【詳報】“宣言”延長 菅首相会見「日常取り戻す道筋つける」

東京や大阪など19都道府県で緊急事態宣言が延長されることを受けて、菅総理大臣は記者会見し、医療体制をしっかりと確保し、治療薬とワクチンで重症化を防いでいくと強調しました。一方、10月から11月の早い時期には、希望者全員のワクチン接種が完了するとして、ワクチンの接種証明などを活用し日常生活の制限を緩和していく考えを示しました。

また自民党総裁選挙に立候補しない理由について「新型コロナウイルス対策などの多くの公務を抱えながら総裁選挙を戦うことは、とてつもないエネルギーが必要だ」と改めて説明し「私がやるべきことは、危機を乗り越え、安心とにぎわいのある日常を取り戻す道筋をつけることだ」と述べ、総理大臣の退任までコロナ対策に全力を尽くす考えを強調しました。

「感染者はようやく減少傾向も重症者数は依然として高い水準」

菅総理大臣は、記者会見で「全国各地で、感染者はようやく減少傾向をたどっているが、重症者数は依然として高い水準が続いている」と述べました。
そのうえで、緊急事態宣言の延長などについて「きのうの専門家による提言では、宣言の解除に関する考え方が示された。病床使用率が50%を下回っていること、重症者、新規感染者、自宅療養者の数が減少傾向にあること、ワクチン接種の効果などを総合的に検討することとされ、これを踏まえ判断をした」と述べました。

「就任して1年 新型コロナとの戦いに明け暮れた日々だった」

そして「私自身が内閣総理大臣に就任して1年がたつが、この間、まさに新型コロナとの戦いに明け暮れた日々だった。国民の命と暮らしを守る、この一心で走り続けてきた。こんにちまで大変なご尽力をいただいている医療、介護をはじめとする関係者の皆さん、国民の皆さん、お一人お一人のご協力に心から感謝を申し上げる。本当にありがとうございました」と述べ頭を下げました。

「国民にとって最善の道は何なのか議論を尽くし決断してきた」

「新型コロナという見えない敵との戦いは、暗いトンネルの中を1歩1歩手探りで進んでいくことにも似た、極めて困難なものだった。救急車の音を聞けば、必要な医療が届いているのか。飲食店や観光業の皆さんのなりわいや暮らしは大丈夫か。そうした不安を何度も感じ、そのたびに現場の声を聞き、専門家の意見を伺い、国民にとって最善の道は何なのか、関係閣僚とも議論を尽くし決断をしてきた」と振り返りました。

「1年はあまりにも短い時間だったが道筋示すことできたのでは」

さらに「すべてをやりきるには、1年はあまりにも短い時間だったが、子どもや若者、国民の皆さんが安心と希望を持てる未来のために、道筋を示すことができたのではないか。内閣総理大臣として、最後の日まで全身全霊を傾けて職務に全力で取り組んでいく」と述べました。

「『コロナ対策専念すべきだ』と思い総裁選出馬しないと判断」

また「この秋の政治日程について問われるたびに、新型コロナウイルス対策が最優先だと申し上げてきた。足元の感染はようやく減少傾向にあるが、収束にはいまだ至っていない」と述べました。
そのうえで「今月12日の宣言の解除が難しい中で、覚悟するにつれて『やはり新型コロナ対策に専念すべきだ』と思い、自民党総裁選挙には出馬しないと判断した。今、総理大臣として私がやるべきことは、この危機を乗り越え安心とにぎわいのある日常を取り戻す道筋をつけることだ」と述べました。
さらに「まずは医療体制をしっかりと確保し、治療薬とワクチンで重症化を防いでいく」と強調しました。
そして「病床、ホテルに加え、全国で酸素ステーションや臨時の医療施設など、いわゆる野戦病院を増設していく。自宅で療養する方々には、身近な開業医が健康観察や入院の判断を行い、必要な医療が受けられる体制を作る」と述べました。
そのうえで「まずは医療体制をしっかりと確保し、治療薬とワクチンで重症化を防いでいく。病床、ホテルに加え全国で酸素ステーション、臨時の医療施設など、いわゆる野戦病院を増設していく。自宅で療養する方々には身近な開業医が健康観察や入院の判断を行い、必要な医療が受けられる体制を作る」と述べました。

【東京五輪・パラ】「開催国として責任果たしやり遂げた」

また「外交・安全保障の分野でも、基軸である日米同盟のさらなる強化をはかり、自由で開かれたインド太平洋構想の具体化に向け、同志国や地域との連携と協力を深めることができた」と述べました。

東京オリンピック・パラリンピックについては「この夏の開催には、さまざまな意見もあったが、招致した開催国として責任を果たし、やり遂げることができた。選手たちのすばらしいパフォーマンスは多くの人々に感動をもたらし、世界中に夢や希望を与えてくれた。障害のある人もない人も助け合ってともに生きる、共生社会の実現に向けて心のバリアフリーの精神を発信することもできたと思っている」と述べました。

