「子ども、どうしよう」夫婦ともに感染 東京 40代女性

「熱が40度もあり意識がもうろうとする中で、預け先を自力で探すのは、無理でした」

話を聞かせてくれたのは、都内に住む40代の女性です。

夫婦ともに新型コロナウイルスに感染。5歳の子どもだけが陰性でした。

せめてわが子だけは感染から守りたい。でも、どこに預けられるのかー。

追い詰められた母親の証言です。

夫が感染… 家庭内で対策とるも 私も発熱

女性は、夫と5歳の子どもの3人家族。

ことし7月、夫が発熱し、検査で陽性と判明しました。

毎日仕事に出かけてはいましたが、感染の経路は思い当たらなかったといいます。

夫は自宅療養することになり、女性は家庭内感染を食い止めなくてはと、思いつく限りの対策をとりながら看病にあたりました。

女性
「同じタオルは使わずに、ペーパータオルと夫専用のごみ箱を用意し、はみがき粉の共用も避けました。夫の部屋には入らないようにして、食事や飲みものはトレイに乗せて部屋の入り口に置きました。夫が触ったところをアルコール消毒してまわっていましたがきりがなく、あまり触らないでと言って必要なものは代わりに取ってあげていました。それぐらいしか正直、思いつかなかったですね」

夫の感染が確認された4日後の朝。

目が覚めて、熱っぽさを感じました。

とにかく子どもに近づいてはいけないと思い…

体温はどんどん上がり、あっという間に40度に達しました。

その日は土曜日で、保健所も都の窓口も、電話がまったくつながりませんでした。

女性
「まず、何も食べられなくなりました。水分をとりたいのに飲み込むのもしんどくて。せきがすごく出て、息苦しくなり始めていました。体調の急変ぶりに、頭と気持ちが追いつきませんでした。とにかく子どもに近づいてはいけないと思い、子どもが遊んでいる部屋の机におやつとパック詰めのジュースを山盛りにして、『好きなときに食べていいからね』と声をかけました。寝室で横になりながら子どもの歌声や足音に耳をすませて、ああ元気だなと確認することしかできず、気が気でなかったです」

まさかの入院… 「子ども、どうしよう」

ようやく月曜日。

親子でPCR検査を受けると、女性の陽性が判明。

子どもは陰性でした。

保健所の職員と電話で話す際にも息が途切れ途切れで、職員からは「すぐに入院の手配をしましょう」と言われました。
その瞬間に頭をよぎったのは「子ども、どうしよう」。

その後の職員とのやりとりは、こうだったといいます。

<女性と職員のやりとり>
女性:「まだ5歳の子どもがいます。一緒に病院に連れて行けますか?」
職員:「お子さんも陽性なら一緒に連れて行くこともできますが、陰性だと難しいです。まずはご家族やご親族で預かれる人はいませんか」

女性は地方出身で実家が遠く、近くにいる夫の母親は高齢です。

もし子どもも感染していて義母にうつしてしまったら…。

そう考えると、とても預けることはできませんでした。

<女性と職員のやりとり>
女性:「夫も陽性で自宅療養中ですし、身近に預けられる人もいません」
職員:「一部の病院では託児サービスもありますが、具体的にどこの病院かを教えることはできないんです。ご自身で探していただくことになってしまうんです…」

40度の熱でもうろう 自宅療養の夫に託すしかなく…

女性は当時の状況をこう振り返ります。

女性
「そのときは本当に、人と話をすること自体が苦しく、いっぱいいっぱいでした。40度の熱で頭がもうろうとして回らない中、自力で預け先を探すのは無理だなというのが正直な思いでした」

結局、子どもは自宅療養中の夫に託すしかありませんでした。

まだ体がつらそうな夫に対し「食事は別々にとってね。お風呂に入るときはなるべく距離をとって」と頼みました。

そして、元気に遊ぶ子どもの姿を見て「せっかくこの子だけは陰性なのに…。どうかこのまま元気でいてほしい」と神頼みする思いで病院に向かったということです。

そして、子どもも…

入院してすぐに集中治療室に運ばれた女性。

高濃度の酸素投与や点滴などを受けて、症状は少しずつ落ち着いていきました。
病室に戻って療養していると、夫から電話が。

「子どもが発熱した」という知らせでした。

検査で陽性と確認されました。

女性
「やっぱり感染してしまったかとショックでした。1時間ごとに自宅に電話をして、子どもの様子を確認していました。熱が上がったり下がったりするのが激しくて、どうかわたしほどには症状が重くならずに乗り切ってほしいと願うことしかできませんでした」

子どもだけが陰性という場合、同じ家の中にいながら感染から守ることは困難だと女性は感じています。

女性
「小さい子どもは抱っこをせがみますし、『これ、見て見て』が多いんです。食事も入浴もひとりではできません。『こっちに来ちゃだめ!』を続けていると、『自分が原因でお父さんとお母さんは具合が悪くなったんだ』と思うようになってしまい、それが一番、つらかったです。わたしの入院中も不安だったのか、夜は夫のそばに来て眠ったそうです。同じ家にいながら小さい子どもに感染させないというのは、現実にはすごく難しいことだなと思いました」

自分と同じ思いをする親、減らしたい

その後、夫と子どもは重症化することなく回復しました。

家族3人、少しずつ日常に戻っていますが、女性自身は退院して1か月たつ今も、感染前にはなかった症状に苦しめられているといいます。

まるで頭の周りに「輪」がはめられ、それがぎゅっと締め付けてくるような痛みがあり、ひどいときには、おう吐も。

立ち続ける、座り続けるといった同じ姿勢が長時間続くと、息が苦しくなり、めまいもしてくるということです。

そんなつらい体調であっても今回取材に応じてくれたのは、子どもの預け先がない親を支える仕組みを整えて欲しい、自分と同じように悩む人を1人でも減らせればという思いからでした。

女性
「保健所は非常にひっ迫しているので、すべてのフォローを求めることはできませんし、責める気持ちはありません。ただ、子どもを預かってもらえる場所の情報や、困ったときの相談窓口を知れるだけでも、安心感は全く違ってくると思います。子どもの預け先がなく自宅に置いていけないという理由で、症状が重いのに入院をためらう親もいるかもしれず、その迷いのせいで命を落とすことがあったとしたらすごく怖いし、悲しいことだと思います」

(取材:社会部 記者 藤島温実)