで浸水するおそれがあることが示されました。

このため市は、業務継続計画を策定し、津波が到達する前に職員を退避させるルールを新たに定めました。

新想定では、地震の発生から35分ほどで津波が庁舎に到達すると予想されていて、市は、新たなルールの中で到達する15分前までに高台の分庁舎に職員を避難させることにしました。

しかし、市役所から分庁舎は歩いて20分近くかかるため、住民の避難誘導など災害対応にあたる時間はほとんどありません。

このため久慈市では、今後、職員と住民が一緒に避難できるよう防災計画を見直すことを検討しています。

久慈市消防防災課の田中淳茂課長は「課題は多く残されているが、職員の命も住民の命も守らなくてはならない。訓練などを通じて住民と一緒に逃げる具体的な方法を考えていきたい」と話しています。

東日本大震災 200人以上の職員が犠牲に

東日本大震災では、住民の避難誘導などにあたっていた自治体の職員が命を落とすケースが相次ぎました。

内閣府によりますと、東日本大震災では、岩手県と宮城県、それに茨城県の10の自治体の庁舎が津波で被災し、災害対応にあたっていた200人以上の職員が犠牲になりました。

このうち、宮城県の南三陸町では、防災対策庁舎が津波で全壊し、防災無線で住民に避難を呼びかけていた職員など、非常勤も合わせて41人が亡くなりました。

また、岩手県では、陸前高田市で111人、大槌町では当時の町長を含む39人が犠牲になりました。

大槌町では、当時の職員などに聞き取り調査を行い、ことし7月、報告書をまとめました。

報告書では、職務を優先するあまり住民より先に避難してはならないという意識が職員の間であったことや、地域防災計画などで、職員の「退避ルール」を作っていなかったことが被害を拡大させた一因になったとしています。

調査を担当した佐藤孝雄さんは「大槌町で起きたことを全国の自治体にも教訓にしてもらいたい。津波の浸水想定地域に庁舎がある自治体では、職員を避難させるルールを作るなど対策を進めて欲しい」と話しています。