「接種証明や陰性証明活用 社会経済活動の正常化に道筋つける」

「10月から11月の早い時期には希望者全員のワクチン接種が完了する予定で、それに向けて宣言などの地域でもワクチンの接種証明や検査の陰性証明を活用し、制限を緩和していく。認証制度も使って飲食、イベント、旅行などの社会経済活動の正常化の道筋をつけ、その間も影響を受けている方々の事業と雇用、暮らしを守るための支援に万全を期していく」と述べました。

「省庁間縦割りや国と自治体の壁 柔軟対応難しく課題整理する」

そのうえで「これまでの一連の対応を通じて、感染症対策に関するさまざまな問題が浮き彫りになった。病床や医療関係者の確保に時間がかかること、治療薬やワクチンの治験や承認が遅く、海外よりも遅れてしまうこと、緊急時でも省庁間の縦割りや国と自治体の壁があって柔軟な対応が難しいこと、こうした課題を整理していく」と述べました。

「ワクチン接種加速化の取り組みは間違いではなかった」

ワクチン接種については「予想を上回るペースで進み、1億4000万回を超え、欧米諸国と比べても速いペースだ。今月末には全国民の7割の方が少なくとも1回の接種を、6割の方が2回の接種を終え、現在の各国と同じ水準になると見込まれている」と述べました。
そのうえで「デルタ株による感染拡大の中でも、2回接種を済ませた方の感染は、接種してない方の13分の1だった。最も重症化リスクの高い高齢者のおよそ9割が、2回接種を終えたこともあり、その重症者、死亡者数は極めて少なくなってきている。接種が進むことで、状況は全く異なったものとなり戦略的な闘いができるようになっている。1日100万回接種の目標を非現実的と疑問視する人もいたが、ワクチン接種加速化の取り組みは間違いではなかったと信じている」と述べました。

「医療体制なかなか確保できなかったこと大きな反省点」

「コロナの全体像が全くわからない中、先生方や海外の先行例を参考にしながら、感染対策を行ってきたが、医療体制をなかなか確保することができなかったことは大きな反省点だ」と述べました。

また「感染症法の改正によって、国や地方自治体が、病床提供に対して、要請や公表ができるようになった。そういう中、例えば東京都では厚生労働大臣と知事が要請を出したが、必ずしも十分な効果が得られているわけではなかった。こうしたことは、一つの大きな反省材料だと思っている」と述べました。

【この1年】「避けては通れない課題にも果敢に挑戦した」

「国民にとって当たり前のことを実現したい、この1年そうした思いで、長年の課題に挑戦してきた。2050年のカーボンニュートラル、デジタル庁の設置により、新たな成長の原動力は力強いスタートを切った。携帯料金の引き下げで、家計の負担は4300億円軽減されている。最低賃金は過去最高の上げ幅を実現し930円となった」と述べました。

また「所得制限をなくし不妊治療の保険適用にも道筋をつけた。男性の育児休業の取得促進や、40年ぶりの35人学級も実現することができた。孤立、孤独に苦しむ方に手を差し伸べたいとの思いで、担当大臣を据え、困難にある方々と行政の懸け橋となるNPOへの支援も拡充した」と述べました。

さらに「避けては通れない課題にも果敢に挑戦した。すべての世代が安心できる社会保障制度の第一歩として、一定以上の所得がある高齢者に医療費の2割負担をしていただく改革も実現した。東京電力福島第一原子力発電所の処理水についても、安全性の確保と風評対策を前提に、海洋放出を判断をした。憲法改正を進める第一歩となる国民投票法も成立させることができた」と述べました。

【総裁選で誰を支持する?】「今月17日の告示日時点で判断」

自民党総裁選挙への立候補を見送ったことについては「衆議院の解散は1つの考えとして、さまざまなシミュレーションを行ったことも事実だ。ただ、さまざまな状況を見ると同時に今月12日の緊急事態宣言の解除がどうなるかということは、常に私の頭の中にあった。そういう中で宣言の解除が難しいことなども含めて、コロナ対策と公務を行っている中で、総裁選挙に出馬するのは、とてつもないエネルギーが必要だ。そういう全体像を考える中で不出馬の宣言をした」と述べました。

また記者団から、総裁選挙で誰を支持するのか問われたのに対し「まだ告示になっていないし、候補者も出そろっていない。今月17日の告示日を迎えた時点で判断したい」と述べました。

【Go Toトラベル】「ワクチン接種進捗状況見ながら再開も」

今後のGo Toトラベルの再開の可能性については「日本の旅行関係者は900万人いて、多くは地方経済の下支えをしている。ワクチン接種が、今月には、1回接種の人が7割、2回接種の人が6割となる。そうした進捗状況を見ながら、Go Toトラベルの再開も考えられる」と述べました。

【衆院選】“立候補する予定”

記者団から「近く行われる衆議院選挙で神奈川2区から出馬する考えか」と質問されたのに対し「いま、その予定だ」と述べました。

【総裁選】「いろいろな方々立候補し考え述べることはいいこと」

河野規制改革担当大臣が10日に自民党総裁選挙への立候補を表明することについて「私自身も官房長官の時に出馬表明し、立候補してからも記者会見などを行っていた。閣僚として任された仕事は責任を持ってそれぞれ行うことが当然のことだと思う」と述べました。

そのうえで「総裁選挙に出馬する、しないというのは政治家として、閣僚となっても判断をして、論争をしっかりやって活性化していくことが極めて大事だと思っている。いろいろな方々が立候補して論陣を張って、考え方を述べることはいいことではないかなと思う」と述べました。

【感染症対策】「一本でさまざまなことに対応できる組織必要」

感染症対策を担う組織の在り方については「縦割りを乗り越えるために、省庁間を横断する対策本部も作ってきた。ワクチン接種は厚生労働省だけではなく総務省や経済産業省、国土交通省など、全部入って対応してきた。これだけ大きなことは、国を挙げて行わなければならない」と述べました。

そのうえで「国と自治体との壁もあり、保健所の在り方も、さまざまな問題があった。保健所に対して厚生労働省から直接指揮することは、なかなかできない。行政組織全体も、新型コロナのような状況については、一本でさまざまなことに対応できる組織がやはり必要かなと思っている」と述べました。

【解散・総選挙】“解散よりも「やりたい仕事」があった”

衆議院の解散・総選挙をめぐっては「私自身が最初に当選したとき、極めて高い支持率があり、いろんな方から助言を受けた。しかし、私は仕事をするために総理大臣に立候補したので『とにかく仕事をさせてください』と申し上げた。やりたい仕事もあり、解散よりもそちらの方を選んできた」と述べました。

【党役員人事】「『やれればやりたい』と考えていたことも事実」

さらに「自民党の役員人事は、自民党総裁の専権事項で『やれればやりたい』という思いで考えていたことも事実だ。それと同時に『この感染拡大への対応を放棄していいのかどうか』という思いが心の中にあったことも事実だ。そういう中で、出馬すべきではないと判断し、最後まで新型コロナ対策をやり遂げようと、いまに至っている」と述べました。

【水際対策緩和】「国内外の感染状況などを踏まえ判断」

また新型コロナウイルスの水際対策の緩和について「経団連から、ビジネス往来の再開を含めた提言をいただくなど、ビジネス界のニーズも非常にある。ワクチン接種の進展や諸外国の動向、国内外の感染状況などを踏まえて、社会経済活動の回復に向けて、しかるべきタイミングで判断していきたい」と述べました。

【北朝鮮拉致問題】「退任後も積極的に解決に向け取り組む」

さらに北朝鮮の拉致問題については「当選1回のときからずっと携わってきており、マンギョンボン号(万景峰)の入港禁止の法案を作った1人だ。総務大臣のときは、NHKに対して、国際放送で拉致問題について重点的に放送を行うよう要請した。法律に基づいて要請し、さまざまなことを言われたが、それくらい拉致問題をなんとか解決したい思いだ」と述べました。

そのうえで「拉致被害者のご家族の多くの皆さんが高齢化しており、もう時間がないという中で解決しなければならない問題だ。すべての拉致被害者が1日も早く帰ってくることに全力を注ぐのは、政治家として当然のことだと思っているので、総理大臣を退任したあとも、積極的に解決に向けて取り組んでいきたい」と述べました。

尾身会長「次の政権には今の政権が築いた対策発展を」

菅総理大臣の記者会見に同席した「基本的対処方針分科会」の尾身茂会長は「いまは感染力の強いデルタ株が出現しているが、ワクチンの接種が順調に進み、抗体カクテル療法が出てきたことで新しいフェーズに入ったと考えている。次の政権には、今の政権が築いた基礎をさらに発展させてほしい。そのために3つの対策をお願いしたい。
▼1つは地域の感染が減少しても感染が続くスポットが残ることがあるので若い世代へのワクチン接種を進めるとともにリバウンドを防ぐためにそうしたスポットに集中的にワクチン接種をしてもらいたい。また接種から時間がたつと効果が低下するためブースター接種も検討してほしい。▼2つめは医療のひっ迫を防ぐため、高齢者や基礎疾患のある人への早期検査や早期治療ができる仕組みを早急に作ってもらいたい。▼そして、ワクチンと検査での陰性確認のパッケージについて、多くの人が関心を持っているので運用についてできるだけ早く国民的な議論を進めてほしい」と話していました。

「専門家がすぐに集まり政府や総理に助言する仕組みを」

また新型コロナ対策における行政の課題について「これまでワクチンの接種は進んだが、一方で自治体どうしや国と自治体の間で疫学情報を共有することや保健所機能の体制や検査キャパシティーの強化などではさまざまな問題もあった。政府は問題を十分認識していたと思うが、解決するための責任の所在は少しあいまいだったと感じている」と述べました。

そして「新たな課題に直面する中で医療だけでない多様な専門家が短期間で集まる仕組みが少し不十分だったと思う。政府内にもコアな専門家は必要だが、国内のさまざまな人材をあらかじめ『こういう場合には来てほしい』と任命しておいて、非常時にはそうした専門家がすぐに集まって、政府や総理に助言する仕組みをこれから作るべきだと感じている」と述べました。